第4話 おわりとはじまり

 ディヴォークが地球を訪れてから5年後、再び人類滅亡対策本部が会議を開いた。



「皆さん、お久しぶりです。本日はお集まり頂きありがとうございます。5年間のデータ収集が完了し、結果が判明したのでお伝えします」


 会議参加者は全員データを見ながら黙っている。


「残念ながら今回の計画も失敗です」

「またか……」

「そうなるだろうとは思ってました」


 本部に異動して5年目のオーロンが落ち着いた声で切り返す。


「ディヴォークさんの見立てが悪かったのではないですか?」

「いいえ、彼の判断は間違っていませんでした。少年は5年間しっかり動いていましたから」

「ならどうして……」

「結局、人類は同じ過ちを繰り返すのだよ」


 オーロンは5年前と同じように声を荒げた。


「それは我々も同じでしょう! もう少し何かできなかったのですか?」

「我々の力で変わったとして、いずれ同じような状況になった時、人類は自分たちだけの手で変われると思うか?」

「・・・」

「我々ができるのは、真実を伝えて見守ることだけなんだ」

「……確かにそうですね。勉強不足でした。申し訳ありません」

「……うむ、次また滅亡の危機が訪れたら、今度は君が地球に行くといい。直接見れば考えの甘さが分かるだろう」

「そうですね。ただ、次が来ることは望みませんけど」

「ふっ、そうだな」


 話が落ち着いたところで司会が再び話し始めた。


「では、そろそろ最終手段の話をしましょう」

「そうだな」

「例のウイルスですか……」

「そうです。これから地球に記憶改変ウイルスを散布します。完了予定時刻は二十時頃です」

「今回もいつもと同じやり方なのだろう?」

「はい。ブレアの中にウイルスを入れて地球に飛ばし、上空で撒き散らす流れです」

「オーロンは初めてだったな。しっかり目に焼き付けておけ。我々の恐ろしい行いと、人類のこれからを」

「……分かりました」

「では始めます」


 司会により実行ボタンが押された。

 数千機のブレアがシャロー族の負の遺産とともに地球へと飛んでいく。

 決して慣れることのない恐ろしい光景。

 これから先、何度見ることになるのか。

 会議参加者はブレアが見えなくなるまで目を閉じなかった。



 ——数分後。


「終わりましたね……」

「始まりでもあるがね」

「そうですね」

「皆さん、これにて会議は終了となります。本日はありがとうございました」


 全員が一斉に通信を切断した。


 ***


 二十時頃、地球にいる全人類への感染が完了した。

 ディヴォークは空を見上げ、少年のことを思い出し、静かに目を濡らしていた。


 ***


 ——翌日。


 人類はいつもより深い眠りから覚め、いつも通りの生活を始めた。

 無事に記憶は改変されており、人類滅亡の危機は遠のいた。



 5年間の責務を終えた少年は、現在大学に通っている。

 ディヴォークに会ったことや、自分が地球を救おうとしていたことなど、関係する全ての記憶が改変されている。

 それでも、少年は今後の人生に期待を持っている顔をしていた。



 これから待ち受けるのは光か闇か。


 人類の歴史は再び動き出した。

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繰り返される改変 平葉与雨 @hiraba_you

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