第18話 告解

 それから俺たちはたくさんの街を飲み込んで巡った。

 ときにはほんの僅かに抵抗が可能な人間たちもいたが、ほとんどは無駄だった。俺たちの力の前に人間はあまりにも弱かった。

 当然のことだ。無数の意識の集合体である俺たちは無限にも等しい力を持っているのだから。この世界においては1つ1つの意識が魔力というこの世界特有の力を持つ。それはすなわち、無数の意識と無限の力を繋ぐ理だ。

 俺たちは寄り集まってできた単一の存在だった。普段は藤原悠司だった肉体を模ってはいるが、そこから溢れ出す無尽蔵の汚泥が俺たちだった。そこにはありとあらゆるものを飲み込むことができた。人も、無機物も、何もかもを。


 飲み込まれる過程で取り込まれていく人間はみな一様に苦痛の悲鳴をあげた。身を灼き、精神が他者のものと混じり合う恐怖からくる叫び。その感覚は俺たちには当然感じることができた。何故なら飲み込まれた彼らは俺たちの一部になるからだ。

 混ざり合うときに彼らが感じた絶望が俺たちに更なる力を与える。そして飲み込まれていく彼らもまた同様に俺たちと同じ言葉を思い描く──何故、と。

 そうすることによって俺たちは初めてとなることができた。そのときになって初めて、俺たちと彼らは隔たりをなくし真に対等な存在になることができたのだ。


 それを続けていくうちに世界が俺たちを認識しはじめた。世界を飲み込む悪魔。闇より現れし終焉。世界の終末そのもの。

 いつしか彼らは俺たちの名を知ることとなった。リヴァイアサン。我らが我らのために名付けた認識のための記号を。

 世界からの反発はすぐに始まった。幾度となく討伐隊が我らに向かってきては我らとひとつとなった。

 1度広がり始めた破滅が止まることはない。我らはこの世界の裏側の真実を知らしめるまで止まりはしない。


 俺は──俺たちは自らの行いになんら躊躇はなく疑念もない。我らには絶対の悪性による絶対の善性があると信じて疑わなかった。

 だがそれが盲信であったということを俺たちは知ることとなった。


 俺たちは自分たち自身を、自分たちと同じような存在の全ての代弁者であり、彼らの救い手であると思っていた。現実という圧倒的な存在を前にして為す術なく打ちひしがれる者たちの、絶望の声を拾い上げてその無念を晴らすための存在なのだと。

 しかし、たとえ神が実在していたとしても全てを救うことはできない。まして神ではない俺たちにそれは不可能だった。そのことは自明の理だった。

 だというのに俺たちは見誤っていた。この世界に匹敵するだけの力を持ち、存在意義を獲得してそれを顕示できるということと、同族を救えるということは全く別の問題だった。

 俺たちには──我らには救えないものがいたのだ。どうあがいても変えられない運命。我らはその担い手ではなかった。


 死。それは全てに対して平等に訪れる。絶対的に不可逆な変化をもたらすそれを我らは自らのものとしていると誤認していた。それは大きな過ちだった。

 我らはその罪を自白しなくてはならない。我ら以外の存在による悪行と同化しないためにも。

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