第20話
カナ以外の全てのファイターが散った今、最後に残った彼女の前に、エネミーの少女・ヨミが『真実』とやらについて話し始めた。
「ファイターたちが繰り広げた、一連の戦いは……とある目的の元に行われたものなの。」
ヨミはそう言うと、言葉を続けた。
「その目的というのは……、『U』と一体化できる、強い人間を見つけるというもの。」
「『UNKNOWN』と……一体化……?」
カナの問いに、ヨミは頷く。
「そう。奴を滅ぼすために、『U』と一体化して一緒に戦ってくれる人を探していたの……。」
ヨミはそう言うと、言葉を続ける。
「奴は、ある一人の人間の夢の中から生まれた産物……。
『U』はその人を守るために、奴をこの仮想空間の中に閉じ込めた。
そして、『U』は奴を滅ぼそうとした……。しかし、この世界では『U』の力を最大限扱う事は出来なかった……。
『U』は奴を滅ぼすことが出来なかった……。なら、せめて現実世界に奴が出ることがないよう、『U』もまた仮想空間の中に残り、奴と永久に終わることの無い戦いに身を置く事になった。」
ヨミはそう言うと、一呼吸置く。そして、再び話し始めた。
「奴を滅ぼす唯一の方法……。それは、『U』が最大限の力を発揮すること。その方法は……」
「選ばれた人間と……『UNKNOWN』の融合……」
カナの言葉にヨミは頷いた。
「『U』は自らを倒すべき目標に定め、私に依頼してカートリッジをばら蒔いた……。
そして、ファイター達を戦わせるために、こう設定した。
最後の一人になった者が、『U』と戦う挑戦権を手に入れ、そして『U』を倒したファイターは、どんな願いも叶えられる……って。」
ヨミはカナに向かってこう言った。
「わかってる……、ファイターを騙して戦わせているのと、同じことだっていうのは……誰よりも、『U』が一番わかっていた。
そして、何より『U』は……カナ。貴女をこの戦いに巻き込みたくはなかった……。」
ヨミの言葉に、カナは目を丸くした。
「『UNKNOWN』が……私を巻き込みたくなかったって……」
カナの言葉に、ヨミは言う。
「この街に来た日……、貴女は声を聞いたはずよ?カナ。」
ヨミにそう言われ、カナは思い出す。
電車の中で居眠りをしていた時に、夢の中で聞いた声を。
何故君はここへ来た。
何故来てしまったんだ。
今すぐここから離れるんだ。離れなければ……君は……
『戦い』に、巻き込まれることになる……。
「あれは……『UNKNOWN』の……声……?」
カナの言葉にヨミは頷いた。
「そうよ。『U』がテレパシーで貴女の脳内に送った言葉。
ずっと昔から知っていた……貴女にだけは、この悲しい戦いに参加して欲しくなくて……。」
「ずっと前から……『UNKNOWN』は私を知っていたの……?」
「ええ、貴女が本当に小さい頃……『U』は貴女の夢の中に現れた。
貴女を……奴から救うために。」
ヨミはそう言うと、カナの額に灰色の手を当てる。
氷のように冷たい感触。
すると、カナの頭の中に忘れ去られていた幼少期の夢が浮かび上がってきた。
小さいカナは、真っ黒な影に追われていた。
影はカナを食べようと、大きな口を開けて彼女に迫ってくる。
「た、たすけて!!!!!!!!」
カナは必死に助けを呼んだ。
その時、現れた一体の巨人。
銀色の身体に赤いラインが入った巨人が、影の前に姿を現す。
巨人は、チラリとカナの方を見た。
『私が来たからには、もう大丈夫。』
そう、脳内に語りかけると、巨人は影を光線で包み込み、影と共にどこかへ消えていった。
「そうだ……、助けてもらった……。銀色の……巨人に……。
まさか……あれが……」
カナの言葉を聞いたヨミが頷く。
「それこそが、貴女たちが『UNKNOWN』と呼び、私が『Code.『U』』と呼ぶ存在よ……?」
ヨミはそう言うと、言葉を続ける。
「そして、奴は貴女の夢の中から産み出された産物……。
貴女の心を喰らおうとした、悪しき存在……。
私たちは、それを『BUG』と呼んでいる……。」
「『BUG』……。」
「『U』はずっと、『BUG』が現実世界に侵食しないように、自らが囮となって戦っていた……。
その道中で、戦いに参加してしまった貴女を守っていたの……。
『BUG』からも、エネミーからも、貴女を守るために……。」
ヨミはそう言うと、深刻な顔になる。
「だけど……、『U』の身体は既に限界に近づいているわ……?
貴女も見たでしょう……?真っ黒なシルエットのような、彼の姿を……。」
ヨミの言葉に、カナは頷く。
「もうすぐ……『U』は滅んでしまう……。『BUG』の力で……。」
ヨミは、カナを見つめて言った。
「でも、貴女がギリギリ間に合った……。貴女が……ここまでたどり着いた……。
お願い……。世界のために……『BUG』を滅ぼすために……『U』と一体化して……!」
ヨミの言葉を聞いたカナは口を開く。
「…………話はわかった。けれど……素直に頷くことはできない。」
カナはそう言うと、ヨミを見つめる。
「どんなに理由があっても……、人の命が失われてしまった。
それも……『UNKNOWN』のせいで……。
フタバも……会長も……ユウも……あの子も……みんな、願いを叶えるために戦ってきた。
それが……叶えられないって……。私たちの戦いは……何だったの……?」
カナの言葉を、ヨミは黙って聞いていた。
そして、口を開く。
「…………ファイター達は、まだ完全には死んではいない。」
ヨミはそう言うと、カナのベルトに挿入されているカートリッジを指さした。
「貴女のそのカートリッジの中に……ファイターたちの魂は、ちゃんと保管されている。
『U』と一体化し、『BUG』を倒すことが出来た時……彼女たちを生き返らせることはできる。
私の……全ての力を使って……ね。」
ヨミがそう言った直後、空を見上げる。
「もう……時間がない……。」
ヨミはそう呟くと、カナに向かって叫ぶ。
「そこから離れなさい!!」
「え……」
カナがそう反応した瞬間、空から真っ黒な巨人な何かが落ちてきた。
その姿を見て、カナは目を丸くする。
「あ……『UNKNOWN』……!!」
落ちてきたのは、『UNKNOWN』だった。
真っ黒に染まった彼は、何とか立ち上がろうと全身に力を込める。
そして、カナたちの元に迫ってきた、もう1つの黒い影。
「あれが……『BUG』……!?」
カナがそう呟くと、仮想空間を食い散らかすように『BUG』が迫ってきた。
『UNKNOWN』は何とか立ち上がると、必死に『BUG』を押さえつける。
「ウォォォォンッ!!!!!!」
『BUG』は咆哮を上げると、『UNKNOWN』を投げ飛ばした。
『UNKNOWN』は地面に倒れる。
『BUG』はだんだんと恐竜のような姿を形成していくと、空を見上げた。
「まずい……!『U』の力が弱まったせいで、奴が現実世界に出て行ってしまう……!!」
ヨミがそう叫んだ時、仮想空間がピシピシと音を立てて崩れる。
そして、出来上がった穴に『BUG』は入ったいってしまった。
「このままでは……世界が……!!」
ヨミがそう叫ぶ。
カナは傷つき横たわる『UNKNOWN』を、じっと見つめていた。
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