第6話 名前のない子供
【うちの子攻防戦】
キースが、うちの子に
まぁ、当然よね。
だって、うちの子、めっちゃ可愛いもん。
だからって「欲しい」って言われても、やるもんか。
コイツは、オレのもんだ。
いくら
「くれ」「やらん」と、絶対に負けられない戦い(
ついに、キースが負けを認めた。
しかし、この男は、とことん諦めが悪い。
しょぼくれてたかと思うと、突然開き直って、力強く
「よし、決めた! 俺、ここに住むわっ! そしたら、飼ったも同然っ!」
「は? てめぇ、何勝手に決めてんのよ」
「だって、アーロンがくれないんだもん! 俺が来るしかないじゃんっ!」
「てめぇは人間の街に、自分の家があんだろうが」
「そうだけどぉ……」
キースは、またしょぼーんと肩を落とした。
キースは「人間」として、人間の街に住んでいる。
それも「
国王の
国王に
早い話が、国王の相談役。
キースの
よくもまぁ、そこまで
それだけ「人間を
実はキースの一族は、頭が良い。
だから、「人間」の
何をして、何を
どのようにして、「人間」に都合の良い世界を作り上げてきたか。
どれだけ
どれだけ
どれだけ
歴史を
自分達にとって、
「真実の歴史」を知る魔の者は、
知れば知る程、強い
「真実の歴史」を知っているから、
だから、キースは人間の政治を裏から操っている。
人間の歴史に残らないように、
政治が動けば、多くの人間達が動く。
実際に、
キースは、
マジで、
「森の
やり方が、回りくどい?
そりゃそうよ。
だって、わざと、回りくどくしささってんだから。
直接「人間」を殺した方が、早いに決まっている。
それじゃ、すぐに滅ぼせちゃうじゃん。
「魔の者」の人間への
「人間」を
目的を果たす為なら、どんな努力も
コイツは、そういうヤツなんだよ。
「お名前は、なんていうのかな?」
キースは、小動物を愛でるようなデレデレの笑顔で、うちの子の前にかがんだ。
途端に、うちの子は笑顔を失くして、黙って首を横に振る。
キースはキョトンとして、うちの子の顔を
「あれ~? どうしたの? お名前、言えないのかな?」
「あ~……そいつ、名前ねぇのよ」
すっかり忘れてた。
そういやオレ、名前付けてなかったわ。
「お前」で、今まで何の
「なんで?」
「ソイツの親、名前も付けずに、
「はぁっ? なんだよ、それっ?」
オレの話を聞くなり、キースは
キースは暗い顔をしているうちの子を抱き寄せて、よしよしと撫でる。
「こんな可愛いもの、なんで捨てられんだよっ? 信じらんねぇっ!」
「だべな。人間の親、マジカスゴミ」
「人間、許すまじ! ホント最低だぜ、人間ってやつはよっ!」
オレとキースは、人間を
気が付いたら、うちの子が
わんこも「くぅんくぅん」と鳴いて、うちの子を
ハッとして、口を閉ざす。
しまった。
いくら
虐待されている子供は、虐待されている自分に気付けない。
いくら虐待されても、親を心から信じている。
「愛されないのは、自分が悪いから」と、自分を責める。
どんな毒親であろうとも、子供は親を求める。
捨てられたくないと、愛されたいと、親にすがる。
虐待されても、子供は親をかばうもの。
親をけなされたら、悔しいし悲しいだろう。
幼い心を傷付けて、泣かせてしまった罪悪感は、ハンパない。
うちらは慌てて、愛しい子を慰める。
「うわぁ~っ、ごめんごめんっ!」
「ごめん、うちらが悪かったっ!」
うちの子が泣き止むまで、なだめ続けた。
【歌の翼を持つ天使】
いつまでも名無しのまんまじゃ可哀想ってことで、名前を考えることにした。
とはいったものの、どんな名前が良いんだろ?
本人の特徴とか、好きな物とか、呼びやすさとか?
アーロンが幼児を抱き寄せて、よしよしと撫でている。
幼児もようやく落ち着いたらしく、アーロンに甘えている。
魔獣は眠いのか、幼児の腕の中で、うとうとしている。
微笑ましくて、こちらまでほっこりする。
アーロンが、幼児に優しく語り掛ける。
「お前、どんな名前が良いの?」
「お兄しゃんが付けてくれるなら、ボク、なんでも良いよ」
「そういうこと言ってると、『ぼろぞう』とか付けちゃうぞ」
「お兄しゃんが良いなら、それが良いでしゅ」
幼児は、へにゃりと力なく笑った。
なんつう、良い子なんだ。
けなげすぎて、泣けてくるぜ。
こんなに大人しい幼児は、初めて見た。
なんかこの子、幼児らしくないんだよね。
街で見掛けた人間の子供は、もっと可愛げがなかったぞ。
わがままばっか言って、だだこねてんの、何度も見た。
ふたりの話を聞いて、俺は呆れ果てて深々とため息を吐く。
「『ぼろぞう』なんて、クソダサい名前は、俺がイヤだ」
「なんでよ? 本人は、良いっつってんぞ? 『ぼろぞうきん』略して『ぼろぞう』」
「お前らのネーミングセンスには、ガッカリだよ。俺がもっと良いの、考えちゃる」
こんな可愛い子を「ぼろぞう」なんて、呼びたくねぇわ。
もっと似合う名前を付けてやりたい。
かがんで、幼児と視線を合わせて問う。
「お前さ、なんか、好きなもんとかねぇの?」
「好きなもの? えっとね、パパとママが大好きなの」
幼児は少し考えた後、
コイツ、まだそんなこと言えるのっ?
捨てられたのに。
もう二度と、両親から愛されることはないのに。
今でも両親が自分を愛してくれると、信じ続けているんだ。
なんて、可哀想で可愛い子。
「パパとママの次に、好きなのは?」
「次? うんとね、えっとねぇ……お兄しゃんとわんわんが好き」
「他に好きなものはないの? 好きな色とか、好きな歌とか」
「お歌を歌うのが、好きです」
それを聞いて、テンションが爆上がりした。
「マジで? 俺も、歌好きなんだよね。歌ってみてくれる?」
「じゃあ、えっと……」
幼児は、はにかみながら、口を大きく開いた。
透き通った柔らかい歌声が響き渡り、心を癒してくれる。
歌詞は、物語調になっていて、メッセージ性のある内容。
歌う幼児は、とても穏やかな笑顔を浮かべている。
久し振りに、全身に鳥肌が立つぐらい感動した。
なんだこれ! 最高じゃんっ!
これはまさに、俺が求めていた「ヒト」の音楽。
ヒトが
歌の翼を持つ天使が、俺の前に舞い降りた。
歌い終えると、恥ずかしそうに顔を赤くして、アーロンの胸にうずめた。
ヤバいっ、マジで可愛い! 可愛いがすぎるっ! めっちゃ欲しいっ!
「やっぱ、この子、ちょうだいっ!」
「やらんっつってんべやっ!」
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