第43話 罪の在処を答えよ、裁く者よ
結局、桜だけが辞退して怜司は蒼麻とマレナのふたりと一緒にお風呂に入ったのだった。
「……天国のような地獄のような気分だった」
風呂に入ったというのに疲れた様子で怜司が呟く。
旅の疲れを癒すように、とマレナが用意した寝室に怜司たちは集まっていた。
「正直、僕もびっくりした。マレナ様、積極的すぎでしょ。おっぱいもすっごい大きいしプロポーション抜群だしさー。それをあんなに容赦無く怜司にくっつけてくるなんて」
「いや……それはお前も最初、似た感じだったじゃん……」
「え、そうだっけ?」
とぼける蒼麻に怜司はため息をつく。ギルドにいた頃、ひとりで風呂に入っていたときに「間違えたちゃったなー、しょうがないなー!」とか言いながら蒼麻が突撃してきて裸で抱きついてきたことを、怜司は忘れていなかった。
「疲れは取れたか?」
「取れたように見えるのかお前!? 目が悪いんじゃないか!?」
「いや、視力は良い方だが……?」
首を傾げるほど不思議がる桜についに怜司はベッドに突っ伏した。
「我慢するこっちの身にもなってほしいよ、ほんと」
「レフィ様とかマレナ様は、側室や愛人いていい派なせいで積極的だったし、セレネは性に奔放って感じだったからがんがんにアタックされてたよねー、怜司さんはさー」
「怒るなって。全部我慢して全部拒否したんだからさ……」
「まーそれは偉いですけどー、モテ過ぎなのはどうなんですかねー」
「それは俺のせいじゃないって……」
「まーでも、おっぱいだけは僕が一番おっきいかなぁ。ねー、怜司ー」
ベッドに寝転がってる怜司に蒼麻が覆い被さって顔に胸を押し付ける。手慣れた様子で怜司は蒼麻の背中をぽんぽんと叩いていた。
「はいはい、そのとーりですよ。おっぱい星人の俺は蒼麻が一番ですよ」
「むふー」
機嫌を良くした様子の蒼麻が怜司から離れて桜の方へと寄っていく。
「桜はやっぱり一緒に入らなかったね」
「当たり前だろ。婚約もしていない異性に裸は見せない」
「そのへん、桜って結構お堅いっていうか、こっちの世界でも珍しいよね」
「お前らのように尻軽じゃないだけだ」
「ひどっ!? 僕だって尻軽じゃないんですけど!? それにその言い方だと王女のレフィ様とか偉い人のマレナ様も尻軽になるんですけど!?」
「全員尻軽だが?」
ばっさり。王族の女性陣をはっきりと桜が言葉で斬り捨てていた。
「……悠司だったら一緒に入ってたくせに」
ジト目を桜に向けながら蒼麻がぼそっと小声で反撃した。
「そんなの……あいつが入らんだろ」
むくれる蒼麻の反撃に、桜は一瞬迷ってから答えていた。
「今は桜の話をしてるんですぅー。悠司が相手だったらどうなのさー」
「知らん。起こらない話をしても無益だ」
「ぶーぶー」
ぶーたれる蒼麻を尻目に怜司が起き上がり、桜に真剣な視線を向けていた。
「くどいようだが、本当にやるぞ。いいな?」
怜司の問いかけに桜は即答できなかった。
「次に戦うときには、お前の妖刀だって必要になる。いざってときに躊躇って負けたら今度こそ誰か殺されるぞ」
「……分かっているさ」
桜の手が装飾の施された柄に触れる。旅路の途中で手に入れた妖刀。怜司にとっての聖剣同様、悠司と戦うために必要な一振りだった。
なおも悩む素ぶりを見せる桜に怜司はある言葉を言うかを悩んだ。冷徹で卑怯ともとれる言葉だが、それを言えば桜が引かなくなることは間違いなかった。
悩んだ末に──蒼麻のために、怜司はその言葉を言い放った。
「──お前が、俺たちを巻き込んだんだ。責任取れよ」
「……っ」
桜の表情が苦々しいものへと一気に変わった。
あの夜。リヴァイアサンがギルドを壊滅させた後、悠司を追いかけるように怜司と蒼麻を説得したのは桜だった。
正確には、ふたりを旅に同行させる最中でこの世界で生きる術を与え、悠司と対峙するのは自分ひとりでやるつもりだった。ギルドが壊滅した以上、生きていく術を知らないままふたりを放り出すのは、桜としても良心の呵責があったのだ。
結局のところ、悠司と対峙することを決めたのは怜司と蒼麻だった。しかし桜にも責任がないわけではないのだ。
「……その言い方は卑怯すぎるぞ」
小さな糾弾を聞くと同時に怜司はベッドのフレームに拳を叩き込んだ。表情に浮かんでいたのは激しい復讐心だった。
「卑怯だろうがなんだろうが、ここまできた以上はお前にもやってもらう……! くれはと十兵衛を殺した罪、そしてあの子を殺した罪をあいつには償わせる!! あいつがあんなことをしでかした要因なんてもはや関係ない!!」
「だが、悠司が怪物となった原因は私たちなんだ。それを殺して終わりにするなんて」
「他に手立てがないだろうが! あいつはお前の説得にも応じないんだぞ!!」
桜が黙り込み、怜司が息を荒げる。蒼麻は何も言わずに傍観していた。
ふー、と深く息を吐いて怜司は自分を落ち着かせた。その上で言葉を続けた。
「もう理由がどうのと言っていられる状況じゃない。どんな理由があったって罪は罪だ」
桜は──何も言い返すことができなかった。その代わり、
「……なら、私たちの罪は誰が裁くんだ」
ふたりに聞こえない声量で、答えの返らない問いを呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます