呪いの館と人形部屋 3
隣にある支度部屋の上から
それは家族ではない。親族を恨んでいる私のご先祖さまは、未だに成仏することなく、支度部屋の中で私たちを呪っている。すでに人の形ではなくなってしまったご先祖様が、
——なんで、こんな家に生まれたんだろう……。
心の底からそう思ったが、子供の自分には、どうする事もできないという事は、ちゃんと理解していた。この家から出られるのは、もっと大人になってからだ。
それに、霊体が視えない人たちに助けを求めても、誰にも理解してもらえないし、助けてもくれない。絶望している暇があったら、考えないと。
正体が分からないものと、家を呪っているご先祖様。どちらも嫌だが、選ぶなら、元々家にいるご先祖様の方がマシだと思った。
睨まれるくらいのことは、もう慣れている。
私は四つん
すると、人形の中から出てきそうになっていた何かは、ゆらりゆらりと何度か揺れた後、人形の中へ戻って行った——。
うつ伏せになった人形が、静かに床に転がっている。
おそらく、元々家にいるもの達の方が、力が強いのだろう。彼らは、私が生まれるよりもずっと前から、呪われた家の中で力を
私は放心状態で座り込んだまま、人形を見つめていた。
そして、ふと気がつくと、人形たちが飾られた棚の向こう側には、人間よりも大きな影が揺らめいている。嫌な感じはしていなかったが、あまりにも大きかったので、ギョッとした。
——あれは一体、何の霊なんだろう……。
その大きなものが、いつから人形部屋にいたのかは分からない。もしかすると、ずっと前から部屋の中にいたのに、人形たちに気を取られて、気付かなかっただけなのかも知れない。
私の家はなぜか、人ならざるものたちが集まって来てしまうのだ。居心地がいいのか、一度家に入ってくると、中々出て行ってもくれない。
家の中には、得体の知れない何かが、ひしめいている。
ここは本当に、外と同じ世界なのだろうか。
その日の夜、私は熱を出した——。
記憶は全くないが、ずっと
それでなくても、幼い頃から恐ろしかった人形部屋。あの、黒地に赤い花柄の着物を着た人形にまつわる出来事は、私のトラウマとなり、その後は部屋に近づくことはなくなった。
——あぁ、嫌なことを思い出してしまった……。
寒気を感じた私は、法事が終わった瞬間、逃げるように実家を後にした。
帰りも、私が車を運転して、タキは助手席に座る。私は過去の嫌な出来事を思い出し、タキは得体の知れない恐怖を感じて、2人共、黙り込んでいた。
勝手に再生されているロックバンドの曲も、全然耳に入らない。無言のまま、しばらく車を走らせた。
車が1台しか通れないような田舎道を10分程走り、大きな道路に出ると、少しだけ気分が楽になる。実家から離れることができたという、安心感なのかも知れない。
すると、ずっと黙っていたタキが、やっと口を開いた。
「なんか、あれだな。お前の家って……」
そこで言葉が詰まったタキの言いたいことは、何となく分かる。
「「呪いの館」」
2人の声が重なって、思わず吹き出した。緊張が解けて、タキの顔にも笑顔が戻る。
「俺も、色んな心霊スポットに行ってるけどさ……。お前の家には、もう行きたくないわ……。『呪いの館』っていう映画が作れそうだ」
タキは苦笑いをした。私でさえそう思うのだから、巻き込まれたタキが『行きたくない』と思うのは当然だ。
「ありがとな、ついて来てくれて。退屈だったんじゃないか?」
「いや、俺も1回行ってみたいとは思ってたんだよ。毎日、怪奇現象が起こる家って、心霊スポットよりすごいじゃん。でも、あそこまで酷いとは思ってなかったよ……。誰もいない場所から足音が聞こえたり、何かに触られたような気がしたんだけど……。もしかして、俺も霊感が強くなったのかも知れないな」
タキが目を輝かせて私を見た。
「まぁ、あの家がそういう場所なんだよ。別に、霊感とは関係ないと思うよ」
「やっぱり、そうだよな。他の場所で何かを感じたことはないからなぁ。お前の家が呪いの館だから、変な気配を感じたのか」
「そうそう。それに霊感なんて、無い方がいいんだよ」
私が言うとタキは「そうかなぁ?」と、不満げに返した。今、怪奇現象が起こる私の実家にはもう行きたくない、と言ったのに、もう忘れたのだろうか。
霊感が強くても、いいことなんて一つもない。
私はタキの右足を、ちらりと見た。
タキの膝には、小さな女の子が、抱きついている。
私の実家からついて来た子だ。しっかりと膝を抱え込んでいるので、当分離れないだろう。女の子がタキの足に抱きついているのは、ずっと視えていたが、まさか付いて来るとは思わなかった。もちろんタキは、女の子には気付いていない。
もし霊感が強くなっていたら、彼は今、笑ってはいないと思う。
——ほら、霊感がなくてよかったでしょ?
私は心の中で
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