第6話 機械のぬいぐるみ

「では、使えたのかね」


「そりゃそうですけど、弾は消耗品ですから、出土に頼っていたらいつか使えなくなりますよ」


「なるほど、君はどうやら我々の研究以上に知っていることがありそうだね」


 機体から降りたら、研究員たちからの質問攻めにあっていた。

 機械人形を理解して運用している人間は、NO.sにいるかどうかも怪しいのだと。


 無人機たちとの戦闘の後、地表に置いてあった濃紺の土塊をあらかた削り出した。

 しかし、あったのは、ほとんどが120mmライフルの弾と予備パーツであり、それ以外には何もない。


 しかし、装備が一か所にまとめられて、だからまとめて破壊されてしまうという事故は防がれるわけだ。


「しかし、敵がいるかもしれないのに、ここで調査することはできませんな」


「まったくだ。我々の馬車では運ぶのも難しいし」


 研究員たちの会話を耳にすれば、動揺こそしていないものの、足もとの不安定を懸念している。


「僕からもミタライさんを学者として聞きたいことがあるんですが、このカードと同じものを見たことがありませんか?」


 僕は、レア・マトゥイの音声が保存されていたカードを見せる。

 ヴァーデの機能を復元するための方法。カード集めは優先すべき行動だろう。


「ふむ……。ああこれね。一つは、うちの研究所が保管しているよ」


 研究員たちの会話を意識して、武器を運ぶ手伝いをすると申し出る。

 それでカードを使ってくれていいとのことだったので、僕と先輩はもう少し彼らと行動を共にすると決定する。




 研究所までの道のりは一日を要し、それは南海岸沿いの『サディナ』という国にあるようだ。

 建物は、オレンジの屋根が並んでいる。

 ストックホルムに似ていないでもない。

 それなりに大きな街だ。


「てっきり僻地にあるかと思いました」


「前はそうだったのだが、いざ山賊やらに襲われると敵わないから、場所を移したんだよ」


「軍隊が居るからってことですね」


 彼らに銃の脅威はあまり知れていない。

 だからこそ、堂々とライフルを持っていても怖がられることはない。

 それに研究所もあるのだから、サディナの人たちは機械人形のような存在に対して慣れているようだった。


 うれしいことに、研究所は街の外側にあるので、街路を歩く必要はなかった。


「カードとは、これでいいか?」


 ミタライさんから手渡された茶色い取っ手のカード。

 横面には、見事な達筆で「木」とある。

 思ったより上質な外観と、触り心地のいいサラサラとした感触だ。


「おそらくそうですが、当たりかどうかは差してみてのお楽しみですね」


 僕は早速、カードを座席の差込口に挿入する。

 すると、コンソールには『3クエタバイト』というとんでもない桁のデータサイズを見る。

 ちなみになんのデータかは分からない。


 よくSSDなんかはギガバイトやテラバイトが一般的だろう。

 テラバイトの上がペタバイトで、その上がエクサ、ゼタ、ヨタ、ロナと続き、その先がクエタだったと記憶している。


 システムの計算機に突っ込んでみたが、3クエタはテラバイトに変換すると、「3458764513820540928 TB」という表示が出てしまった。


 ヴァーデはデータのインストールに三時間が必要だと計算する。

 いやむしろ三時間程度でインストールできるものなのかと、目前のSF感に気分が高揚する。


 その間、僕は研究員たちと機械人形の話をしていた。アルベリア先輩も楽しそうにして聞いている。


「この記号が『六』を意味して、こちらは世代やカテゴリーを意味する単語、そして、その次が機械人形という意味の古代語だと我々は考察しています」


「六は正解ですね。GENERATIONは世代で、”ST”riderは機械人形と訳してもいいかもしれませんが、意味としては『大股で歩く者』だと思います」


「大股で歩く者ですか……?」


「巨人って意味です」


「ああ、なるほど」


「だから機操士はランナーっていうんですよ」


 ホワイトボードのような板に、魔法のペンを使って黒い字を書きこむ。

 消すのも簡単で、ペンの方には定期的に魔力を補給してやればインクの補充となる。

 かなりコスパが良い。これのコストなど知らないが。


「まだ十全に調べられてないでいませんから、世代や種類によってどのように違うのかわかりません」


「それは仕方ないでしょう。でも、知ろうとすることは大事だと僕は思っています」


 その後、三時間と数分でインストールが完了し、ヴァーデはとある機能を復活させた。

 UIに、一つ表示が追加される。

 視界上部に太いゲージが一本出現したようなのだ。

 だが、今は空っぽの枠でしかないらしい。


≪この機能を使ってみます。念のため離れて≫


 すると、青色の閃光が機体周辺を奔る。


「どういう機能なの?」


≪ビームバリアーってありますけど、硬くなったのかな≫


 ビームというから、CIWSのようなものとして、光線で敵弾を迎撃するシステムをバリアーと例えたかと考えたが、どうも金属粒子のようなものを並べて、ドーム状のバリアにしているようである。


 バリアーが展開すると、ゲージも同じように伸び始めた。


≪なるほど、ゲージはバリアか≫


 これで一つ目のカードを入手したのだが、これ以降の手掛かりはどうするべきだろうか。

 今回はミタライさんがたまたま持っていたからよかったが、次から手当たり次第にカードの在りかを訪ねるということも危険に感じる。


 機体から降り、アルベリア先輩と今後のことについて相談する。


「いえ、一日二日はここで休憩していきましょう。急ぎの旅じゃないんですんで」


「そうね。サディナはいい街なんですから、観光に行きましょう」


 研究者たちを相手にして疲れた頭には、良い休養になるだろうし、アルベリア先輩の声も弾んでいる。


 彼女のような美しい女性と一緒に観光ができてうれしくない男はいない。


「あ、でも、お金を稼ぐ方法は考えておかなければいけませんね。このままでは飯も狩りで取らないといけなくなる」


「それなら、冒険者ギルドに登録しておけばいいのよ。危険度の高い依頼も、機械人形があればこなせるわ」


「そう簡単に行きますかね? うぉッ」


 僕は彼女に手を引かれて、街のほうへ引っ張られて行く。

 考えることはしばらくやめて、僕はアルベリア先輩の存在に集中することにした。




―――

あとがき


途中のバイト数計算ですが、「バイト計算」で検索して出たサイトを使っている関係上、おそらく1024倍で計算されたものだと思いますが、ヴァ―デくんが二進数で物事を考えるコンピューターであるということまでは設定してないので、疑問に持たれても雰囲気で流してください()

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