呪われた王家と聖女~悪魔殺しの聖女~

ことはゆう(元藤咲一弥)

呪われた王家と聖女~悪魔殺しの聖女~



「コーネリア・ペッシェ! お前とは今日をもって婚約を破棄させて貰う‼」

 そう聞いた時、この方はこの国の事を何も分かっていないのかという哀れみを抱いた。





「聖女様、どうか、どうかお救いくだされ……」

「分かりました」

 動きが悪くなった手をそっと包み込み、祈りを捧げる。

「お、おお、儂の手が……‼」

 老人の手が動くようになり歓喜の声を上げる。

「このことをなんと感謝したら良いのか……」

「いいのですよ」

 聖女は老人に微笑みを浮かべて返す。


「相変わらず辛気くさい所だなここは‼」


 嘲笑うような言葉に、その場に居た聖女を除く全ての人が嫌悪を覚え、忌々しそうな目を若い男へ向ける。


「グローブ殿下、何の用ですか? そしてそちらの女性は?」


 高慢な笑みと、品の無い笑みを浮かべた男女を聖女は見据える。


「コーネリア・ペッシェ! お前とは今日をもって婚約を破棄させて貰う‼」


「ついでにこの神殿も解体だ、辛気くさくてかな──」


「この罰当たりが‼」

「お前なんか次の王様になれるもんか‼」

「とっとと出て行け‼」


 民がこぞって次期国王のはずの相手に噛みついた。


「グローブ殿下、この件国王陛下にお伝えします。貴方達がしようとしていることを身をもって知るといいでしょう」


「ふ、フン‼ 強がって‼」

「行きましょう?」

 男女が去ると、聖女──コーネリアは立ち上がった。

「申し訳ございません、今日の治療はここまでとさせて頂きます」

「聖女様……」

「大丈夫です」

 不安がる民達に声をかけつつ聖女は神殿を後にした。





「馬鹿者‼」

 王宮では国王が第一王子である男──グローブを怒鳴りつけていた。

「聖女との婚約を破棄しただと、貴様はこの国を潰す気か⁈」

「な、何をそんなに怒っているのですか父上?」

「兄上の馬鹿さ加減に怒っていらっしゃるのですよ」

「クレスト……‼ 貴様兄である俺を馬鹿にする気か!!」

「兄上、何故この国は聖女と次期国王が結婚を続けてきたかご存じですか」

「知らん」

 その言葉に、国王は顔を真っ赤にするが、第二王子──クレストが制する。

「昔話を致しましょう」

 そう言ってクレストは語り始める──





 昔々、聖女を側妃に迎えた国王がいました。

 王妃はおりましたが、子どもは皆死産、そこで聖女が迎えられました。

 聖女はすぐに身ごもり、男の子を産みました。

 ですが、王妃の側近が聖女から赤子を取り上げ王妃の元に渡してしまいました。

 すると、赤子は苦しみもだえて死んでしまいました。

 民がこぞって言いました。


「王妃は呪われている」


 と。

 聖女はその後女子を二人産みました。

 王妃は死産ばかりでした。

 そして最後に生まれた赤ん坊は──


 悪魔・・だったそうです。


 王妃はそれに発狂し幽閉されました。

 悪魔は生まれてすぐ殺されました。

 それから程なく、側妃だった聖女が王妃になり、男の子を産みました。


 男の子は聖女の愛を受けて健やかに成長しました。

 聖女の加護を受けて育ったその子は言いました。


「この王家は呪われている」


 と。

 そして国王の兄が幽閉されている塔へ向かいました。

 国王の兄は若いままでした。


「悪魔と契約して王家を呪ったのは貴方ですね」


 王子は問います。

 すると国王の兄は笑って言いました。


「そうだとも」


 王子は問います。


「契約を破棄することは」

「それはできない。私を殺すことでしか契約を終わらせられない」

「私に貴方を殺せますか?」

「不可能だろう」

「姉達は呪われますか」

「呪われていない、次期国王ではないからな」

「何故、王家を呪ったのですか?」


 王子は問いかけます。


「お前達の父が私を言われ無き罪でこの塔に幽閉したからだ」

「父が死んでも呪いは解けませんか」

「解けない」


 王子は事の次第を国王陛下と王妃に伝えました。

 国王陛下は顔を真っ青にし、自分のした事を悔やみました。

 それを見た王妃は静かに言いました。


「今後、呪いに対抗するため、次期国王は聖女と結婚させるように」


 こうして、カインスト王家は聖女と婚約し結婚することで血を保ってきたのです──





「教わったはずの事を忘れたのですか?」

「そ、そんなの昔話だ! でたらめに決まっている‼」

 グローブは慌てて言うが、クレストは静かにグローブを見つめて言う。

「ではあの塔に行ったことは?」

「い、行けと言われたが途中で帰ってきた、長い階段で──」

「あそこにいるのですよ、私達王家を呪っている方が」

「そ、そんな、だって昔──」

「悪魔と契約したから、若いままなのですよ」

 クレストの言葉に真っ青になるグローブ。

「婚約破棄するようなお前には国王の座は譲れん、王位継承権を剥奪する」

「そ、そんな‼⁉」

「クレストよ、聖女コーネリアに許しを求め婚約してきてくれ」

「畏まりました」

 クレストは兄をじろりと一瞥してから部屋を後にした。





「──という訳です、聖女コーネリア。どうか私と婚約を」

 クレストはコーネリアに膝をつき頭を垂れた。

「……構いませんが、王家を呪っている張本人を殺せば良いのですね?」

「え、はい、そうなりますが……」

「私が行って殺しましょう」

 コーネリアの言葉にクレストは信じられないような顔をした。





 呪いの元凶がいる塔をコーネリアは登る。

 手には聖銀の剣を携えて。

 そして部屋に入る。

「貴方が王家を呪っている者ですか?」

「そうだとも」

 若い男性はそう言いました。

「1000年以上も前から冤罪により幽閉され今も呪い続けていることでここにいる、間違ってないですね、カナール・カインスト殿下」

「その通りだ、悪魔殺しの聖女よ」

「終わらせましょう、こんなこと」

「君がそうしてくれるなら」

 聖女は剣で男性の心臓を貫いた。

「──ああ、これで漸く終われる、ありがとう」

 男性はどんどん老化していき、最後には塵になって消えてしまった。

「1000年も呪い続けるのはさぞ苦しかったことでしょう。貴方の罪が許されないものだとしても私は許します」

 聖女はそう言って祈りを捧げた。

 場は清められた。





「と言う事で、今後呪い関係なく王家は婚姻関係を結ぶことができます」

「そうか……何から何まですまない」

「いいえ陛下」

「では、クレストよ。其方の好きな相手と結婚せよ」

「聖女コーネリア、私は貴方を愛しています」

「ですが私は……」

 渋るコーネリアに、クレストは割れた石でできたお守りを見せた。

「これは……まさかあの時の?」

「ええ、幼い日城を抜け出して貴方と出会い貰ったものです。兄と結婚する事が決まり悲観していましたが、兄が愚行を働いてよかったと思っています」

「しかし、呪いがないのではグローブ殿下は……」

「王位継承権を剥奪した。クレスト、聖女コーネリア、好きにするが良い」

「聖女コーネリア、いや、コーネリア。君の事がずっとずっと好きだったんだ」

「……私もよ、見知らぬ少年だった貴方、クレスト」

 二人は手を取り合い喜んだ。





 コーネリアは幼い頃から聖女として働いていた。

 遊べる時間はごくわずかだった。

 そんな時、出会った少年がいた。

 少年はコーネリアに「好きです」と伝えた。

 コーネリアは嬉しかったが、自分は次期国王、王子と結婚しなくてはならない身。


「嬉しいけど、私は貴方と結婚できないの」

「分かってます」


 少年は悲しげに微笑んだ。

 コーネリアは石のお守りを自分の愛の証をとして半分に割って渡した。


「これが貴方への愛の証になりますように」

「僕はずっと貴方を愛し続けます」

「ありがとう」


 少年と何度かあったが、やがて会えなくなり、そして今に至る──





 聖女コーネリアと、第二王子クレストの結婚式はこれでもかという位民に祝福された。

 民を見下した第一王子よりも、民目線で物事を考え、その上で王族としてどうするべきか考える第二王子のクレストの方が人気があったのだ。

「こんなに祝福されるなんて、夢みたい」

「ああ、私もです。コーネリア愛しています」

「私もです、クレスト。愛しています」

 二人は口づけをかわした──





 こうしてカインスト王国の次期国王と聖女が結婚する風習は終わりを告げた。

 だが、聖女の人柄からか、王族は好んで聖女と結婚するようになっていったという。

 呪いを解いた意味は無かったように見えるが、相手の人格等を見て結婚する風習に戻り、民から慕われる聖女が王妃になるのは王族にとって都合の良いものでもあった。





 だが、そんな未来の事は二人にはどうでも良かった。

 愛し合い、それでも結ばれぬと嘆いた二人はもう居ない。

 クレストとコーネリアは聖王、聖王妃と呼ばれ、国の発展に尽力を尽くし、子等を愛したと言う。

 民達と同様に──













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