異世界に転生しました②
目を開けると周囲は暗闇に覆われていた。長い時間寝て起きたような、気だるい感覚が体を覆っている。
背中に伝わる感触から、硬い素材の上で寝ていることが分かる。腕を横に動かすと壁にぶつかる。体を起こそうとしたらすぐに額を天井にぶつけてしまった。痛みは感じなかったが、頭への衝撃は大きく波紋のように広がる。
(勢いよく起きなくて良かったな…。硬い何かで上が塞がれているみたいだ。横は壁だし。この壁の硬さや触り心地、多分石だ。)
闇に慣れてきたからか、それとも気づかなかっただけなのか、目の前にざらざらとした質感の石の壁が見えてきた。
(これはいわゆる石棺というやつか、古墳の中とかで見つかるあれ。僕はその中で寝ている。いや、お墓だし埋葬されている、かな。)
普通取り乱しそうな状況に思えるが、妙に冷静に思考を進めることができた。そして、ここまで考えて少し前のことを思い出した。
(そういえば僕は異世界転生したんだっけ………。)
今どこにいるのかとかを確認したいが、この蓋を何とかしないと。多分少しずつ横にずらして開けるのが正解だと思う。でもせっかくだから【チュートリアル】さんに聞いてみよう。
(【チュートリアル】さん、この蓋はどうやって開けるのが正解ですか?)
《この蓋は、マスターの筋力値の場合、両手で持ち上げることが可能です。》
(おっ、反応があった!
初めからそんなに力があるんだ。おっ、結構重い感じがするけど、なんとか持ち上げられたな。)
そう思いながら蓋をそのまま横にずらして棺の外に出た。
広さが10畳程度、高さ3メートル位の部屋の中央に、棺は配置されていた。部屋もまた石造りのようだ。
部屋の奥には、2メートルを超えようというサイズの石像が1つ置かれている。足元付近まであるマントを羽織り、床に立てた幅広の大剣の柄に両手を乗せ、堂々たる佇まいで前方を見ている男性。鎧のようなものは着ておらず、首元からは、大剣とは不釣り合いな細い体躯が窺える。
(【チュートリアル】さん、この像は誰か分かりますか。)
《残念ながら、こちらの石像に関する情報はありません。》
(そうですか。では、この部屋は何か分かりますか?)
《この部屋はピラミッド最上階にある、支配者の墓室です。この墓室は結界で守られており、マスター以外の者が侵入することは出来ません。》
(そっか、安全地帯というわけか。)
《マスター》
(はい?)
《【チュートリアル】はマスターのスキルですので、敬語は不要です。
ピラミッドの攻略というクエストの間の短い期間ですが、使用に当たっては魔力も使いませんので、どうぞお気軽にお願いいたします。》
(ちょっと固かったか。人との距離感の取り方が苦手でして…、話す時はほとんど敬語だったんだよね。
次からそうします!ありがとう。
しかし、魔力があるんだ。魔法があるんだから当たり前か。そういえば自分のステータスって見れるの?)
《はい。こちらになります。》
そう言って、頭の中にステータスを表示してくれた。これが僕のステータスだ。
種族:ゾンビ
体力:13
魔力:12
筋力:11
知力:13
素早さ:3
器用さ:5
運:7
総合:280
スキル:
・
・
魔法:なし
加護:不死の
(ありがとう。しかし、ステータス低っ!殴られたら即死するぞこれ!足は遅いだろうから逃げれないし…。ゾンビだから、しょうがないな…。
それにしてもスキルがすごい増えてる?!転生前に取ったスキルに至っては中になってる。)
《ピラミッドの攻略に必要と思われるスキルを優先的に取得しました。重複して取得したスキルは統合し強化しました。
残念ながら時間が足りず、全てを取りきることはできませんでした。》
(全然大丈夫!全て取りきっちゃダメだと思う!いやー【チュートリアル】さん凄すぎ!
そういえば【チュートリアル】って名前が少し長いんだけど、違う名前を付けたりできるの?)
《スキルに別名をつけることは可能です。スキルを使う際、呼び出しやすい名前をつけておくと、発動する速度を上げられる可能性があります。》
(そっか!じゃあ、【チュートリアル】さんの名前は………トト神からとってトト!賢いからな!)
《トトですね。承りました。》
(共通スキルは大体名前で分かるんだけど、種族スキルにいくつか分からないやつがある。トト、【不死】と【悪食】について教えてくれる?)
《【不死(小)】はその名の通り、死にません。正確には、敵に倒された場合、その場で消滅しますが、しばらくしてまた復活するというものです。復活地点はここ、支配者の墓室になります。
【悪食(中)】は、消化できるものなら何でも食べることができ、食べたものに応じて体力や魔力を回復したり、食べたもののエネルギーを得ることができます。》
(【悪食】もなかなか良さげだけど、【不死】が強すぎないか?!死なない=無敵、じゃないですか?!)
《【不死】にはデメリットがあります。消滅の際、魔物にとってのエネルギーである魔素が消費され、その最大値が半減します。魔素が死を肩代わりするイメージです。魔素が半減することは、その者の強さが半減することを意味します。
また、消滅は精神に多大な負荷をかけるため、それが続くと精神が耐えきれなくなる可能性があります。危機的な状況で消滅が選択肢に入るケースでも、ほとんどの場合、それを選ぶのは避けるべきでしょう。
尚魔素は、それに類するエネルギーを持つ者を倒すことで得られます。また、悪食でエネルギーを持つ者を喰らうことで、微量ですが魔素を吸収することができます。》
(なるほど…。せっかくレベル上げしたのに、死ぬたびに半分になる感じか……。それも精神に大ダメージ込みだ…。消滅してみないと何とも言えないけど、怖すぎる!できるだけ死なないようにしよう。あっ、あと加護にある【不死の兵卒】って何か分かる?)
《転生者は、転生中にランダムで加護を付与される場合があり、その加護になります。加護についての情報は、チュートリアルでは保持していません。ただ、【不死】のスキルは、【不死の兵卒】に関連して得られたスキルと思われます。》
(なるほど、そうなのか。まっ、いいや。トトさん、じゃあそろそろクエスト始めますか!)
《はい。ピラミッドから出るとクエストクリアです。簡単な道のりではありませんが頑張りましょう。
それではまず、ピラミッド内部の探索から始めましょう。ピラミッドはこの世界に数あるダンジョンの内の一つです。ダンジョンでは、敵や宝箱が自動的に生成されます。
【罠検知】を常時発動し、罠を回避しながら進んでください。罠がある場合、そこが赤く光ります。もし敵が現れたら、鑑定でステータスを確認してみてください。》
(ピラミッドはダンジョンなんだ。オッケー!では早速、【罠検知】発動!!!)
部屋の入口付近まで行き、【罠検知】を発動した。思いの外あっさりとスキルは発動してくれた。ホッとしたのも束の間、通路の壁も床もいたるところで赤く光る。かなり沢山の罠が仕掛けられているようだ。
(さあ、行きますか。)
入口の正面は壁になっており、左右に道が続いている。壁には松明がついていて明かりには困らない。左から進んでみる。赤く光る場所を避けて道なりに進む。しばらく進んで壁に突き当たったが、右に道が続いている。また道なりに進む。
少し進むと、遠くの方からゆっくりと、引きずるような足音が聞こえてくる。
《敵が近づいています。【鑑定】を使ってみてください。》
(了解。初めての魔物だ。まだ見えてないけど、近づいてくる敵を【鑑定】!!!)
結果が出た。
(ふむふむ。種族は
筋力は………さっ、300??!!剣のスキルも凄そうなのばっかりだぞ??!!
いや………勝てないよこれ!!トト!…こいつに勝てる気がしないんだけど??!!)
《ゾンビナイトはピラミッド内で上位に君臨する魔物です。今はまだ、戦闘で勝つのは難しいでしょう。
ですが、知能はとても低く、罠を利用して倒すことができます。》
(えっ……罠?)
《はい。むしろ、罠以外で倒すのは熟練の戦士でも困難です。》
(マジ…?!
なんか初めて遭遇する敵にしては強すぎる気がする………。
まぁ敵と戦うというより、罠にはめる感じだけど………。)
《罠を利用して敵を倒すのも1つの戦術とご理解ください。では早速、敵を罠に陥れましょう。》
(………はい。んじゃあ僕は何をすればいい?)
《神聖魔法の魔法陣が設置された罠があります。通常、先にそれを探す必要があります。今回は私がその場所をお伝えしますので、マスターが敵にその罠を踏ませることができれば成功です。》
(さすがトト様だ!罠の中身まで分かるって有能すぎぃ!)
《前方に見える、あの赤く光っている床が神聖魔法の罠です。神聖魔法はアンデッド特攻なので、ゾンビナイトは一撃で消滅するでしょう。》
(ってことは自分も魔法に当たったら消滅するな。まあ、もちろん当たらないが。
さて、罠のギリギリ近くまで寄ってと。あとは敵を呼ぶだけだ)
《マスター、そちらから1歩分下がることをおすすめします。》
(あっ、そう?1歩って、こんなもんかな。じゃあやつを呼ぶか。まだ距離が10メートル以上はあるから、練習も兼ねて【毒息】を使ってみよう。と言っても、耐性があるだろうから効かないと思うけど、こっちに気づいてはくれるだろう。)
僕は敵に向けて【毒息】を吐いた。緑色の濃い霧が前方のフロアに広がっていく。息が届くと同時に敵が小さくよろめいた。毒が効いたのだろうか。そしてうめき声を上げこちら見た。目が妖しく光り、ゾンビとは到底思えない速度でこちらに迫ってくる。
「グゴァァアアアアア!!!」
敵は一気に間合いを詰め、持っていた剣を僕の喉に突き立てようとした。その瞬間、獲物を待っていたかのごとく床から金色の光が上に放射された。
獲物は為す術もなく、その光に包まれて消滅した。残ったのは、僕の喉に僅か1センチ届かなかった剣と、それを握り締めたままの腕の一部だけだ。
(1歩分下がっていなければやられてたな………。)
そう思い、心からトトに感謝するのだった。
(書籍化につき取り下げ)アンデッドに転生したので日陰から異世界を攻略する〜楽しい異世界ライフを送りたいだけなので、魔王は勘弁してください〜 深海生 @fukamisei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。(書籍化につき取り下げ)アンデッドに転生したので日陰から異世界を攻略する〜楽しい異世界ライフを送りたいだけなので、魔王は勘弁してください〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます