第5話 邪悪な魔の者
「人間」の
「ヒト」は、さまざまな音が出る道具を作り、「音楽」を生み出した。
音楽は、「
俺はヒトが作り出す音楽が、大好きだった。
本当の音楽ってのは、「
上手く言葉に出来ないけど、聴いた瞬間、ぶわっと涙が出るような感動。
全身に鳥肌が立って、髪の毛が
映画を一本観た後のような、深い歌詞。
繰り返し聴ける、何度も聴きたくなる、
いつまでも、心や頭に残り続ける響き。
耳が
そういう素晴らしい音楽を、俺は求めているんだよっ!
なのに人間は、ヒトの音楽を捨てちまったんだ。
人間も音楽を作るけど、ヒトの音楽には遠く
人間の音楽は、ちっとも心に響かない。
リズムとかテンポとかメロディに、
歌詞も、同じ単語の繰り返しで、内容もスカスカペラペラ、薄っぺらい。
見た目ばっかり綺麗な人間の歌は、ヘタクソで聴けたもんじゃない。
ただの
あんな音楽のどこが良いのさ。
それを「良し」としている人間が、一番つまんない。
しかも、
びゅうびゅう吹くうるさい風みたいに、あっという間に通り過ぎる。
後には、何にも残らない。
ホント、つまんねぇ生きもんだわ、人間って。
俺は人間ってヤツが、大っ嫌いだ。
だってさ、息をするようにウソを吐く。
歴史だって、平気でねじ曲げる。
想像力が足りないから、未来も見通せない。
他人と比べて、ないものねだりで、
失った時に初めて、失ったものの大切さに気付く。
気持ち良いことが大好きで、すぐ楽な方へ逃げる。
自分さえ良ければ、他人はどうでも良い。
悪いことから目を
感情に流されやすく、金に目がくらむ。
愛とか恋とか友情とか、
ささいなことで、
つまらないことで、いがみ合う。
強い者が、弱い者をいじめる。
犯罪が、起こらない日はない。
人間同士で、殺し合う。
今日もどこかで、誰かが死んでいる。
本当に、
なんで人間は、こうも、くだらない生き物なんだろう。
だから、俺が人間を
泣こうが
男も女も大人も子供も、ひとり残らず死んじまえ。
人間だって、「ヒトをなかったこと」にしたじゃん。
だったら俺が、「人間をなかったこと」にしてやるよ。
「
「……しかしだな。両国は、今まで
「
「うむ、それもそうか。相談役のお前が、そこまで言うなら……」
渋っていた国王が、ようやく頷いた。
俺は、ほくそ笑む(「物事が上手くいった」と、ひそかに笑う)。
「国王様が、ご
「はっ」
側近が
「それでは、私も下がります」
「ああ、ご苦労だった。これからも頼む」
「はい。それでは、失礼致します」
返事を聞いて、国王の
魔の森の
「あっはっはっはっはっ! ざまぁ! チョロすぎて、笑いが止まんねぇぜっ!」
俺はこうして人間の姿を借りて、人間の政治を裏から操っている。
人間の世界を狂わせて、ヤツらの不幸を面白おかしく楽しんでんの。
人間の世界は、情報社会。
SNS(=ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が
Twitterで、チョイチョイと指一本でお手軽。
良いニュースよりも、悪いニュースの方が
例えば、「動物園の
それっぽい合成写真付きで発信するだけで、あっという間に大パニック!
人間の言葉で言えば、「フェイクニュース(ウソの出来事)」
しかも、情報は金になる。
フェイクニュースが、産業の街だって存在するんだぜ。
後から「すみませんでした」と、ひとこと謝れば済む話。
「
「ウソも百回言えば、真実になる」なんて、有名な言葉もある。
実は、この言葉もウソなんだけどね。
ウソも百回繰り返せば、真実は隠れてしまう。
人間は、
都合の悪いことは、ウソで
ウソで、自分で自分の首を
ウソで、信頼なんてものは、いとも
約束、契約、条約は、破られる為にある。
会談、交渉、
ウソによって生じる政治的、経済的、
俺が直接手を下さなくても、放っておけば勝手に
自らが
「人間」って、ホンットバカだよねぇ。
声を立てて笑い続けていると、Aaron(アーロン)が近付いてきた。
「ずいぶん、楽しそうじゃねぇか、Keith(キース)」
「そりゃ、楽しいに決まってんだろ。……あれ? 何それ?」
見れば、アーロンが変わったもんを抱えていた。
人間の幼児と、
魔獣は、
赤ちゃんだから、まだ人型への変身は出来ないっぽい。
魔獣は、良いとして。
ぬいぐるみみたいに、魔獣を胸に抱えた人間の幼児。
年齢は、三歳ぐらいか?
俺の視線に気付いたアーロンは、愛おしそうに人間の幼児の頭を撫でながら答える。
「ああ、これ? 落ちてたから、拾って飼ってんのよ」
「拾ったって、お前……それ、人間じゃん。なんで、殺さねぇの?」
「だったら、てめぇ、これ殺せんの? やれるもんならやってみろや、おら」
目の前にヒョイと、人間の幼児が差し出された。
「こんにちわぁ」
人間の幼児は、不思議そうな目で俺を見つめた後、にぱぁっと笑った。
落雷を受けたみたいな衝撃。
可愛い笑顔に、一瞬で心を
あまりに愛らしくて、顔の筋肉がゆるんで、デレッデレになっちまったぜ。
なんっだこれ!
めっちゃくちゃ可愛すぎねぇかっ?
これ、マジで人間?
こんな可愛いもの、殺せるはずがない。
震える両手を伸ばし、魔獣ごと人間の幼児を受け取った。
胸に抱き寄せると、柔らかくてあったかくて、気持ち良い。
小さな可愛い存在が、俺の腕の中にいる。
さっき、アーロンがしていたように、人間の幼児の頭を撫でてみる。
人間の幼児は、気持ち良さそうに目を細めて、頭をこすり付けてくる。
「もっと撫でて」って、すり寄ってくる仔犬か
どうやら、頭を撫でられるのが好きらしい。
ヤベェ、コイツ、めっちゃ可愛い。
可愛い以外の言語が死んだ。
ああ……俺の真っ黒に染まった
アーロンが拾っちゃった気持ちが、今なら分かる。
これは、拾わずにいられない。
拾った。
そうか、「拾った」んだよな……なら。
「これ、俺にちょうだいっ!」
「ふざけんな! 誰がやるかっ!」
即、アーロンに奪い返された。
アーロンの腕に戻った人間の幼児と魔獣は、驚いたのかキョトンとしている。
キョトン顔も可愛い。
欲しくて欲しくて仕方がなくて、必死に頼み込む。
「なんで? 落ちてたの、拾ったんだろっ? 俺にくれよ! 大事に飼うからっ!」
「オレが拾ったんだから、オレのもんに決まってんべやっ!」
「早いもん勝ちかよっ? ズルいっ!」
「ズルくねぇわ! そんなに欲しけりゃ、自分で拾って来いやっ!」
「ヤダヤダ! それが良いんだもんっ!」
俺とアーロンの
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