第13話 覚悟
【憎悪】
なおも、炎は勢い良く燃え
あの中には、フェリックスとわんこがいた。
オレはただ、愛しいふたりを守りたかっただけだったのに。
だから、寝室に
人間に侵入されないように、扉にも窓にも
フェリックスには、「何があっても、絶対ここから出るな」と、言い聞かせた。
まさか、その全てが
フェリックスは、オレのせいで逃げ遅れて死んだ。
オレが……殺したんだ。
急に全身から力が抜け、その場に座り込んだ。
今更、どうしようもない、どうすることも出来ない。
オレの罪を
いや、
炎が消えて、
積み重なった、真っ黒に
ふたりはきっと、あの下にいる。
守りたかった……救えなかった、ふたつの幼い命。
生きたまま焼け死ぬのは、さぞかし熱かっただろう、苦しかっただろう。
苦しみ抜いて死んでいくふたりを想像したら、胸が
「人間どもを、滅ぼすぞ」
見上げると、キースが全身に
コイツの「人間を
ここまで怒りを
フェリックスとわんこの命を
それを見て、オレも人間どもへの怒りが、腹の底から
人間どもが、森にガソリンを
人間どもが来なければ、フェリックスとわんこは死ななかった。
人間どもは今もなお、森を破壊し続けている。
愛する我が子を、殺した人間どもは許さない。
怒りにより、体に熱い力が
メソメソするのは、もうやめだ。
ふたりの
うちの子達を殺したってことは、殺されたって文句言えねぇよな。
「
レイモンド・チャンドラーが書いた、ハードボイルド小説に出てくる探偵、フィリップ・マーロウの
テレビアニメ「コードギアス 反逆のルルーシュ」の主人公が口にしたことで、再び
この言葉の
人間どもは「撃たれる覚悟もねぇのに、撃ちたがるヤツ」が多すぎる。
実際に撃たれてみるまで、撃たれる苦痛が分からない。
撃たれて初めて、撃たれる苦痛と恐怖を思い知る。
「他人は撃ちたいけど、自分は撃たれたくない」なんて、ふざけんなよ。
だったら、「撃たれる苦痛」ってヤツを、教えてやるよ。
その身を
フェリックスとは、もう二度と会えない。
わんことも、会えない。
ふたりがじゃれ合う、微笑ましい光景も見られない。
ふたりを抱っこして、愛おしそうに笑うキースも見られない。
四人で、楽しく笑い合うことも出来ない。
温かく幸せだった日々は、もう戻らない。
「せめて、ふたりが、少しでも苦しまずに死ねていたらいいな」と、願う。
全てが終わったら、ふたりは
ゆらり(ゆっくりと、ひと揺れする)と、体を起こし、立ち上がった。
オレとキースは、焼け落ちた(建物が火事で崩れ落ちた)家を後にした。
【家が焼け落ちる数十分前】
ここにいたら、おれもフェリックスも燃えちゃう。
もうこうなったら、仕方がない。
先に、床にクッションを落として、その上にフェリックスを落とす。
すまん! 許せ、フェリックスッ!
痛いかもしんないけど、
服を引っ張って、ベッドの上からフェリックスを床へ落とした。
ドスンッと、思ったより大きな音がした。
うわっ、痛そう。
大丈夫だったかな、これ。
ちゃんと、クッションの上には落ちたけど。
起きなかったってことは、痛くなかったのかな。
フェリックスの顔に
良かった、生きている。
あとは、フェリックスを引きずって、外へ出るだけだ。
そう思って、周りを見回してみたら、いつの間にか、完全に火に囲まれていた。
パチパチと音を立てて燃える火が、熱くて怖くて近付けない。
出られそうなところは、どこにもない。
「きゅ~んきゅ~ん……っ!」
なんだかやたら熱くて、ハッハッと荒い息を吐きながら、舌を出す。
自分を落ち着かせようと、乾いた鼻を
いくら舐めても、不安や恐怖は収まらず、ちっとも落ち着かない。
やっと、フェリックスをベッドから下ろせたのに。
ごめん、黄色い目。
おれ、約束、守れなかった。
おれひとりじゃ、フェリックスを守れない! 助けてくれっ!
「わぉおおおおおおおおおぉ~んっ!」
おれは上を向き、助けを呼ぶ為、
大好きなフェリックスを、死なせたくないんだ!
頼む、誰か、フェリックスを助けてくれっ!
祈りながら、吠え続ける。
どうか、おれの声がアイツらに届きますように。
その時、不思議なことが起こった。
突然、おれを中心に、不思議な緑の光に包まれた。
まるで、ボールの中にいるみたい。
なんだこれ?
ワケが分からず、首を傾げる。
「わぅん?」
吠えるのを止めたら、「緑の」が消えた。
なんだか分からないけど、おれから出ていたみたい。
もう一度、
「わんっ!」
あれ? 今度は出ない。
なんだったんだ? 今の。
いやいや、そんなこと考えている場合じゃない。
早く、助けを呼ばなければ。
「助けて」と、
どうやら「助けて」って、お願いしながら遠吠えすると、「緑の」が出るっぽい。
でも、なんで?
よく分からないけど、悪いものではない気がした。
この「緑の」がなんであろうと、助けを呼ぶのが先だ。
しばらく吠え続けているうちに、気が付いた。
「緑の」の中には、火と煙が入って来ないし、熱くもない。
もしかして、「緑の」がおれを守ってくれているのか?
ってことは、これさえあれば、フェリックスを守れる。
おれもフェリックスも、助かる。
もう、怖くない。
おれは嬉しくなって、フェリックスの側で遠吠えし続けた。
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