第24話 神社の祭り(不思議)前編

 手入れが行き届いている神社の境内けいだいは、好きだ。


 秋の、晴れた日の早朝みたいに空気がんでいて、気持ちがいい。人ならざるもの達なんてどこにでもいるが、綺麗な境内では、嫌なものに出会したことはない。


 日本人は、神社は神聖なもの、というイメージが染み付いているので、自分が悪いものだと分かっていれば、近付かないのかも知れない。


 きっと、はらわれてしまうと思うのだろう。




 私の実家がある地域では、秋になると小さな祭りが行われている。一応、露店ろてんのようなものもあるが——。それは大きな祭りのような、ちゃんとしたものではなく、地域の人達が自分で出しているものだ。


 わたあめは、おじさんに100円玉を渡すと、自分で作らせてくれる。そして、おでんと日本酒が、長机の上に並んでいる。まるで親戚の家にでもいるような雰囲気だ。


 祭りの当日は子供神輿や、くじ引きが行われていて、前日の夜は19時から夜中の1時頃まで、神楽が行われる。


 正直に言うと、私は神楽には興味がない。ただ、その日だけは夜中まで遊んでいても怒られない日だったので、毎年、友人達と神社に行っては、夜中まで遊んでいた。


 神楽は、昔は大人たちが舞っていたらしいが、今は子供神楽になっていて、中高生が中心になって舞っている。大人たちは笛や太鼓など、楽器の演奏と裏方だ。



 

 中学3年生の、秋祭りの日。


 私は友人たちと一緒に神社へ行き、街灯もない真っ暗な石段の下で、ゲームをして遊んでいた。ど田舎なので遊びに行く場所なんてないし、コンビニすらない。遊ぶといえばゲームしかないのだ。


 そして、夜中の0時を過ぎた頃。


「ねぇ、寒くて指が動かなくなってきたんだけど……」


 友人のトモキがゲームを中断して、ポケットに手を突っ込んだ。たしかに私も、手が動かしづらくて、さっきから負けてばかりだ。


 長袖の分厚いパーカーを着ていても、手足が冷たくなる程寒い。みんなが吐く息が、白くなっているのが分かる。


 いくら深夜だと言っても、まだ10月だ。都会に住んでいる人たちは、薄手のジャケットを羽織るくらいだと思うが、街中と山奥の町では、気温が5度も違う。分厚いパーカーを着ていても、震えるほど寒いのだ。


「さむ〜」と言いながら、トモキは隣の友達に抱きつく。


 そんなトモキを見ていると、ふと、境内で焚き火をしているのを思い出した。境内の中にも外灯などはないので、何ヶ所かに火を焚いて、境内を明るくするのだ。


「なぁ、トモキ。上で焚き火やってるからさ、温まりに行く?」


 私が言うと「行こう、行こう」と言って、トモキは立ち上がった。


「他に一緒に行く人は?」


「あと1時間くらいだから、いいや」


「じゃあ、温まったら、また戻ってくるよ」


 そう言って、私とトモキは境内へ向かう。


 石段を上り焚き火のそばに行くと、笛や太鼓の音が突然聞こえだし「これが最後の演目だよ」と、隣に立っていたおじいさんが言った。


 その演目は毎年、祭りの締めとして披露されている演目で、捕らわれた姫様を救う為に、2人の男性が敵と戦うものだ。締めの演目なので、着物も舞も、派手なものになっている。


 神楽に興味はないが、何度も目にしたことがあるので、大体の流れは分かっていた。すると、いつもは2人だった着物の男性が、なぜか3人いる。


 ——毎回同じだと面白くないから、今年は1人増やしたのかな? 


 小さな町の、小さな祭りなので、演者の気分で変更されることもある。客も顔見知りばかりなので、巻き込まれて舞台に上げられることもあった。誰かがやりたいと言えば、1人増えても不思議ではない。


 演目の中盤頃になると、音楽は少しずつ早くなって行き、舞も激しさを増して行く。片足立ちでくるくると回る動作が多いので、舞っている人たちはよく目が回らないな、といつも感心する。


 そして私の目は、ある人物に釘付けになった。薄い水色に、銀色の刺繍がしてある着物を着ている男性だ。


 神楽は1つの演目で、30分以上舞うことになる。激しい舞の演目は、後半になると、体力のある中高生でもバテてくる。段々とテンポが合わなくなり、足元がふらついたり、たまにぶつかる事もあった。

 

 それでも、水色の着物を着ている男性だけは、ずっとキレのある動きで、音と舞がずれることもない。流れるような太刀捌きも、とても美しい。神楽に何の興味もない私でも引き込まれる程、力強くて綺麗な舞だ。


「なんか今年の神楽、すごいな」


 私が言うと、トモキは「そう?」と返す。


 私が言うのもどうかと思うが、トモキは本当に見る目がないと思う。あの水色の着物を着た男性なら、こんな田舎の神社ではなく、もっと大きな舞台で活躍できるはずだ。

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