もうひとつの英雄譚

「そんなことが……」


 アルシェは真実を告げられ返す言葉を模索しても見つからず次の言葉に繋げられずにいた。


「わかったでしょ。これ以上私達に関わらない方がいい」


 メリナの言葉には力がこもっていて転校してきたときの暗い雰囲気は全くなかった。


「……」


(そうだよな……僕にはメリナみたいな特別な力なんてない。凡人だ)


「えーー??そんなことないよーー!だってー、結界に入れたでしょー。そもそもーこの学校もーー加護を得た人を探すためのーー場所なんだよーー」


 メリナの言葉に俯き何も言えずにいると、心がアルシェの肩を掴んでくる。


「!!それってもしかして」


 心の言葉に僅かな期待をよせるアルシェ。もしかしたら自分にも転生者に劣らぬ力が眠ってるのでは?不謹慎に思いつつも自分がワクワクしてるのが解ってしまう。


「心さん!!こんな奴は必要ないです!!私が皆さんを殺して見せます!!あなたもそんな中途半端な気持ちで私達に関わらないで!!」


 徐々ににやけていくアルシェを見て腹正しくなるメリナ。その憤りを心に向かって伝える。


「あ、ご、ごめ」


「うん…うん。わかるよーー。でもねーー」


 先程まで穏やかな表情で話をしていた心だが怒りを顕にするメリナに向かって同じく険しい表情を見せる。


「あなたの感情はわかる。あなた1人で確実に転生者殺しが出来ると思ってはいない。戦力強化や英雄譚の保持者を見つけるのは決定事項なの」


「っ!!」


 心に言われて言葉を詰まらせてしまう。それでも生半可な覚悟で関わってほしくないという感情も正直な気持ちではある。


「えーと、僕はやるとは……えっ?誰」


「ハロー!!君がアルシェ君だね」


「だ、誰?」


 身体を捻り捕まれていた肩から脱出したと思ったら今度は肩を組むように引き寄せられた。


「やっときたーー」


「は、はじめさん」

 

 呼川一とよばれる青年が現れる。特に、この世界で活躍した経歴はない彷徨者。


「まぁ、真実をしっちゃったからねーー口止めお願いーー」


「りょーかい!!フェイク!!」


「うぉ!!えっ?」


 アルシェが光ったが身体に何の変化も感じない。


「ま、俺っちのスキルはね誤魔化って言ってね。フェイクとかダミーとかデコイとか何かを移しかえたり避けたり信じさせたり嘘にしたりするスキルなんだぜ」


「へ、へぇ」


 言葉にしてもスキルの概要はアルシェには理解し難かった。その後、噛み砕いた説明を心にしてもらった。

 自分が今告げられた真実を誰かに話すとき相手が必ずそれを嘘だと思ってしまうスキルらしい。


「そ、そんなことしなくても話さないです」


「まぁ、一応ねーー。それでー英雄譚を開花させる訓練をーー受けたくなったらーーいつでも言ってねー」


(こんなことされて訓練をうけるわけないか)


「あなたは邪魔にしかならないわ」


「ぐ…そんなこと!!」


 ぶっきらぼうに言われたアルシェはメリナに対峙する。


「決めた。俺もその訓練受ける!!」


「いやぁ、熱いっすね。ラノベ的」


「そうだねーー。欲を言えば女同士ならねーー」


「心さん。そっち系だったんすか。」


 アルシェとメリナが激しく言い争う中で、心と一が微笑ましく見守っていた。この会話は届いてないようだ。


「で、どうなんすか?」


「アルシェ君?一応ーー英雄譚の保持者だよーー。まーねー目覚めるかはーー別問題だよー」


 アカシックブックの他に現地神の神託が書かれた紙を見ることも出来る心はアルシェが別の世界線では英雄になることも知ってはいる。

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転生者と奪われし英雄譚 思春期の老害 @rougai

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