事故物件 2
たしかにどの物件も築10年以内で、写真を見る限りは明るく感じる。
———これなら大丈夫かな……。一度は納得した。しかし、しばらくすると今までの苦い経験がふと、脳裏に浮かんできて、不安になった。
『安い部屋』と『事故物件』が、どうしても切り離すことができない。同級生を疑うわけではないが、私は物件情報に目を通しながら、探りを入れた。
「安い物件は、良くないのも多いでしょ」
と、最初は
すると彼は、
「変な所には連れて行かないから、大丈夫だよ」と、冗談ぽく言って笑った。
「本当に? 安い物件なんて、何かあるから安くなってるんだろ?」
「同級生にそんな物件紹介しないよ」
「———て事はやっぱり、事故物件も取り扱ってるんだ。それってどの辺りの物件? 教えてよ。言わないからさ」
「ないない、大丈夫だって。心配するなよ」
私はかなりしつこく訊いたが、彼は全く顔色を変えなかった。やはり、不動産関係の仕事をしていると、そういった話題にも慣れているのだろう、と思った。
こちらが何を言ってもサラリとかわして、さすが営業マンといった感じだ。
私は人ならざるものが視えたり、感じたりするのを、いつもは他人に勘付かれないようにして話をしている。バレてしまうと、
同級生の彼も、もちろんその事は知らなかった。
それなのに私は、会話が弾んでいたのでついつい、
「何かいても、昼間じゃ視えない事が多いから、分からないよね」
と、言ってしまった。
私は言い終わった後になって、
———しまった! と思い同級生の顔を見るが、もう遅い。
———また、何か言われるかも知れない……。
そう思ったが、彼の反応は、私が思っていたものとは、違うものだった。
私の言葉で何かを察したのか、ずっと笑顔だった彼の顔がこわばって、目が泳ぎ始めた。顔はみるみる青白くなって、唇の色が悪くなる。髪の生え際には一気に汗が
いくら鈍い私でも、何かがあったのは分かる。
彼は一度肩にグッと力を入れたように見えて、それから、
「後で、外に行って話そう」と小さな声で言った。
そのまま物件の情報について話を続け、昼になったところで、私たちは近くのファミレスへ向かった。
+
店へ着くと、彼は店員の案内を断って、周りに人がいない隅の席へと歩いて行く。そして、昼休憩までずっとソワソワしていた彼は、席に着くなり切羽詰まった感じで訊いてきた。
「なぁ、もしかして霊感ある? 視える?」
全く霊感のなさそうな彼の口から、そんな言葉が出たことに驚いたが、詳しいことを話す必要はないので、
「まぁ、何回か視えたことはあるよ」
とだけ答えた。
すると彼は、今にも泣き出しそうな顔をして「良かった……」と、一度目を
+
先日、ある若い家族を案内したらしい。
今はマンションに住んでいるが、子供部屋が欲しいので、一軒家を探している、という家族だ。
男の子は幼稚園の年長で、色んな物件を楽しそうに見てまわる。初めて自分の部屋が貰えるのだから、それは嬉しいに違いない。
そして、ある古くて、大きな家に行った時の事だった。
男の子は、1階をはしゃぎながら走り回った後、両親と一緒に2階を見に行った。それは、この家に住むと決まった時に、自分の部屋をどこにするのかを考えるためだ。
しかし、今上がったばかりなのに、男の子は何故かすぐに下りてきてしまった。
他の物件では両親と、もっとじっくり話し合っていたので不思議に思ったが、もしかすると、気に入らなかったのかも知れない。それに、小さな子供なので、もう飽きてしまったのかも知れない、とも思った。
男の子は2階から下りてくると、そのまま小走りで彼に駆け寄る。
「もう見なくていいの?」
と声をかけると、男の子は黙って
———ついさっきまでは、あんなに楽しそうにしていたのに……。
急に元気がなくなってしまった男の子に、何があったのかが気になる。
彼は色々と考えを巡らせた。黙っている男の子は、不機嫌なようにも見えるので、親と喧嘩をしたのかも知れない、と思った。そこで、
「じゃあ、お兄ちゃんも一緒に行こうか?」
と男の子の顔を覗き込んだ。しかし、
「……」男の子は首を横に振った。
「でも、自分の部屋が欲しいんでしょ?」
彼は再び言ったが、
「……」男の子は首を横にふる。
その後、何度か話しかけたが、男の子はじっと階段の方を見ているだけで、全然構ってくれなくなってしまった。
———ずっとはしゃいでいたから、疲れたのかな? そう思った。
男の子は無表情のまま、何も喋らずに両親が降りてくるのを待っている。しばらくして両親が降りてきたが、それでも近寄ることはなかった。やはり、明らかに様子がおかしい。すると男の子は、
「早く他の家を見に行きたい」
と、彼の服をグイグイと引っ張って、玄関へ向かった。
———この物件は古いから、気に入らなかったのかな。
そう考えていると、一緒に玄関を出た瞬間、
男の子はくぐもった声で、ぼそっと
「押し入れに、じーちゃんと、ばーちゃんがいた……」
隣にいた彼だけにその声が聞こえて、
一気に全身の毛が逆立った。
それまでは何も気にならなかったのに、
急に身体が重くなったように感じる。
———本当に、家の中に何かがいるんだ……。
男の子の言葉が本当だと信じた彼は怖くなり、その後に紹介した物件のことは、あまり覚えていないらしい。
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