第11話 抗戦
【強襲】
森全体に
人間ごときが、
それも、
今までの「
奴らが押し寄せてくる音と、
どこからともなく
キースも気付いたらしく、顔から笑みを消して黙り込む。
わんこも
幼いフェリックスも、うちらの表情を見て、ただごとじゃないと
「みんな、どうしたの? 何があったの?」
「フェリックスは、こっちで良い子にしてろや」
オレはフェリックスを抱き上げ、寝室へ運ぶ。
わんこも、あとをついて来た。
フェリックスをベッドに下ろすと、わんこもベッドへ飛び乗った。
真剣な顔をしたキースが、わんこに向かって言い聞かせる。
「お前は、フェリックスを守るんだ!」
わんこは「わんっ!」と、ひと鳴きした。
わんこは、フェリックスの
いざとなれば、全力でフェリックスを守ってくれるだろう。
恐怖に震えながら、フェリックスがわんこをギュッと抱き締めた。
なだめるように、わんこがフェリックスの顔を舐め始める。
フェリックスは、わんこに任せても大丈夫そうだ。
オレはフェリックスと目を合わせて、なだめるように言い聞かせる。
「フェリックス、ちょっと行ってくるわ。いいか? 何があっても、絶対ここから出るんじゃねぇぞ」
「……うん」
フェリックスは、神妙な面持ちで頷いた。
素直なフェリックスが愛おしくて、頭を撫でてやる。
「よし、良い子だ」
「ぼく、良い子にして待ってるから、早く帰って来てね」
「もちろん、すぐ終わらせて帰って来るから、ちゃんと待ってんのよ」
「は~い、行ってらっしゃい」
「行って来ま~す」
離れがたく思いながらも、フェリックスの頭から手を離す。
オレとキースは、フェリックスに手を振りながら、寝室の扉を閉めた。
「したっけ、ちゃっちゃと、やっちまうべ」
「よっしゃ! 人間なんて、うちらでぶっ飛ばしてやろうぜっ!」
キースと顔を見合わせて、悪い笑みを交わした。
赤いローブを身に
「
うちらの
何があろうとも、フェリックスだけは絶対に守る。
フェリックスのぬくもりが残る右手を、強く握り締めた。
【逆襲】
外へ出た
煙や灰を吸い込まないように、服の端で口元を
「チクショウ! 人間どもが、うちらの大事な森を燃やしやがったっ!」
「クソが! 許さねぇ! 皆殺しにしてやるっ!」
恐らく、魔の者をおびき出す為に、魔の森に火を放ったんだ。
普段はジャマだから、しまっていた背中の翼を出す。
「アーロン! 俺、先に行くぞっ!」
「おう! オレも、すぐ追うわっ!」
翼をはためかせて、上空へ飛ぶ。
空から見下ろすと、大勢の人間がいた。
ざっと見ても、五十人ぐらいいそう。
よくもまぁ、こんだけ集めたもんだな。
上から見ると、
よくも、うちらの縄張りで、好き勝手やってくれたな。
だったら、お前らが放ったその火、
翼であおいで、さらに炎を大きく燃え上がらせる。
風を起こして炎の向きを変え、人間達の周りに炎の壁を作り上げる。
炎の壁に囲まれて、逃げ場を失った人間達は、黒煙を吸い込んでむせている。
人間達は悲鳴を上げ、しきりに炎を消そうとしているけど、無理っしょ。
だって、さっき自分達で、ガソリンを
ガソリンは、一度火が着いたら、そう簡単には消えない。
ガソリンは
ぶちまければ、目に見えない気体となったガソリンが空気中に
近くに
「奇跡の力」で、水を掛けて消火しようとしている人間がいるけど、そんなもんじゃガソリンの炎は消えねぇよ。
ガソリンは水よりも
ガソリン
シロウトが消火出来る段階は、本当に初期の初期。
本格的に燃え広がったら、
それに、誰も消火器を持って来ていない。
ガソリンを
あとは、ガソリンが燃え
自分達の
翼で炎と煙をあおぎながら、俺は高みの見物を決め込む。
そこで、アーロンが追い付いて、
「あれ? もう終わっちまったの? 人間って、ホント弱っちぃのな」
「こんなんじゃ、俺が本気出したら、一瞬で
俺が得意になって笑うと、アーロンも悪い笑みを浮かべた。
そう、この時、俺もアーロンも、完全に人間を
その
「
【放火】
外が、やけに騒がしい。
たくさんの何かが、大きな声で叫んでいる。
ドガッバキッと、何か硬い物を叩く音。
何かが燃えるイヤな臭いが、部屋の中まで入って来る。
何かとてつもなく恐ろしいことが、外で起こっている。
「きゅーんきゅーん……」
「怖いの? 大丈夫だよ、ボクがいるからね」
怖くて
大好きな青い目が抱き締めてくれると、気持ち良くて嬉しい。
見れば、青い目も怯えて、涙を流しながら
可哀想で、涙をペロペロと舐める。
ここには今、赤い目も黄色い目もいない。
黄色い目から「フェリックスを守れ」って、言われた。
青い目は、フェリックスっていうのか。
そうだ、おれがフェリックスを守るんだ。
怖がっている場合じゃない。
でも、守るって、どうすればいいの?
フェリックスから、離れなければいいのかな?
フェリックスの側から、離れちゃいけない気がする。
きっと、これが「守る」ってことなんだ。
外の音は、ドンドン大きく激しくなる。
なんだか、周りが白くなってきて、息が苦しい。
けむたくて、急に空気も熱くなってきた気もする。
フェリックスも苦しそうに息が荒く、ゲホゲホ
パチパチと音が聞こえて、音がする方を見れば、部屋の隅に赤い火が見えた。
マズい、燃えているっ!
「う゛ぅぅ~っ! わんわんわんっ!」
「何? うわっ!」
頭の中で、何かが「ここにいたら危ない」と、訴えている。
ここから、逃げないと。
おれはフェリックスの服を
「どうしたの? どこか行きたいの?」
だが、フェリックスは、ベッドの上から動かず、首を横に振る。
「ダメだよ! お兄しゃんが『何があっても、絶対ここから出るな』ってゆったから、ここにいなくちゃダメなんだよっ!」
「わんわんわんわんっ!」
そんなこと、言っている場合かっ!
赤い目の言葉は、合ってるけど間違っている。
たぶん、赤い目は「ここに隠れていろ」って、意味で言ったんだ。
でも、今は状況が違う。
ここから逃げないと、フェリックスが燃えちまう。
部屋から出そうと、何度吠えても、力いっぱい引っ張ってもダメだ。
フェリックスがベッドにしがみついて、ちっとも動いてくれない。
そうこうしている間にも、部屋がメラメラと燃えていく。
熱い炎に囲まれ、視界は煙で真っ白、息も苦しい。
咳き込んでいたフェリックスが、突然、ベッドの上に倒れた。
「わんわんわんっ!」
何度、顔を
良かった、生きている。
今逃げれば、まだ間に合う。
こうなったら、おれが外へ引っ張り出してやる。
フェリックスの服を
だけど、フェリックスの体は、おれより重くて大きい。
ベッドから下ろすってことは、フェリックスを床に落とすことになる。
ベッドの高さは、フェリックスの半分ぐらい(三歳児の身長の半分=五十センチ弱)。
落ちたら、絶対痛い。
フェリックスに、痛い思いはさせたくない。
でも、早く逃げないと、おれもフェリックスも燃えてしまう。
どうしよう! 誰か助けてくれっ!
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