最終話

 鷹目医院。


「お大事に。次の人。」


 麻衣はいつものように患者の診察をしていた。


「冷たいけど、少し我慢しておくれよ?」


 少年の胸元に聴診器を当てている中、微かだが揺れを感じた。


「地震……?」


 しかし、地震にしては妙な揺れだ。


 ズシン……ズシン……。


 何かの足音のような、そんな感じだ。


 ズシン!!!!!!


 診療所が激しく揺れた。


「な、なんだなんだ?」


 麻衣は窓から景色を眺めると、そこには……


「な、なんじゃありゃ……!!」


 巨大な怪獣が、街中を歩いていた。





「こちら、羽座間市上空です!」


 ヘリコプターの中から、女性レポーターがマイクを握りしめてカメラに向かってそう叫ぶ。


「ご覧ください!巨大生物です!巨大生物が突如姿を現し、街中で暴れ回っています!!」


 レポーターがそう言うと、怪獣は咆哮を上げる。


 怪獣が咆哮を上げると、上空の彼方から国軍の戦闘機が数機飛来してくる。


『巨大生物を発見、攻撃許可を求む。』


『了解、攻撃を許可する。』


『ミサイル発射!!FOX2!!FOX2!!』


 戦闘機からミサイルが怪獣に向かって放たれる。


 怪獣は口から火の玉を戦闘機に向かって放つ。


『ぐぁぁ!!被弾した!!墜落する!!』


 戦闘機が一機撃墜されてしまった。


『本当に怪獣だな、これは……!!』


『地上部隊!!攻撃を開始せよ!!』


 国軍兵は無線を受け取ると、設置したミサイル砲台とロケットランチャーを一斉に発射した。


 無数のミサイルを浴びるも、怪獣はびくともしない。


 怪獣は尻尾で建物を薙ぎ払うと、再び咆哮を上げたのだった。





「『BUG』が……現実世界で暴れている……。」


 ヨミがそう呟く。


 カナはじっと『UNKNOWN』を見つめる。


「『UNKNOWN』……。」


 カナはそっと、『UNKNOWN』に触れる。


『UNKNOWN』は、カナの方をゆっくりと向いた。


「ずっと……守っててくれてたんだね……。私を……あの怪物から……。


 自分を犠牲にしてまで、私たちを……ずっと……」


 カナがそう言うと、『UNKNOWN』は彼女の方を見つめる。


『本当に……君には済まないことをしたと思っている……。

 私のせいで……犠牲にならなくていい者まで、犠牲になってしまった……。

 許して欲しい……。君を、悲しませてしまったことを……。』


『UNKNOWN』は、カナの頭の中にそう語りかける。


「もう……いいよ……。『UNKNOWN』」


 カナはそう言うと、現実世界へ繋がる穴を見つめる。


「あっちには……麻衣さんがいる……。」


 カナはそう言うと、ヨミに向かって言った。


「私と『UNKNOWN』が、『BUG』を倒した時には……」


 カナの言葉を聞いたヨミが、頷く。


「わかっているわ……。散っていったファイターたちを……生き返らせる。」


「約束、破らないでよ……」


 カナはそう言うと、『UNKNOWN』と向き合う。


「私が、貴女と1つになる。だから……約束して。必ず……あの怪獣を倒して、麻衣さんと、街の人を救うって。」


 カナの言葉に、『UNKNOWN』は頷いた。


 そして、彼女に一筋の光を送る。


 その手に握られたのは、赤と白に輝くカートリッジ。


 カナは頷くと、現実世界に繋がる穴に向かって、カートリッジを構えた。


「チェンジ…………!」


 カートリッジがベルトに挿入され、カナと『UNKNOWN』が光に包まれた。


《Change Code.『U』》


 光の中で、カナは巨人と1つになる。


「私は、貴方……」


『私は……君だ。』


「『私たちは……』」


《Code.『U』










『Ultimate Hero』》











『くそっ!!あの生物にダメージを与える方法は無いのか!?』


 兵士がそう叫んだ直後


 周囲が眩い光に包まれた。


 光の中から、姿を現したのは……


 銀色の身体に、赤いラインが入った巨人。


『あれは……!?』


 兵士がそう言うと、巨人は怪獣と向かい合った。


 怪獣は咆哮を上げる。


 巨人はそれに立ち向かうように拳を構えた。



「信じられない光景が目の前に広がっています!き、巨人です!銀色の巨人が我々の前に姿を現しました!!

 その光景は……まるで特撮ヒーロー番組に酷似したような、そんな景色です!

果たして、あの巨人は何者なのでしょうか!?」


 レポーターがヘリコプターの中から、そう叫ぶ。


 怪獣は咆哮を上げながら、巨人に突進してきた。


 巨人は、怪獣の頭を抑え、地面に投げ飛ばす。


 怪獣はすぐに起き上がると、尻尾で巨人をなぎ倒した。


 巨人が地面に倒れると、怪獣はそのままのしかかり、巨人の肩口に噛み付く。


 巨人が戦う姿を見た子どもが、巨人を見上げて叫んだ。


「頑張れー!!怪獣なんかやっつけちゃえ!!」


 子どもたちが巨人に声援を送る。


 それに続いて、大人たちも巨人に声援を送り始めた。


「頑張れ!!」


「負けるな!!」


「敵なのか味方なのかわからないけど、あいつを倒せるのはお前しかいない!!」


 その光景を見ていた麻衣も、ポツリと呟く。


「頼んだよ……!」


『航空部隊各員へ通達、巨大生物への攻撃を続行し、巨人を援護せよ。』


『了解、攻撃を開始する。』


 戦闘機から無数のミサイルが放たれ、怪獣に命中する。


『聞こえる……皆の声が……聞こえる……。』


 巨人の中で、カナは人々の声援を聞いていた。


『ここで終わりじゃないよね……?ヒーロー……!』


 カナの言葉に呼応するように、巨人は怪獣を投げ倒す。


 怪獣はそのままひっくり返ると、起き上がり攻撃を仕掛けようとする。


 しかし、巨人のアッパーカットが怪獣に命中した。


 怪獣が倒れる。


 人々の歓声が湧き上がる。


『ここで……決める……!!』


 カナはベルトのボタンを押した。


『Ultimate Charge』


 すると、巨人の両腕にエネルギーが集中する。


『この世界は……お前のものじゃない……!!

消え去れ!!!!!!』


 カナがそう叫ぶと、巨人は胸元で両腕をクロスする。


 そこから破壊光線が放たれると、怪獣を閃光が包み込んだ。


「ギャァァァァァァ!?!?!?!?」


 怪獣……『BUG』は断末魔の悲鳴を上げながら、爆散した。


 人々から歓喜の声が上がる。


 喜びの声。


「今、巨人が巨大生物を倒しました!!繰り返します!たった今、巨人が巨大生物を倒しました!!」


 レポーターは興奮気味にそう伝えた。





 仮想空間に戻ってきた巨人は、カナと分離する。


「倒してきたよ……ヨミ。」


 カナがそう言うと、ヨミはニッコリと笑った。


「ありがとう……カナ。これで世界は救われたわ……?」


 ヨミはそう言うと、カナに手を差し出す。


「約束、守らなくちゃ。私があげたカートリッジを……こちらに。」


 ヨミにそう言われ、カナはヨミにカートリッジを渡す。


「カートリッジに保管されし魂たちよ……あるべき場所へと還るがいい……。」


 ヨミがそう叫ぶと、周囲が光に包まれる。


「ありがとう、カナ。貴女が生き残ってくれて……本当によかった。」


 ヨミがそう言うと、だんだんとその姿が薄れていく。


「ヨミ……!」


 カナがそう言うと、ヨミは言った。


「戦いは、全て終わったわ?だから……これでお別れ……。

 私と『U』は、また別の場所に旅立つ……。

貴女に会えて、本当によかった……。」


 ヨミと『UNKNOWN』、そして仮想空間が光に包まれ、そして……



「さようなら、カナ。元気でね?」



 カナの視界は真っ白な光に包まれた。






「………………ん……」


 カナが目を覚ますと、そこは空き地。


「いつまで寝てんのよ、このバカ。」


 ふいに、声をかけられた。


 カナが見上げると、そこにいたのは……


「フタ……バ……?」


 死んだはずのフタバだった。


「幻……?」


 カナがそう言うと、フタバは言う。


「ざーんねーん。あたしは本物だよ。」


 フタバはそう言うと、カナの手を取り、彼女を起こした。


「生き返れたのよ。あんたのおかげでね?」


 フタバがそう告げると、彼女の背後にレナとユウ、カリンが姿を現した。


「みんな……」


 カナがそう言うと、レナが言う。


「貴女の願い、叶ったわね……?」


「ゲームみたいな話だけど、ホントらしい。びっくりだよね。マジで」


 ユウがそう言うと、カリンが不機嫌そうにカナに詰め寄る。


「おい!!クソ野郎!!!!よくもあたしをぶっ殺してくれたな!!!!」


 そう距離を詰めて怒鳴った後、恥ずかしそうに視線を逸らした。


「あ……ありがと、おかげで……その……大事なことに気づけたから……。」


「うーわ、気持ち悪っ」


 ユウがそう言うと、カリンがユウに飛びかかる。


「んだとテメェ!!もっかい串刺しにしてやろうか!?」


「やめなさい……2人とも!」


 レナが慌てて止めに入った。


「賑やかねぇ……。」


 フタバがそう呟くと、カナの方を見て言った。


「あんたは、英雄よ。あたし達だけじゃなくて、この街の人々全てを救ったんだから。」


 フタバにそう言われて、カナは照れくさそうに笑う。


「あぁそうそう、で、『UNKNOWN』って何だったの?」


 フタバがそう問いかけると、ユウも食いついてくる。


「私も気になる、教えて。」


 カリンも後に続いた。


「テメェ!!教えねぇとぶっ飛ばす!!!!」


「私も気になるかも……」


 レナもそう言うと、カナは空を見上げて言った。


「『UNKNOWN』の正体……か。強いて言うなら……」


 カナは一呼吸置いてから、空に向かって言った。


「正義のヒーロー……かな……」





Code.『U』、End

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Code.『U』 rarudo95 @rarudo95

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ