小公女の小規模な皇国1−3

 この世界は大きく二つの大陸に分かれている。

 西大陸と東大陸。

 どちらの大陸も空は飛竜が制し、地には魔獣が蔓延る。人は自分達の生存圏に高い壁を築き安寧をえていた。

 ニジェイロー皇国は西大陸の最西端に位置する。

 万年無解の雪をいただくソーア山脈に囲まれた、皇国の城からの大地、コレが皇国の全てだ。

「人口5人でどうやって成り立ってるんですか?」

「気になりますか?」

 部屋に案内してくれている赤髪メイドは、ランプを持ちながら顔を向けずに聞き返してきた。

「気にならない方がおかしいです」

「貴方がレクサー公王の紹介だと確定すればお教えいたしましょう。さぁ、こちらがウォーチアスさんの部屋になります。薪はご自由にお使いください。生活魔法は使えますか?」

「すいません。東大陸出身なもので、魔法はからっきしでして」

「カタン教の信者でしたか」

「いや、私自身は無宗教です。教会の孤児院で育ったもので魔法に触れる機会がなかったんです」

 カタン教は東大陸で広く信仰されている一神教で、信者が魔法を使ったり研究する事を固く禁じている。一部資格を持った司教が限られた魔法を使えるのみで、基本的には魔法と関わる事は禁忌とされている。

「教会の孤児院出身なのに無宗教ですか?」

「私の肌に合わなかったんです。排他的なのはどうも苦手でして。おかげで私には、未だ信じる神が見つかりません。…あ、でも教会に感謝はしてますよ?教えがなければ、魔獣に紛れる盗賊のような道徳感で生きる事になってたでしょうから」

「そうでしたか」

 あまり無宗教だと言うと教養を疑われるので少しはカタン教を立てておく。

 しかし、私が質問を始めたはずなのにいつのまにか私が質問されている。コレひょっとして軽く尋問されてる?

「ウォーチアスさん、壁の角灯に油を多めに入れておきました。火種としてお使いください」

「ありがとうございます」

「それと、レクサー公王からの確認が取れるまでは、貴方は客人と咎人の狭間にいます。盗み聞きのようなはしたない行為はご遠慮願います」

 いい終わると同時に扉が閉まり、私は一人になった。あの赤髪メイド、髪と瞳は燃えるような色をしているが、態度はソーア山脈の雪より冷たい。まぁ、好奇心に負けて人口五人の情報を聞いた私も悪いか。

 あの態度から察するに、騙りものだと疑われてるのだろう。レクサー公王の返事が届けばいずれこの疑いは晴れるだろう。

 今日1日でかなり気疲れした。しかし、暖かい寝床暖かい飯にありつけるのは本当にラッキーだ。今日という日を感謝しつつ私は床についた。


 そしてそのまま5日間寝込む事になる。


 普通に考えたら当たり前だ。急激な上昇と下降を繰り返し、寒い場所で薄着で過ごす…身体を壊さないわけがなかった。頭痛と嘔吐を繰り返し、何度か気絶した。

 レクサー公王からの手紙は3日後には届いたので、2日間はすごく丁寧な看病などの扱いを受けた。

 冷酷だと思ってた赤髪メイドにめっちゃ優しくされて、ちょっと惚れそうになった。


 









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱庭の皇国で 枕屋 @makuraya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ