第7話 食事? お買い物? 冒険者ギルド

 赤、オレンジ、緑、白。

 色とりどりの建物が立ち並ぶサディナの街は、海に面した国であり、港にはボートが並んでいるが、海路は発達していない。

 その要因となるのは、海に生息する魔物のせいだという。


 全天周囲モニターから世界を見渡していると忘れがちだが、ここは魔法もあるファンタジー世界である。


 そんな異世界で、僕は美人なアルベリア先輩と、絵にかいたようなデートをしている。


「この服はどう? 似合ってる?」


 白いワンピースは、スカートに細やかな刺繍が施されており、質感も上質なものである。


 しかし、ただ「似合っている」というだけではだめなのだろうか。僕は女性経験が前世でもほとんどなく、だからこそ地雷原を歩くような慎重さになっていた。

 ゆくゆくはそれが裏目に出ないことを祈るしかない。


「僕は似合っていると感じます。そうですね、先輩は白すぎませんか?」


「確かに白一辺倒ね。ちょっと子供っぽいかしら」


 いや、むしろとても似合っているのだが、先輩は魔法剣士科の出らしく体格がいい。肩幅も広いという意味だが、だからこそ子供っぽく見えるのは犯罪チックな香りがしてならない。いや、別に問題はないか。


 青みがかった黒髪、ライトブルーの氷のような目、真っ白な肌。先輩はわかりやすく青の印象が強い。

 それが分かっているならば、コーディネートは簡単だ。


(僕的にはスポーティーな服装が好みなんだけど、そんなものはこの世界にないものな)


 前世で外を出歩いているとき、オシャレだなと思った他人の服装はできる限り覚えておくようにしていて、その記憶は例の前世記録ノートにもスケッチしてある。まさかこんなところで役に立つとは思っていなかった。


 ノートにあるのは、いわゆる現代的なものであるので、スケッチの完全な再現とまではいかない。

 しかしその中でもアルベリア先輩をより引き立てる服を選んだつもりである。


 大人びたコーデから、活発に見えるものまでいろいろ試着した。

 だが、先輩の服装がいいと感じるたびに悲しくなる。


「でも、すみません。情けないことに、これだけを買える余裕は……」


「ええ。わかっているわ。余裕ができたときに、いつか買いに来ましょう」


「そうですね。そうしましょう」


 RPGなら全財産を『やくそう』につぎ込む序盤だが、今は彼女との最大限の贅沢を楽しんだ。



 街をめぐってしばらくした後、僕と先輩が行きついたのは『冒険者ギルド』である。


(異世界転生ものと言ったら、結局これだよな)


 実は、門出にあたってドーラ将軍からとある物を預かっていている。

 いわゆる紹介状というもので、要は、実力者が未知数の人間をあらかじめ評価したという旨のものだ。

 これが認められれば、初心者でも高難易度クエストに行けるというわけだ。


 当然こちらにもヴァーデが居るので、このままドラゴン討伐でもいいかもしれない。

 いや、この慢心が死を招くのかもしれないが。


 開きっぱなしの扉からは、酒場らしい賑わいが聞こえてくる。


 ふと、自分の服装を見る。一応、鎖帷子くさりかたびらとレザーを組み合わせた軽装鎧を門出に際して用意してもらったので、冒険者らしい恰好ではあるだろう。


 緊張しているわけではない。あの時、目の前のコンビニにビームが落ちたところを目の当たりにしたとき、僕は自分に降りかかる死やプレッシャーに物怖じしなくなった。

 だからこそ、ヴァーデとのめぐりあわせがあったのだと信じたいが。


 ギルドは、ゲーマーにとって落ち着くような場所だ。

 テーブルがいくつかあって、二人ぐらいの受付嬢と雑貨を売る売店がある。


 モンスターハンターと違うところは、たくさんの冒険者たちの喧騒でガヤガヤしているところぐらいだろうか。


「すみません。登録をしたいのですが」


 受付嬢にそう言うと、紹介状も一緒に差し出す。

 それを見た彼女は「少々お待ちください」と言うと、裏の方へ行った。


 すぐに戻ってきた受付嬢は確認が取れたという話をすると、僕と先輩は銅の証を渡された。

 この銅色が冒険者として駆けだす最初の色である。

 ただし、これからすぐに高難易度のクエストに行けるというわけではなく、あくまで昇級が早くなるというものである。


 いずれにせよ、有難いことだ。


 人生初のクエストは、オオカミのような魔物が畑を荒らすので、それを討伐してほしいという旨の内容。

 ギルドには冒険者とハンター狩人の二つのランクが存在しているらしい。

 冒険者が地図を埋め、それを元にハンターが活動する。

 そういう関係になっているが、僕と先輩はその両方を取得した。

 機械人形で存分にズルするつもりである。


 ボードの張り紙をもらって、それと売店から地図も。

 僕たちは研究所で預かってもらっていたヴァーデのもとへ帰る。


 研究所に戻ると、僕はある異変に気付く。

 真っ黒だったヴァーデの色が変わっているのだ。


 白を基調に、紫色が入ったカラーになっており、装甲の表面は光の反射で紫色に輝く。

 この色味は、このユリウス・ヴェルナーの髪の色と同じだ。

 おそらく、僕の髪の色をマネしたのだと思われる。


「いい色じゃないか。これがいいのか」


 コンソールには、光学迷彩機能に関するテキストが見える。おそらく機体カラーを自在に変更できる機能だろう。

 所属部隊別のカラーなどを探したが、やはりデータは空である。

 ところでカラーリングを変更しようとすると、ヴァーデは暗に嫌がった。


「待たせた。それじゃあ行こうか」


 先輩が後部座席に乗り込んだのを見て、両手のブリップを握りこむ。

 機体を立ち上がらせて、依頼者のいる畑へ動き出した。


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