偉大なるヨーン星人

遠藤世作

偉大なるヨーン星人

 いま、宇宙船を巧みに操り広大な宇宙空間を華麗に泳ぎ回っているのは我輩、もといヨーン星から来たヨーン星人だ。

 ヨーン星は偉大な星。逆に言えば、ヨーン星以外は下等な星だ。だから、資源問題対策として、他星侵略・及び略奪法案が可決された当然のことと言えた。

 そして、我輩はその先遣隊メンバー。法案をもとに結成された先遣隊は宇宙を散り散りになって、侵略、または略奪できそうな星を探し出すのが仕事なのである。

 通常なら時間のかかる作業であるが、そこは偉大なるヨーン星。我が星の宇宙科学技術を持ってすれば、ボタン一つで母星にワープできる装置の搭載もお手のものなのだ。それがなくとも、支給された宇宙船は他星のそれと比べ物にならないスピード性能を誇り、数秒で何億光年と移動できてしまう。

 しかし、それでも苦労はある。降り立つ星の選定だ。周辺の諸外星は、我が母星と同じく資源不足気味。そんな場所を侵略しても、得られる物は少ない。出来るだけ手付かずの、資源豊富な星がよいのだ。

 さらに付け加えれば、宇宙星間条約に批准していなければ尚良い。そういった星なら、他星からのうるさい文句も出ないのである。

 そうして、ついに我輩の御眼鏡に叶った星が見つかった。宇宙から見ても、木々が生い茂っていると確認できる星。しかも、条約に参加しているどの星々とも違う。

 早速、衛星軌道に乗ってこの星を調査した結果、どうやらこの星にも、知能を持った生物がいることが分かった。さらにそいつらは何やら、謎の黒い鉱物を大事に扱い、厳重に保管している。

 さては、とてつもないエネルギーを持つ未知の鉱石だろうか。それを他星に取られないようにと、宇宙国連にも加入せず、その恩恵を独り占めしようとしていたのだろう、そうに違いない!

 なんて横暴な奴らだ、許せん。欲に塗れた下等星人達め、我輩が正義の鉄槌を下してやろう。

 星に近づいて手元の青いボタンを押す。これは指定した物質を、宇宙船へ吸引し真空保存してしまう装置だ。間もなく機械が作動し、黒い鉱物全てが宇宙船へと移る。どうだ、恐れ入ったか。

 ……そうだ、これが我輩、ヨーン星人の仕業であるとも伝えなければ。名もなき星の住人たちは、これからはその名に恐怖し、絶望に打ちひしがれるようになる。そうすれば、これからの侵略も楽になるはずだ。

 今度は赤いボタンを押す。特殊な赤いスプレーが散布され、「ヨーン星人、参上」の文字が、大きく宙に浮かんだ。

 これでよし。では、帰還するとしよう。我輩は最後に緑のボタンを押し、ワープ装置を起動させた。それにしても上手く行った。これで、我輩は母星で英雄として迎え入れられるだろう。偉大なるヨーン星の偉大なるヨーン星人。ふむ、悪くない響きだ。そんなことを考えている間に、宇宙船はワープしたのであった──。


 「なんだ、今のは!」

 名もなき星の住民は一様に声を上げた。ある者は呆然とし、ある者は涙を流している。その中で長老と思わしき人物が、皆を諌めた。

 「皆の者、落ち着け。理由はどうあれ、我が星を長年悩ませた、爆発鉱物は消え去った」

 再び歓声が上がる。彼らは抱き合ったり泣いたりして、とにかく喜びを爆発させた。だが冷静な一人の若者は、懸念を口にしたのだった。

 「しかし長老!あれはこの星以外の空気に触れれば、強力な爆発を起こしてしまいます!無くなった分を合わせれば、それこそ星一つ丸々消滅してしまうほどに……」

 長老は痛ましい表情で、首を横に振った。

 「分かっておる。だが、もはや我々にはどうにも出来ぬのだ。だからせめて、崇め奉ろうではないか。我々を自由にしてくださった救世主、偉大なるヨーン星人様を」

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