第5話 よちよち歩きの銃撃戦
機械人形は、歩くと「ガシュ」という、ガスが抜けるような音がする。
駆動音も軽く見た目以上に軽い。そのことは、足跡が存外深くないことからも察することができる。
機械人形を避けていたといったが、訓練ぐらいはしていた。
いざとなって動かせないなど話にならないからだ。
ところで、この機体の操縦機構は「
つまるところ、この首に繋がっているケーブルのことなのだが。
初めてこれに乗ったときは、確か機体の方へ意識が移ったが、これにはいくつかのオプションが存在している。
今は意識を体に保ったままの操縦を行っており、こちらの方が脳への負担が少なそうなのだ。
実際それで、あの時は激しい頭痛と吐き気に襲われた。
それに、そうでなければ全天周囲モニターになっている理由がない。
「先輩は特になんともないですか?」
「ええ。乗り心地は大丈夫よ」
出発した後。あまり乗り心地が良くないということで、ヴァーデにコックピットのショックアブソーバーを再現できないか相談すると。応急稼働という形でマシになった。
それで、そのヴァーデなのだが、一つ問題が発生している。
ヴァーデは自分で記憶を消してしまったのだ。
一年間、レオネシアの人々の生活を見て、これまでのデータは使えないと判断したのだろうか。
ともかく、最初の時のように、コンソールのチャットを使うことはなくなり、ヴァーデが何を考えているかはFTCSを通じて感覚的にしかわからないし、融通が利かない奴というより、赤子に戻ってしまったような状態である。
「まずはどこに向かうの?」
「とにかく、コイツが掘り起こされたところへ行きます。もしかしたら、武器も一緒に埋まっているかもしれないので」
初めての戦闘から一年たっても、ヴァーデは丸腰である。
道をガタガタにしないように、横の草原を歩いていた。
僕たちはその途中である人たちと出会う。
「おーい! そこの機械人形!」
甲高い男性の声。
声がした道の先をズームして見ると、そこには馬車の車列がある。
ゆっくり移動する馬車から飛び降りてこちらに走ってくる小柄な男性。
彼が声の主らしい。
「声の通る人だな」
「知り合い?」
「知りませんね」
手元を操作して、音声を外部スピーカーにつなげる。
≪なんです? あ、攻撃の意図はありません≫
「そりゃあそうだろう! レオネシアが持って行った人形だからな!」
丸い眼鏡をかけた彼は、何やらヴァーデのことを知っているらしい。
その服装は、どこか研究者というか、衣装じみたものだ。腕章とそのマークを含めて。
≪知ってるんですか? ヴァーデのことを≫
「ヴァーデというのか? いや、本格的な研究をしようというときにレオネシアが押し掛けてきたからさ。言い値で売るしかなかったんだよ」
背もたれから顔を出した先輩が、男性に尋ねる。
≪研究者なのですか?≫
「ん? 二人乗れるのか?」
止まっていると思っていた馬車の方を見ると、こちらを気にせず進んでいた。
≪ああ。馬車行っちゃいますよ≫
彼をすくい上げると、馬車の方に歩いた。
荷車のテントにも、彼の腕章と同じマークが書かれている。
何かの一団だろうが、戦闘などに明るいようには見えない。
「僕はミタライという。古代研究所の者だ。研究所は読んで字のごとく、機械人形をはじめとした、遺物の研究をしている」
(御手洗? 日本人みたいな名前だな)
話によると、彼らもヴァーデが発掘された場所へ向かっているそうだ。
「ふむん。全体的な印象と特徴は第七世代だが、少し趣が違うな。カテゴリを分けるべきか。やはりユニバーサル規格の有無か? 道具の互換性を確かめるべきだな」
ミタライさんは移動の間ヴァーデの手の上に乗せていた。
その間彼は、機体を満遍なく見回して、逐一手帳へ書き記している。
「なあユリウスくん。内装の方はどうなっているのかね」
≪そうですね。構成は全天周囲モニターと......≫
ミタライさんに何がどうなっているという話をしながら、30分ほどの移動でたどり着く。
馬車と足並みを合わせたことで、それなりに時間がかかってしまった。
採石場のように穿たれた地面には、当時荷車を上り下りさせるための坂が段階的につけられている。
その最深部には、整列している濃紺の塊のようなものがある。
「大体、一年前に掘り出したところだろう。ここは。そんなところに、何が目的で戻ってきたんだ」
丁寧なことに、掘り出した位置にはマーキングが施されており、ヴァーデが埋まっていた場所がどこであるか、今もはっきりわかる。
「じゃあ、目当ての物は、その濃紺の土の塊なの?」
「そいつは中身次第ですね」
最深部まで行き、その土の塊を持ち上げる。
「赤土が滑るな。歩行補正をプラス3」
ヴァーデ越しに感じるのは固まった粘土のような感触で、摩るように削っていくと、次第に中身が顔を見せ始めた。
細かいところを削るのが難しい。そう思っていたところ、機体の手のひらから何かの信号が出て、濃紺の土はまるで最初からなかったかのように、ボロボロと落ち始めた。
「こいつはライフルか? チャンバーはここだから、マガジンはこれか。もう装填されている?」
すると、研究員たちも続々と集まってくる。
彼らも、この武器が目的であるように見えた。
「使えるのかい!?」
≪物理ボタンはあるらしいのですが、光学照準器が動きません。ドライバーがないから認識しないのかな≫
「光学照準器? ドライバー……。よくわからんが、柄の大きさは合うんだな!?」
≪ユリウス! 稜線の上よ!≫
先輩が叫んだのを見て、穴の淵を見上げる。
するとそこには、四、いや七もいる機械人形が見える。
「しょ、所長! 機械人形、アレ! ナンバーズの!」
ナンバーズ。将軍から聞いたことがある。
前の戦争で、最も機械人形をうまく操った二十五人。
だが、目の前の七機がナンバーズの二十五人ではない。あれはそのファンに過ぎないだろう。
「ナンバーズか!? ここにはもう道具しかないぞ! 売るにしても、第六世代では持てないからな!」
だが、二機が互いに顔を見合わせると、次の瞬間には右腕のバズーカを発射していた。
「どぉわぁぁ!? いきなり撃つんじゃないよ!」
≪僕が何とかしますから、ミタライさんは研究員たちを誘導してください!≫
彼が走りだしたところを見て、敵の射線に立ちふさがる形で武器を構える。
だが、突然FTCSの調子が悪くなる。
(ヴァーデが怯えているのか?)
ヴァーデは幼稚園児のようなものだ。
アレをしろコレをしろと強く当たっても、訳も分からず怯えてしまうだけだ。
「怖がらなくていい。お前は強いんだ。僕とアルベリア先輩も一緒にいるんだから、わからないことがあれば任せてくれれば良い」
それはそうと、物理ボタンの配置はM4カービンライフルに似ている。
親指にセレクターが当たるが、カチカチ動かしても引き金が引ける気配はないし、ボルトもびくともしない。
「使えないの!?」
「ドライバーソフトが要るんです。でも……。あッ! オンボードか!」
ネットが切断されて、それでいてデータのインストールをするならば、必要な情報は武器の方が覚えてくれていると信じるしかない。
あとは、ヴァーデが認識してくれるかだ。
(武器を扱うためには、ドライバが必要なんだが、オンボー……。いや、武器の中に説明書がないか探してくれ!)
ヴァーデは緊張が解れてきたのか、こちらのイメージと言語をきれいに結び付けてくれる。
すると、コンソールディスプレイに武装のアイコンとソフトウェアインストールの文字が表示される。
「ビンゴ! えらいぞ!」
今回の敵は妙だ。
射撃に回りくどさがなく、かといって、装甲を貫くような殺気がない。
「無人機……?」
120mmのバトルライフル。装填される弾丸は何かの高性能な徹甲弾らしい。
相手の盾などなかったかのように粉々に粉砕した
このまま残りも仕留められると思ったが、突然ヴァーデの動きが鈍る。
「なに、どうしたんだ? え、緊張して走り方を忘れただって!? なら僕に任せりゃあいい!」
固い関節に力を入れて、敵の攻撃がトップアタックにならないように、入射角に気を付けながらライフルを叩き込んでいく。
リロードは、肘にあるヒレのようなパーツからサブアームが広がる。
「掘り起こしたばかりで、暴発なんてするんじゃないぞ」
動きの鈍い無人機などは、このライフルの威力で簡単に撃破できる。
数が数だけに多少は激しい銃撃戦になったものの、特に被害はなく切り抜ける。
「敵はいなくなったぞ。お疲れさん」
「あの機械人形たちは、ここを見張っていたのね」
ヴァーデは状況を理解して、武装のロックをかける。
僕は紺色の土塊の無事を見やって、研究所の人たちの方へ歩いた。
―――
あとがき
バトルライフルの口径を30mmから120mmに変更しました。
2023/02/05
私が想定している10mのロボットが持つには少々細すぎると考えたためです。
ヴァーデくんなら120mm砲を毎分1000発で撃っても平気です。そういう出自なので(適当)
これに関してご意見のある方は、ぜひお願いします。
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