第34話 遊び場(不思議)前編
我が家には、あまり使われていない小屋がある。
家よりも広いその小屋は、昔は
そして小屋は奥の扉からも外へ出ることができる。扉の外には細い道があり、裏山や畑へ行くこともできた。
道は全て山を削って作られていて、大人なら1人が何とか通れるくらいの幅の、細い山道だ。もちろん足を滑らせてしまうと、山の下まで転がり落ちる。そんなに高い山ではないので死にはしないと思うが、大怪我をすることになるだろう。
そんな道でも子供の頃は、秘密の抜け道みたいで面白いな、と思っていた。探検好きの子供にとっては、格好の遊び場だ。
小屋の中にも、興味深いものがあった。
小屋のちょうど真ん中辺りの、右の壁には、大人が3人ほど入れるくらいの穴があいている。祖父によると、昔は防空壕として使われていたのだそうだ。ただ、それを聞いた時には、
——こんな山の中に、どうして防空壕が必要だったんだろう?
と思ったのを覚えている。
家の周りの山は手入れがされていないので、大きな木が生い茂っていて、少し山に入っただけで薄暗くなる。上空を飛行機で飛ばれても、人間どころか、民家を見つけることもできないような気がする。
小屋の中にあるその穴は大きな板で
紙垂とは、ジグザグに切ってある白い紙のことで、神社などでしめ縄や玉串に飾られているものだ。一般的には神聖な場所で見ることが多いものだが、私の家では過去に災いが起こった場所や、不吉な物を祀る為に置かれていた。
つまり元防空壕だったという穴は、何かの災いが起こった場所ということになる。
大人たちには、その穴には近づいてはいけない、と言われていたので、私は穴の中がどうなっているのかは知らなかった。ある時までは——。
小学生になったばかりの頃。
犬と遊んでいる時に、ふと、小屋の中が気になった。
小屋の中には工具などがたくさん置いてあり、危ないので入ってはいけないと言われていたが、周りを見ると誰もいない。あまりいい子ではなかった私は、こっそりと小屋の中へ入って行った。
小屋に入るのもダメ、穴に近づくのもダメ、なんて言われると、やはり見たくなってしまうものだ。
穴の前には自分の背丈と同じくらいの、大きな丸い板が置いてある。
随分と分厚い板なので、重そうだなと思った。太い木を輪切りにして、そのまま使ってあるようで、簡単には転がらないくらいに周りがデコボコとしている。
大人たちが近づいてはいけないと言うのだから、よくない場所だということはなんとなく分かるが、目の前に立つと、好奇心の方が優ってしまった。
——中がどうなっているのか、見てみよう。
真っ白な紙垂が汚れるとバレてしまうと思ったので、そっと紙垂を退けて、分厚い板を動かそうと手を伸ばした時——。
「こらっ!」と、祖父の大きな声が小屋の中に響いた。
やはり悪いことは、すぐにバレてしまうものなのだろう。結局その時は、穴の中を見ることはできなかった。
ただ、小学校に上がったばかりの頃は、1番色んなものに興味があって、人ならざるもの達もよく視えていた時期だった。
不思議なものを見かけると追いかけて、危ない場所に平気で入ったりする悪い癖もあった私は、大人たちが近づいてはいけないと言う穴が、気になって仕方がない。
するとその頃から、同じ夢を何度も見るようになった。
その夢で私は、元防空壕の穴の中へ入って行く。穴の中には自分よりも2・3歳年上に見える男の子がいて、私はその男の子と遊んでいる。
一緒に木製のコマを回したり、お手製の積み木のようなものを積んだり、他愛もない話をしたり、男の子と遊ぶのはとても楽しかった。
私より男の子の方が大きかったので、お兄ちゃんが出来たような感じで嬉しかったのを覚えている。
しかし、いくら楽しくても、それは夢の中の話だ。現実とは違う。
それなのに、幼かった私は何度も同じ夢を見る内に、その男の子を現実でも友達だと思い込んでしまった。
そして、感が鋭い祖父が旅行に行っていた時。
私は小屋へ行って、穴の前にある大きな板を、退けることにした。
あの大きな板さえなければ、男の子と毎日遊べると思ったのだ。
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