第16話 戻って来た平穏
悪夢の
今日は、
ようやく、フェリックスとわんこを、思いっきり森で遊ばせてやれる。
森の片付けが済むまで、今までずっと、ふたりをキースの家から一歩も出してやれなかった。
というのも、キースの家は「人間の街」にある。
魔女に喰われて死んだことにされている「
人間の街にいる時は、無駄な
フェリックスとわんこは、
段差に引っ掛かって、コロコロがガタゴトと大きく揺れた。
すると、コロコロの中から、キャッキャと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
オレは
コロコロはすぐに静かになり、ひそひそ声が
「しーだって」
「……わん」
フェリックスが言うには、コロコロが揺れると、わんこと、もみくちゃになるそうだ。
なんか知らんが、それがやたら面白いらしい。
そんで、きゃっきゃ騒いだところを、オレに注意されたいんだってさ。
『わんこと、もみくちゃになって騒いで、注意される』の
何それ、なまらめんこい(とても可愛い)。
森に入り、安全そうな場所へ辿り着いたところで、ケースを開けると、フェリックスとわんこのめんこい顔が
「はい、到着~。出ていいよ~」
「は~い」
ふたりとも、ニコニコと笑顔でこっちを見上げてくる。
はい、もうめんこい。
お前ら、なんでそんなにめんこいのよ。
めんこさが
お前らを見てると、「めんこい」以外の言葉が出なくなるんですけど?
ふたりは、待ってましたとばかりに外へ飛び出して、森の中を
「あんまし、遠く行くなよ~。オレの目が、届くとこまでにすんのよ~」
「は~い! おいで、わんわんっ!」
「わんっ!」
自由に走り回れるのが、よっぽど嬉しいのか。
追いかけっこしたり、ボール遊びしたり、森を
特にお散歩が大好きなわんこは、かなりストレスがたまってたみたいだからな。
ふたりが楽しそうに遊んでいる姿を見ると、微笑ましい。
ふたりを眺めながら、オレは改めて森を見回す。
森は、
真っ黒に
放置すると、
炭化した木も伐採すれば、炭としての
外側は焼け焦げても、内部が無事なら、木は生きている。
根が生きていれば、切り
内部が無事な木は、炭化した外部をそぎ落とせば、木材として使える。
草木が
木々には虫達が集まり、その虫をエサにする鳥達が戻って来る。
鳥のフンや
これが「自然のサイクル」ってヤツよ。
命あふれる森へ再生するまでの道のりは、
森が甦(よみがえ)るのは、何十年後か、何百年後か。
フェリックスが生きている間に、元の美しい森を見せてやれるだろうか。
魔の森全体に張っていた、対人結界も壊れちまった。
広い森全体に結界を設置するって、結構大変なのよ。
焼け落ちちまった家も、再建しなければならない。
問題が山積みで、考えただけでウンザリする。
でも、やらなきゃ。
面倒臭くても、ひとつひとつ、こなさなきゃならない。
ここが、オレの居場所だから。
太陽がてっぺんに昇ったところで、腹が鳴った。
フェリックスとわんこも、いっぱい遊んで、腹を空かせているに違いない。
「そろそろ、飯にすんぞ~っ!」
「わ~い! ごは~んっ!」
「わんっ!」
呼べば、ふたりとも嬉しそうに駆け寄って来る。
ふたり揃って、オレの足にまとわりつく。
犬が二匹。
可愛いがすぎるだろ、ホント。
「お兄しゃ~ん、おにゃかすいた~」
「はいはい、今、用意するから、ちっと待ってな」
レジャーシートを敷いて、持って来た弁当を広げてピクニック気分。
飯の前に、両手を合わせることも忘れない。
「はい、ちゃんと『いただきます』して」
「いただきま~す」
「ほれ、召し上がれ~」
「ありがとうございま~しゅ」
フェリックスの首に前掛けを着けて、パンを手渡してやると、大喜びで食べ始める。
リスみたいに、ほっぺた膨らませて食べるのが可愛い。
なんでも美味しそうに食べてくれるから、作り
「美味しいか?」
「お兄しゃんのご飯は、なんでもおいひぃよ。ね? わんわん?」
わんこは、しっぽをブンブン振って「うぉんっ」と、嬉しそうに
コイツ、すっかり飼い
お前、完全に野生忘れてんべ。
わんこは肉を食べ終わると、骨を埋めようと、前足で土を掘り始めた。
そこは、マズいっ!
「おい、やめろっ。この辺は、掘んじゃねぇっ!」
案の定、死体を掘り当てて、きゃんきゃんと、情けない声で鳴き出す。
「ほぉ~ら、言わんこっちゃない! めっ!」
「くぅ~ん……」
魔獣は
しかたないので、フェリックスを遠ざけて、元通り埋め戻しておいた。
食後は、日向ぼっこしながら、仲良くお昼寝。
三人寄り添って、レジャーシートの上に寝転がる。
森の中を走り回って、ふたりとも疲れたんだろう。
オレも午前中、焼け焦げた木を切り倒す力仕事で疲れた。
腹いっぱいになれば、眠くなる。
青い空、白い雲、草木を揺らすそよ風、温かな日差し。
オレの体にくっついてる、フェリックスとわんこが愛おしい。
頭や背中を撫でてやると、眠っているのに幸せそうに笑う。
一か月前の出来事が、ウソみたいな穏やかさ。
こうしていられることが、夢のようだ。
人間どもの襲撃は、過去何度も数えきれないほどあった。
人間どもを皆殺しにすることなんて、慣れたもんだった。
だが今回は、守るべきものがいた。
生まれて初めて、自分自身の弱さと
愛する者達を失う絶望は、もう二度と味わいたくない。
次、また襲撃があったとしても、必ずや、ふたりを守り抜いてみせる。
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