(書籍化につき取り下げ)アンデッドに転生したので日陰から異世界を攻略する〜楽しい異世界ライフを送りたいだけなので、魔王は勘弁してください〜
深海生
プロローグ
異世界に転生しました①
僕こと
「土日返上で15連勤、徹夜も何回かあったな…。激務とかいうレベルじゃないだろ!疲れすぎてほとんど記憶ないけど…。
久しぶりの休みだし、何かストレス解消して早く寝よう。また明日から仕事だし…。」
駅のホームで電車を待ちながら、誰にも聞こえないよう押しつぶすように小さく独り言を吐いた。それでも聞こえたのか、近くから人が離れていったようだ…。
ただ、それを気にする余裕もない。三連続の徹夜明けだし、栄養ドリンクで体を誤魔化しているだけだから、やや情緒不安定になっている気もする。
(夢を見せてやりがい搾取するだけの会社なんて最悪だよ!こんな会社、もう辞めてやるぞ!
はぁ、ほんとに疲れた………。またラノベを一気読みでもして寝るか。漫画かアニメでも良いな。)
そんな事を考えながら、ふと反対側のホームを見ると、壁に気になるポスターが貼ってある。
(エジプト展、か。この前インカ展に行ったけど、すごかった…装飾品とか土器とか、見てるだけで楽しいんだよね!
エジプトといえばピラミッドか。ピラミッドは持ってこれないだろうけど、珍しいものは見れそうだ。…よし、いこう!)
古代文明が大好きな僕は、気持ちを切り替えてエジプト展に行くことを決め、博物館へ向かった。平日なのに中は人で混雑していた。
(人が多くてあんまりじっくりは見れないけど、やっぱり楽しいわ。金製の仮面とか、感動して何か少しドキドキした。…ん?あそこにあるのは棺か。ミイラが入ってるのかな?)
近づいてみると、綺麗な装飾が施された2メートル以上はありそうな棺があり、中には布に包まれたミイラが横たわっていた。
(うっわ、すご!!棺も立派だけど、ミイラも今まで姿形が残ってるってすごい。死んではいるけど、ファンタジーで
先程見た金製の仮面よりも感動が大きい。鼓動が早まり、急速に大きくなっていった。
(いやードキドキするわ!
………でもしすぎのような?
…んっ…?…心臓が…苦しい…?!
これは…ヤバい……立って………いられない…………。)
僕はその場で膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。
(徹夜明けで…無理しすぎたんだな………、多分。
意識も朦朧としてきた………。
もしかして、………死ぬのか………?
もしそうなら………過労死…か?
まだ何も………成し遂げて…ない…のに…。)
ITベンチャーに転職したのは、何かを成し遂げたいという夢を見たからだった。しかし会社の実態は、ベンチャーとは名ばかりのただのブラック企業だった。
かくいう自分はどうだったか。何かを成し遂げたいとは言いながら、自分自身で何かを始めることもできなかった。言うは易く行うは難し、なのは確かだろうが、ある程度努力した者が使うべき言葉だろう。僕には使う権利もなさそうだ。
そんなことを思っていると、耳からというよりは、頭の中に直接、やや機械的だがはっきりとして聞きやすい、女性の声が響いた。
《あなたは異世界に転生する権利を得ました。異世界に転生しますか?》
(……Whats?どういうこと?まだ僕は生きてるのかね?声が聞こえる。そんで異世界って何?)
《あなたはまだ生きています。異世界とは、この世界と理を異にする、数多存在する世界の総称です。》
(思考が読まれた?!絶対に口には出していない。この声の主は人間じゃない!………もしかして、あなたは神様ですか…?)
《思考を読んだのではなく、思考部分を共有しています。私は神ではありません、【チュートリアル】です。》
(あまりに予想外の回答です。【チュートリアル】ってあの、ゲームとかの初めに色々教えてくれるやつか。)
《異世界に転生しますか?》
(また聞かれた。するって言ったらできるわけ…?夢でも見てるのか?って言ったら夢ではありません、って言われそう。)
《夢ではありません。》
(ほらね。)
ちなみに異世界転生については人並みに知っている。異世界モノの金字塔である転ズラなど、有名どころは紳士の嗜みとして当然読んでいる。その世界に憧れないわけがない。
(では、もし転生しないとするとどうなりますか?)
《あなたはこのまま亡くなり、この世界で輪廻します。》
(うわーやっぱり死ぬのかぁ…。まだ死にたくなかったな。)
《そうですよね、ご愁傷様です。しかしなんと、今異世界に転生すると、あなたの記憶・知識・経験はそのままに、新しい存在へと生まれ変わることができます。異世界には未踏の地がまだまだ沢山あり、勇気のある冒険者を求めています。灼熱の火山地帯、極寒の凍土地帯、乾燥厳しい砂漠地帯。そして、そこには屈強な魔物達が、常に覇権を争いながら暮らしているのです。そんな危険極まりない未踏の地を、剣と魔法を駆使して切り開く。さあ、そんな異世界に転生してみませんか?》
(何かのセールスみたいだね。突然スイッチが入ったみたいに長文で説明しだしたぞ。でも異世界の雰囲気はつかめたし、さすが【チュートリアル】だ。)
正直なところ、もう死ぬことが決まっているこの世界でまた転生を待つことに魅力を感じない。死んでしまった事自体は、両親に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。しかしそれは取り返しのつかないことだ。もう進むべき道は決まっていた。
(異世界転生、お願いします。)
《承りました。それでは初めに、転生する種族をお選びください。ミイラ、スケルトン、ゾンビの3種類から選ぶことができます。》
(………人間ないんだー。生物ですらもない。種族というか
《こちらの転生スポットの場合、選べるのはミイラ、スケルトン、ゾンビの3種類になります。》
(あー、エジプト展っていうか、棺のせい?あの棺、転生スポットだったんだ…。
この3種類の中でだと、ミイラはないかな。戦い方がピンとこない。スケルトンは武器も持てるだろうし良さそうだけど、打撃系の攻撃に弱いイメージがある。すぐ骨が折れそうだよね。
しいて言うならゾンビかなー。しぶとそうだし、見た目怖いしね。)
《種族はゾンビを選択しました。次に転生地点ですが、ピラミッドしか候補がありません。自動的にピラミッドが選択されました。
次にスキルをお選びください。スキルは最大3つ選択できます。おすすめの
かなりの数のスキル一覧が頭の中に流れ込んでくる。転生地点にはつっこみを入れたいが、どうせ変えられそうにないのでやめておく。
共通スキルは種族に関係なく取得可能なスキル、種族スキルは種族固有の特殊なスキルだろう。
共通スキルは、言語理解(小)、鑑定(小)、収納(小)、色々な耐性(小)、自然回復(小)、料理(小)やサバイバル(小)など便利そうなスキルが多い。(小)が付いているということは、更にその上がありそうだ。ただピラミッドで役に立つものは少ない印象だ。
種族スキルの方は、毒息(小)、腐息(小)、悪食(小)など、ゾンビらしさがある。
(うーん、良く確認したけどあれがないな。多分、あれがあるのと無いとでは、転生直後に生き残れる確率が全然違ってくると思う。
………あのー、あなたのような、【チュートリアル】というスキルは無いんでしょうか?)
《存在します。共通スキルの1つですが、転生後しばらくすると利用できなくなりますので、あまりおすすめしません。【チュートリアル】を取得しますか?》
(ですよね。ただ、転生直後が1番危険だと思う。何して良いかも分からない気がするんだよな…。
………【チュートリアル】、取得します!…あとは【鑑定(小)】と【悪食(小)】でお願いします。)
《承りました。》
【チュートリアル】がそう言うと、すぐに別の声が僕の頭に響いた。
〔【チュートリアル】、【鑑定(小)】、【悪食(小)】を取得しました。〕
【チュートリアル】の声と比べて、はっきり聞きやすい女性の声という点は似ているが、別人の声だ。
《スキルの取得、ありがとうございます、マスター。これからよろしくお願いします。》
今度は【チュートリアル】の声だ。
(あっ、マスターって僕か。よろしくお願いします!)
《【チュートリアル】のスキルは既に起動しています。尚、転生中に最適スキル自動選択機能が利用可能です。
種族や状況に最も適したスキルを自動的に選択して取得する、初級者支援機能です。利用しますか?》
(えっ?転生中にスキルが取得出来るんですか?)
《はい。転生中に肉体と魂の再構築を進める中で、転生者は特典としてスキルを取得できます。通常、そのスキルは短時間にランダムで付与されます。
しかし、【チュートリアル】の支援機能を利用すると、そのランダム性を軽減することが可能です。》
(【チュートリアル】できる子だわ!!!ではお願いします!)
《承りました。最適スキル自動選択を起動します。それでは転生を開始してもよろしいですか?》
(…はい!)
《承りました。転生を開始します。》
僕の意識は少しずつ薄くなっていく。そんな中で、【チュートリアル】だけは自分の仕事を淡々とこなしていく。
《転生シーケンス開始を確認しました。特典スキル付与フェーズ開始を確認しました。【言語理解(大)】の取得依頼を送信しました。取得に失敗しました(理由:本フェーズで取得可能なスキルは小のみの為)。【言語理解(小)】の取得依頼を送信しました。取得に成功しました。次に…》
聞こえる声が段々と小さくなり、やがて僕は意識を失った。
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