金木犀

十月も半ばを過ぎた夕暮れ時、私はリビングのソファに深くもたれたまま、窓越しにぼんやり外を眺めていた。


紺青の高い空、茜色に染まる鱗雲。緩やかな曲線を描く土手に家路を急ぐ人々の長い影。そして、夕陽が揺蕩う川の水面――


晩秋の、柔らかな薄暮れの陽が部屋の奥まで届いた刹那、ふとあの甘い香りを思い出した。橙色の星の花の面影とともに。

湧き上る懐かしさにその身を委ねた。そう言えばこの時期だったなと、眩しさに目を細めながら想う。もう、ほとんど思い出すことがなくなっていた十年以上も前の記憶。しかし、何気に浮かんできたその記憶は、私の心の中で未だに鮮明さを保っていた。


人気のない小さな公園。枯れ葉を乗せたベンチの後ろで佇む金木犀。そして、今日のような黄昏の光――


憶えている、私は高校二年生だった。



・・・



「キンモクセイ」

https://youtu.be/Kdq7G39IRi8

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~夢想と夜と音楽と~ 麻生 凪 @2951

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