桜吹雪の交差点で
kayako
突然の別れ。そして、桜吹雪の中で――
私と彼女は、いつも一緒だった。
雨の日も風の日も、食べる時も寝る時も、私たちはずっと一緒だった。
いつも清潔な制服に身を包んでいた彼女。その首筋から漂う、レモンの香り。
私はその匂いが大好きだった。
だけど別れは、ある風の強い春の日、突然に訪れた。
桜吹雪の舞う交差点で――
ふとした拍子に、私の手はするりと彼女から離れてしまい。
友達とのお喋りに夢中だった彼女はそれに気づかず、行ってしまった。
ただ一人、桜の花弁が舞い散る道へ、置いてきぼりにされた私。
しばらくして、酷く慌てた様子の彼女が、私を探しにきたけれど――
私の姿は桜の中に紛れてしまい、ついに彼女は私を見つけられなかった。
泣きながら寂しげに去っていくその背中を見つめながら、思った――
やっぱり貴方は、私のこと、すごく大切だったんだね。
でも、ごめんね。
こうなったら私はもう、幽霊みたいなものだから。
そして春は過ぎ、雨の季節になった。
私は雨に濡れながら、ずっと彼女を待っていたけれど。
彼女は何度も、私を探しにきたけれど。
結局二人は会えないままで――
ある朝。
待ち続ける私をじっと見つめていたのは、ポニーテールの女の子。小学生になったばかりだろうか。
雨に打たれ続けている私にそっと触れながら、彼女は声を上げた。
「ねぇママー、シュシュが落ちてるよ?」
「駄目よ、触っちゃ。汚いでしょ?」
「ううん、汚れてるけど、洗ったらきっとすごくキレイな桜色になるよ?
ねぇママ、これ、あたしのシュシュにしてもいい?」
「ダーメ。そんな泥だらけの……」
「お願い。お手伝い、ちゃんとするからー!!」
こうして私は、今度はクッキーの匂いのする少女の髪に、結わえられることになった。
一度持ち主の髪から抜け落ちたら、それが私たちの最期。そう思っていたのに。
次の年。
桜の舞い散る交差点で――
新しい青いシュシュをつけてスーツを着た彼女と、私は再会した。
少女のポニーテールを飾る私を見て、彼女は少しびっくりして振り返った。
レモンとクッキーの香りが交わり、私をふわりと包む。
驚愕の表情が、次第に穏やかな笑顔に変化していく。
――似合ってるよ。その青。
微笑みながら交差点の向こうへ去っていく彼女に、私もまた、微笑んだ。
Fin
桜吹雪の交差点で kayako @kayako001
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