事故物件 3

 案内が終わり職場に戻った彼は、すぐに上司にその事を話し、過去に何があったのかを調べた後、会社は物件を手放した———。


 彼が案内したその古い家には以前、高齢の夫婦が住んでおり、おばあさんは寝たきりだったらしい。


 そして、介護をしていたおじいさんの方が先に、突然亡くなってしまったようだ。残されたおばあさんも、そんなに長くは生きられなかっただろう。


 発見されたのは、死後数日経ってからだった。と聞いた。

 

 身体がなくなってしまった今も、寄り添いながら家に残っている2人の姿を、男の子は視てしまったが、家の中にいる間は、知らないふりをしたようだ。



 ———その話を聞いて私は、賢い子供だな。と思った。


 人ならざるもの達は、おびえたりして意識を集中してしまうと、自分の事が視えているんだと気付いて、憑いてくる事があるのだ。私も視えてしまった時は、気付かないふりをしたり、気をらすためにくだらない事を考えたりする。


 その子供が、普段から視えているのかどうかは分からないが、そのことをちゃんと理解しているのだろう。だからこそ、押し入れにいたおじいさんと、おばあさんに気付かれないように、家の外に出てから、小さな声で彼に伝えたのだ。


 そして多分両親には、何も言わなかったと思う。


 ———それにしても、心霊的なことに関わったことがなかった彼は、相当恐ろしい思いをしたに違いない。


 大人に言われると、冗談かな? と流せるかもしれないが、けがれていない小さな子供に真顔で言われると、もう信じざるを得ない。彼はその日からずっと背後が怖くて、誰かに話したかったそうだ。


 ただ、そんな何の根拠もない事を話しても馬鹿にされそうな気がして、仲の良い友人にも話せなかったと言っていた。それに、もしかすると、男の子に告げられて、本当に人ならざるものがいると信じたからこそ、言わない方がいい、と感じたのかも知れない。


 口に出すと、引き寄せてしまう事もあるからだ。


 そこへ運命の巡り合わせか、偶然私に再会し、霊が視えると連想させるような事を口走ったので、飛びついたらしい———。


 私は何故か、そういう場面に出会すことが多い。


 霊感があることを知らないはずの人達に、心霊的な相談をされるのは、よくある事だ。そして、ファミレスを出た後、


「俺の後ろ、なんか憑いてない?」


 と不安げな表情かおで訊かれたが、


 彼の近くに立っても特に何も感じなかったので、


「別に何にもいないよ」


 と背中を強めに2発叩くと、彼は安心したのか、元の明るい表情に戻った。


 不動産関係の仕事をしていると、怪奇現象が起こるとか、幽霊が出たなどのクレームは珍しくないそうだ。


 彼の会社では、人が亡くなった時だけでなく、心霊的なクレームが起こった場所も事故物件と呼び、酷い場所は問題が起こる前に、手放すようにしているらしい。


 そうしないと、後でトラブルになったりして、実際に会社が訴えられて裁判になった事もあるそうだ。


 たしかに私達が知らないだけで、毎日たくさんの人が自宅で亡くなっている。悲しい事だが、亡くなって随分経ってから発見されるのも、別に珍しい話ではないと聞いた。



 警察官をしている友人と、孤独死の話になった時、


「そんなん毎日だよ。早く見つかればいい方だ」


 と、事もなげに言っていた。

 

 1つの警察署に、1日に何件も遺体発見の連絡が入るらしい。


 彼にとっては当たり前のことで、私達がテレビや新聞で知るのは、ほんの一握りの事件だけなのだろう。



 内装業をしている親戚も、アパートの住人が退去した後、壁紙を張り替えていると、部屋の中に男の子が座っていた事があると言っていた。


 もちろん、生きている子供ではなかったらしい。


 なぜ親戚がそう思ったのかと言うと、後ろが透けて見えていて、子供が現れた瞬間から、部屋の中が異常に寒くなったそうだ。そして、一度声をかけてみたそうだが、何の反応もなかったと言っていた。


 膝を抱えて座ったまま、じっと玄関を見つめていたらしい子供は、いったい何を待っていたのだろうか———。



 不動産業界では誰かが亡くなっていても、次に入居する人にしか、その事を伝える義務はない、と聞いた。


 しかし、世の中には霊感の強い人間が存在する。人ならざるものがいれば視えるし、他の人たちより強く影響が出てしまう事もある。

 

 取り憑かれて1番恐ろしいのは、意識があるのに、身体の自由を奪われてしまうことだ。


 自分ではもう、どうする事もできない。


 新しい被害者を出さない為にも、知りたい人には真実を伝えるようにして欲しいものだ。


 入居した後に気が付いたとしても、


 もう、逃げられないのだから———。


 

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