第26話 回避盾の軌跡

 取り敢えず今週中、という目標は立った。

 問題があるとすれば俺のランクだ。

 今の俺のランクはC。


 当然Bランクに上がるのは簡単なのだが、どうしてもある縛りによって俺の行動は阻害され続けた。

 それと言うのは……


 Cランクダンジョンへの侵入にはパーティが必須という件。

 こちとらBランクダンジョンの生き残りやぞ!?

 という威嚇は通用しない。何せ向こうはこちらの身を案じてくれているのだ。

 特に俺は打たれ弱いというのもある。


 今はピョン吉(ウサギの名前)達がいるのでなんら怖くないが、ダンジョンセンターにはピョン吉達の情報を開示してないのもあってどうにも俺一人で入るのを拒まれてしまうのだ。


 因みに慎はBランクダンジョンに潜っていて、手を貸すどころじゃないらしい。俺がいなくとも、乗り越えてみせるとやる気を見せてるのに、俺も行こうか? という言葉はあまりにも甘い毒過ぎた。


 俺離れを頑張ってる最中に俺がいけば本末転倒である。

 俺は慎の成長を見守りながら要石さんに連絡した。



「頼っち、どうしたの。え? 今週中にランクをAまで上げる? どうして急にそんな事。え、あ、うん。私の為? よくわかんないけど今授業中だから。なんの授業か? 聖女になるためのお勉強だよ。日曜日にもやってる塾があってさ、それでね……」



 俺は彼女に気を遣うように電話を切った。

 いやね、パーティメンバーとして必須の彼女ではあるが、今は自分の将来のためにお勉強中である。

 彼氏としては応援してやりたいじゃん?


 で、仕方なく蘇生させてやった恩義を返す意味でも春日井、狭間両名にも連絡を入れたんだが……



「えー、慎君いないの? じゃあパスで」


「私にまで盾役を押し付ける気? 無理だよ、死んじゃうよ。要石さん見たく私図太くないもん」



 因みに俺の問いかけに対して二人とも一言だけ返して通話を切っている。

 そもそも、俺のスキルと相性の良い連中ってあんまりいないからな。


 そういう意味では要石さんは盤石の布陣だったが、天使の霊獣を引き当ててから聖属性の加護が増えまくって、それで聖女の素質ありと教会側から抜擢された経緯がある。


 要は【洗浄】の成長が聖女として認められたのではなく、生まれた霊獣が聖女らしさを高めてくれたおかげで聖女として抜擢されたのだ。

 卵が先か鶏が先か見たいなやつだな。


 そんなこんなで俺は知り合いを総当たりしたが全滅し、ダンジョンセンターでパーティ募集の応募用紙に記入していた。



「飯狗頼忠様、4番テーブルで募集に合致したパーティ様がお待ちです。契約するかどうかはその場で決めてください」



 向かった先に屯してたのは俺をカモの様に扱き使ってやろうという表情を隠しもしない3人組。

 俺はそのメンバーに笑顔で接した。



「やぁやぁ、君たちが俺を荷物もちとして雇ってくれた人達? 今日はよろしくねー」


「荷物もちっつっても戦闘には参加してもらうけどな?」


「動画見たよー? Cランクモンスターなんか瞬殺なんでしょ? 今日はいっぱい稼がせてもらうからねー?」


「勿論、今回入手したアイテムは山分けだ。相違ないな?」



 全くもって相違ありまぁす。

 荷物持ち以外でのパーティ参加は希望してないってーの。

 それと俺、今装備防具しかつけてないのよ。

 宝箱すら置いてきてんのにどうやって戦闘に参加しろっつー。



「それは問題ないが、俺は荷物持ちとしてきてるから武器とか持ってきてないぞ? 戦闘に参加してもダメージソースとしては期待してもらっちゃ困るな」


「「「は?」」」



 全員の表情が固まった。

 そりゃそうだ、みんなは俺が持ってる武器や倒してくれるだろうモンスター、落とすであろうドロップ品に目が眩んでいるのである。

 しかし俺が欲しいのはCランクダンジョンにパーティで潜った回数、それがBに上がる上で足りない条件になっていた。

 後10回くらい足りないから荷物持ちとしての参加なのに、俺の名前と名声を勘違いしてる奴はこれだから困る。

 


「お前何しにダンジョン来たんだよ!」


「いや、募集要項に書いてあったじゃん! Bランクに上がるのに一定数のダンジョン侵入経験が足りないって。それを加味して誘ってくれたんじゃねーのかよ?」

 

「チッ、アテが外れちまった」


「ホント、ただのお荷物じゃんね?」


「ま、せいぜい肉壁にしようぜ?」


「君らさぁ、本人を前によくそこまでズケズケ言えんね? そもそもお前ら、俺の回避が10000超えてるの知らねーだろ? 魔法だって通用しないんだぞ? イジメるにしたって通用しねーから」


「アレ? もしかしてこいつ最強の壁じゃね?」


「回避盾とか忍者かよ!」


「魔法すら弾くとかワクワクすんな!」



 結局、今日の俺は壁としての立ち回りを強要された。

 ついでに荷物持ちもだ、解せぬ。


 そしてダンジョンに旅立つ事3時間。

 俺たちは再びセンターへと戻ってきた。


 稼ぎはパーティの能力次第なので、ピンキリだが、俺としては良い経験になった。



「いやぁ、今日は稼がせて貰った!」


「シルバーボックスにゴールドボックス! 出たは良いけど鍵がない! 鍵鍵鍵〜〜! 恋してやまないのに限って出てこないのはどうしてなの〜〜!?」


「そればっかりはオーバーキルできるかどうかだからなぁ」



 因みに誰かが金の鍵を大量にオークションにばら撒いたおかげでゴールドボックスの地味な価格高騰が起こりつつある。

 高騰と言っても、10000円が15000円になった程度だ。

 それでも数を持っていけば実入は大きい。


 シルバーボックスはゴミカスで見向きもされなかった。

 世知辛い世の中だぜ。インフレしてると言ったって、一個300円とかドロップ品より安いぞ、どうなってんだこの世の中!


 そして今回どうして俺が宝箱を使わなかったのか?

 俺の取得物ではないから、それで殴りつけることもできなかったんだよね。

 まぁそれに頼ってばかりでも、通用しない相手に出会した時の対処ができないと気づいたからである。

 そういう面では今日壁役をやらせてもらえて良かった。

 待遇は最悪だったが、その分高い回避を活かす戦術を知れたのは大きな躍進だ。



「今日はそこら辺お前に期待してたんだぜ? とんだ肩透かしだ」


「なぁ、お前らは自分の思った様に事が運ばないとすぐ他人を責めるのか? それとも俺なら傷つかないと思ってる?」


「「「お前なら平気だろうと思って」」」


「ぶん殴るぞこんにゃろう!」


「おっと」



 俺は殴りかかった。

 しかしあっさり躱されてしまう。

 ちくしょう、俺は敏捷が低い!

 投擲ならば当てられるが、投げる武器もなんもないしな。


 平均でCランクに来るようなやつは平均的に1000を超えてるような奴が多い。

 とは言っても授かったスキル次第だ。

 今殴りかかったやつは特にスピード特化。

 俺とは敏捷が天と地ほどある。

 逆に幸運は相手と天と地の差があるので回避力は月とスッポンだがな! 俺の攻撃が相手にかすらないのと同様に、向こうの攻撃が俺にダメージを与える事はないのだ。これぞ不毛な戦いである。

 だと言うのに幸運以外のステータスが優ってるからとイキリ散らすCランク探索者達。そう言うところだぞ?



「ホント、お前。幸運以外雑魚だよなー」


「その幸運も自ら封印しちゃうし、魅力半減〜」


「半減どころか消失じゃね?」



 上手いこと言った、とギャハハと笑う三人組。

 人の悪意の集合体かな? Bランクダンジョンの配信コメントの方がまだお行儀が良かったぞ?

 どうにかして懲らしめてやりたいが、あいにくと俺は攻撃を封印して武器を置いてきてしまっている。打つてがない!



「じゃ、山分けタイムと行きたいが、飯狗、お前は一番活躍しなかったからシルバーボックスな? 特別に3個くれてやる。鍵もなきゃただのゴミだが、それで文句はねーよな? ぎゃはははは」



 なお、シルバーボックスの市場価値は極めて低い。

 比較的数が多く出るが、安全に開けられなければただの箱なのだ。

 俺のように高い幸運がなければ、武器として扱っても不発で終わる。

 


「荷物持ち以外に盾役押し付けられたのに、ゴミカス見たいな報酬で嬉しいよ」


「悪いな、うちのパーティは活躍度によって報酬額が変動するんだ」


「山分けって話はどこ行ったんだよ」


「それはお前が悪いんだぜ? 自分の売りを自ら封印しちまうからさ?」



 全員が売れば20万円ほどになる報酬を懐に入れる横で、俺は売っても300円にしかならないシルバーボックスの前に座り、箱の蓋に手をかけた。

 箱は鍵があってようやく価値が認められる。

 箱だけじゃなんの価値もないと言うのが共通認識だが、俺はそこへ一歩踏み込める男だ。

 今回盾役を引き受けたことで強い確信を得ていた。



「じゃあな、俺とお前は今から他人だ。今度はもっと頭の弱いやつに頼むんだな!?」


「ホント〜! 近くにきてあたしらの知り合いだって吹聴しないでよねー? ホント迷惑だから!」


「お前、幸運しか売りがねーのに自分を守る為っつーの? 変に頭働かせてて萎えるわ。もっと賢く生きようぜ? ま、もう会うことはねーけどさ」



 相手の言葉の途中、シルバーボックスが思いっきり開き、中のトラップが発動する。



<飯狗頼忠はシルバーボックスを開いた!>

 トラップ発動!

 無数のカマイタチが飯狗頼忠に襲いかかる!

 飯狗頼忠は華麗に回避した

 ミス、飯狗頼忠はダメージを受けない!

 ミス、飯狗頼忠はダメージを受けない!

 ミス、飯狗頼忠はダメージを受けない!

 ミス、飯狗頼忠はダメージを受けない!

 ミス、飯狗頼忠はダメージを受けない!

 ミス、飯狗頼忠はダメージを受けない!


<飯狗頼忠はシルバーボックスのトラップを乗り越えた>

 高級非常食を手に入れた。


<+5発動!>

 高級非常食を手に入れた

 高級非常食を手に入れた

 高級非常食を手に入れた

 高級非常食を手に入れた

 高級非常食を手に入れた


<+1発動!>

 虹の盾を手に入れた


<+3発動!>

 薄汚れたライフコアを手に入れた

 薄汚れたライフコアを手に入れた


<+2発動!>

 ポーションを手に入れた

 ポーションを手に入れた



「あちゃあ、ゴミだ」



 売れば600億になるだろう資産価値のアイテム群を見てゴミと断じた。

 俺と別れてバカにしてた奴らが俺の手元に転がったアイテムを凝視する。


 因みに狙ったアイテムはアクセルシリーズだったが、売りに出してもオークション待ちですぐに金が入ってこないが問題ない。売らずに壊れた時の補填に回すからな。

 


「どうしたんだよ、お前ら。アホ面並べて。ゴミ箱からゴミが出てきて拍子抜けしたか?」


「お前、今どうやって箱の中身入手したんだよ!」


「力づくで開けたに決まってるが?」


「だって、鍵はどうしたよ! 即死クラスのトラップがあるだろ?」


「気合いで避けた。俺の回避はモンスターの攻撃どころかトラップすらも通用しねーから。それをただの壁に使うとかさー、お前らオツムよわよわ。生きてる価値のないゴミクズ。もう少し頭使って生きたらぁ?」



 俺の渾身の煽りに、先程までマウント全開だったパーティメンバーは顔を真っ赤にしながら俯いてプルプルと震えた。ざまぁ!

 俺に舐めた態度とってたのが仇になったな!

 してやったぜ!



「ね、ねぇ飯狗君? あたしのシルバーボックスも開けて良いよ? 開けてっていうか開けてください、お願いします!」


「え、普通に嫌だけど? って言うか俺らもう他人ですよね? 知り合いヅラするのやめてくれます? 乞食がよぉ。なんでお前らの言い分が通ると思ってるのか、これがわからない。こちとら時給300円でお別れだったんだぞ? お前らに施しなんて与えるわけねーだろ。バーカ」


「後から有能アピールするのずるいよぉ〜〜」



 泣き崩れるパリピ女子。

 知らん。俺を勝手に無能扱いしたのはそちらだが?



「お、お前! そんなことできるなら最初から言えよ! 後出しで自慢するとか卑怯だぞ!?」


「いや、俺だってできるなんて知らなかったぞ? 今日盾役をして、もしかしたらできるのかなーと思ってやったら出来た。そういう点ではお前らに一応は感謝してるぜー? さーて、後二個。何が出るかな〜?」



 俺はノリノリで箱を開け、周囲に阿鼻叫喚の悲鳴が響いた。


 売れば900円にしかならない箱から出てきたのは、資産額2500億の装備達とライフコア、高級非常食にポーションだった。

 俺は全てのアイテムをダンジョンセンターに納品することで、一足飛びにBランクへと駆け上がるのだった。

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