覗かれる部屋 後編
深夜の3時頃。何かの音がうるさくて、目が覚めた。
——何の音だろう?
窓の方を見ると、なぜか、外が見えた。寝る時には、カーテンが閉まっていたはずだ。
そして外の音に耳を澄ませると、おじさんが「うーん」と
——もしかしてこの音って、ヨシが「ゴロゴロ」と言っていた音なのかな? どう聞いても、おじさんが唸っているように聞こえるけど……。
霊感が有るか無いかで、聞こえ方が違うのだろうか。
すると、窓に大きな影が映った。
布団の中に隠れていた私が、少しだけ顔を出して窓を見ると、窓枠と同じくらいの大きさの、巨大な目が視えた。部屋の中を観察するように、ギョロギョロと動いている。
目の大きさからすると、やはりヨシが言っていた通り、顔だけしかないのだろう、と思った。窓に近付く影も、丸く視えていたからだ。
丸顔のおじさんで、目はとても大きく、まつ毛が長い。そして、
私は人ならざるものが視えても、顔のパーツが分からないので、もしかしたら視えないかも知れない、と思っていたが、とてもはっきりと視えている。ただ、視えたところでそれが霊なのか、妖怪なのかはよく分からなかった。
——でも、耳鳴りはしていないし、頭痛も吐き気もない。それに嫌な感じもしない。やっぱりこれは、妖怪なのかな?
私が色々と考えを巡らせていると、大きな顔はまた「うーん」と音を出しながら、隣の家の方へ移動して行った。
大きな顔がいなくなったので、布団から出てヨシを見ると、彼は頭から布団を被って震えていた。やはり普通の人は、ただ人ならざるものが視えただけでも怖いのだろうか。
怯えている人の反応を見ると、自分が人ならざるものに慣れ過ぎて、おかしくなっていることに気付かされる。
「もう行ったよー」と声をかけると、ヨシはゆっくりと布団から出てきた。
「なんで平気な顔をしてるの? 怖くないの?」
ヨシは布団に抱きついて、今にも泣き出しそうな顔をしている。こういう時は、落ち着かせてあげるような言葉をかけた方がいいのだろうか。
「僕の家には、もっと怖いのがいるからね。あの大きな顔は、何もしないから大丈夫だよ」
そう言って私が笑うとヨシは「そうなんだ……」と、呆気に取られた顔をして、布団に倒れ込んだ。もう震えてはいないので、少しは安心させてあげることができたようだ。
そして、ふと窓の方に目をやると、カーテンは閉まっていた。私たちが触っていないのに閉まっているということは、あの大きな顔が、部屋の中を見るためにカーテンを開けていたのかも知れない。
私が視た限りでは、大きな顔は家に取り憑いているわけではなさそうなので、しばらくしたら来なくなる気がした。探し物がここにはないと分かれば、
しかし、ヨシが怖がっているので、なんとかしてあげたい。
相手は話が通じない存在で、行動を理解するのも難しい。いつになったら来なくなるのかは、誰にも分からないのだ。明日はもう来ないかもしれないし、ずっと来るかも知れない。
——うーん……。どうすればいいんだろう。部屋の中が見えなくなれば、来なくなるかな? 何かで隠してみようか。
窓の前に置くものはないかと考えていると、廊下にあった観葉植物を思い出した。
観葉植物には、父と同じくらいの大きさの『何か』が憑いている。ヨシはそれに気付いていないので怖がることはないだろうし、そばへ行ってみても、悪意は全く感じない。ただ観葉植物のそばに立っていたいだけなのだろう。
あの大きな顔は、カーテンを開けるくらいの力があるようなので、物を置いても退けてしまうかも知れないが、人ならざるものが立っていれば、大きな顔も手出しができないような気がした。
「この観葉植物を、窓の前に置いてみたら?」
私が助言するとヨシは「それなら大きな顔が来ても見えないね」と笑顔になった。
ヨシはおそらく、観葉植物で目隠しをするのだと思っているのだろう。残念ながら私は、人ならざるもので目隠しをしようと思っているのだけれど。
それから2人で観葉植物を運んで、窓の前に置くと、人型の黒い影は窓の半分以上を隠してくれた。これで大きな顔も、窓の両端からしか、部屋の中を覗けなくなるだろう。
月曜日の朝。ヨシは明るい笑みを浮かべていた。
「上手く行ったよ。夜中にまた来たけど、部屋の中を覗かずに帰って行ったんだ」
彼があまりにも嬉しそうに言うので、私は少し複雑な気分になった。
大きな顔は来なくなるかも知れないが、彼の部屋の中には、今も人ならざるものが立っているのだ。
——観葉植物に何かが取り憑いていることは、言わないでおこう。
絶対に秘密を守り通すと、私は心に誓った——。
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