第9話・後編 盾とテントとビーム砲

「敵の機械人形がくる! あんたたちは退避してくれ!」


「馬鹿な事言うんじゃない! これだけのけが人がいるんだぞ!?」


 医者たちの安全を確保したい兵士と、けが人を見捨てるわけにはいかない医者とで衝突が起きている。

 すると、先ほどの門番が率先して動き出す。

 機体は五メートル程度と小さめだが機動力があるらしく、全体的に箱が連なったような角ばった外観をしており、胴体を四方向から支えるブースターは水平移動に強いようだ。


 その様子を遠巻きに見ていた僕だが、輸送隊の隊長から再び声をかけられる。


「旅の機械人形! すぐに戻ったほうがいい!」


 彼らからしてみれば、旅人を自国の問題に巻き込みたくないことは理解できるが、どう考えてもあのけが人たちを、ここから運び出すことは無理だ。


「アルベリア先輩、僕はあの三機を迎撃するつもりです。いいですか?」


「問題ないわ。けが人をむざむざ見捨てられないものね」


 あの巨大な機械人形がどれほどの性能か知らないが、あの門番だけで抑えられるものとも思えない。


≪迎撃は手伝います。あくまで、あのけが人たちを守るためです≫


「それは助かるが、後ろめたさで素直に喜べんな」


 僕は輸送隊の運ぶ荷物をチラリと見やる。


≪それ、試してみていいですか≫


「ああ! もちろんだ!」


 荷車を破壊してしまわないよう、慎重にマニピュレータを近づける。

 いざ握り込んで持ち上げた黒い鉄塊は、ライフルのようだがエジェクションポートのようなものも確認できない。


 しかし、ヴァーデはドライバーシステムが無いとエラーを吐いた。


「動かせないの?」


「難しいというだけです!」


 もう一方のガントレットに見えるものは、ちょうど左腕に装着することができた。


「こっちはビームシールドというのか? F91みたいなものかな」


 表面には規則的に幾つかの穴が空いており、それ同士は何かの導線で繋がれている。

 その様子は旧約聖書の生命の樹のようでもある。


 こちらはすんなりシステムと噛み合い、試しに起動してみれば、鮮やかな水色の光が幕となって、それが盾を形成している。


 ビームバリアーとは異なり、もっと直接的なビーム兵器なのだろう。


 光は、そのシールドの穴から出力されているようであり、導線は偏向装置であるらしい。


 だが次の瞬間、暗い曇り空の平原はカッと明るくなる。


 彼らの相手国が運用する機械人形から大出力ビーム砲が放たれたらしく、それが空を埋め尽くしたのだ。


「熱いッ! ひ、光の雨が!?」


≪盾を被っていてください!≫


 ビーム兵器とは、粒子をまとめて発射しているようだ。

 だからこそ、その射線付近には、いわゆる『光の雨』が降り注ぐ。


 二射目、三射目と続けて発射されていくが、その全てが野戦病院の上空をいく。


「なんでずっと空に撃っているの!?」


「ビームの特性を理解しているから、遊んでんですよ!」


 それが意味するのは、動けない怪我人がいるテントを、直接ではなく、光の雨で燃やすつもりなのだ。


「正気でやっているのか!」


 最悪戦争に発展したとしても、戦場での節度がわきまえられているならば、そこまで悲惨な状況にはならないだろう考えていた時期があった。


 しかしウクライナの道が血で染まったように、現実は辛いからい


 僕は巨大な機械人形をバトルライフルで攻撃するつもりだったが、門番機の攻撃があまり有効でない事から、桁違いの重装甲であるらしい。


 もしかしたら攻撃が通るかもしれないが、貴重な弾を大量消費する可能性もある。


 今は、このライフルらしき武器に頼るべきか。


「ウェポンシステムを起動。システムとリンクさせる。そうじゃない、直通ではなくて、間にFCSを噛ませるんだ」


 マガジンらしいものが刺さっているので、どんな弾が出るか知らないが、おそらく撃てるだろう。


 機体をジャンプさせ、ひとまず野戦病院と相手の間に着地。

 骨に電撃を浴びたような衝撃を身に受け、機体を付近の雑木林に隠す。


 まずは武器のセットアップをしなければならない。


 ヴァーデは武器の調整をどうすればいいかわからないらしく、コンソールから直接入力することになる。


「収束レベルと重力値の調整と、コリオリはまだいいか。ということは、これはビームライフルだな?」


 巨大機械人形は、逆関節二本脚の上にイージス艦の主砲のようなターレットが乗っている。

 大きく、かつ短小な銃身からは、先ほどの大出力ビームが絶え間なく発射されており、攻撃を加える門番機へは近接防衛火器である小型ミサイルを大腿から乱射していて、その煙の線は翼のようにも見える。


 門番の彼が持っている武器は、グレネードランチャーのように見える武器で、おそらく成形炸薬弾HEATと思われる弾頭を連射している。

 だが、巨大機械人形のビームバリアーが弾頭を破壊してしまっているせいで、着弾してもメタルジェットが発生していない。


 ビームバリアーがケージ装甲のような役割を果たしているところを目の当たりにすると、ミリオタとしては思わず感心してしまうが、そんな場合ではない。


 諸元入力を終え、何とか稼働を確認する。

 物理的な引き金と、僕自身が両手に握るレバーの引き金。

 どちらでもよいが、本来、武器側の物理トリガーは電子系が破損したときの緊急手段である。


 僕は引き金を引くと、それは引き切る直前に引っかかる。

 PS5コントローラーのアダプティブトリガーと言えばわかりやすいだろうか。


 一段階目ではビームのチャージをはじめ、おそらく引き切ると発射するのだろう。


 僕は、ビームシールドを輝かせながら、相手の注意を引くようにして、その背後に回り込む。


≪畜生、まだいたのか!≫


≪あんな機械人形を発掘したとは聞いてないぞ!≫


 僕は三機がちょうど重なるように立ち回る。

 そうすれば、彼らは味方ごと撃つわけにはいかず、三機から集中砲火を受けることはなくなる。


(彼らは無線機を使えているのか? 発光魔法だけでは繊細なコミュニケーションはできないはずだが……)


 だが、前にヴァーデに相談したときに、無線機は搭載されていないときっぱり診断結果にあったものだ。


 だが油断が死を招くもので、巨大機械人形の大出力ビーム砲は、すでにヴァーデを捕捉していた。

 推進装置がなければ避けられない。

 ふとアルベリア先輩の気配を背中に感じ、その瞬間、僕の全身から血の気が失せた。


 しかしその瞬間である。ヴァーデの全身がまばゆく光ったのだ。

 ヴァーデは僕の操作を受け付けなくなり、巨大機械人形に突進すると同時にビームバリアーの光が機体の中心へ収束していく。


 無数の衝撃が一斉に襲い掛かり、視界は様々な光で埋め尽くされる。

 僕も先輩も、ただ衝撃に対して身体強化で身を守ることしかできなかったのだ。


 発射された大出力ビームに合わせ、収束した光を解き放つ。

 それは光の爆発となって周囲二十五メートルをあらゆる敵弾と共に吹き飛ばし、飛びのこうとした巨大機械人形も吹っ飛ばされる。


 ヴァーデの攻撃は終わらない。

 チャージを終えたビームライフル。

 吹き飛ばされた機械人形と、後列機が重なった瞬間、『ゴキューン』という発射音と共に水色の光線が放たれ、巨大機械人形を三枚抜きにした。


 そして、騒動に幕を閉じるかのように、ビームライフルからバッテリーのようなものが排莢されたのだ。

 古い映画のガンマンが、銃口から立ち上る煙を吹き消すかのようでもある。


 これが本領かどうかはわからない。

 しかし確かに、僕は戦闘兵器としての本質を目の当たりにしたのだった。

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