第15話 事故物件(ホラー)1

 春になり、就職先が決まった私は、新しい部屋を探す事にした。


 私は朝が苦手なので、会社から近い場所を歩きながら探していると、すぐ近くに不動産会社を見つけた。探す手間が省けた、と喜んだ私が店舗の中に入ると———。偶然というのは本当にあるもので、その不動産会社には、中学生時代の同級生がいて、驚いた。


 彼は大学を1年前に中退し、就職したらしい。



 中学生時代はあまり目立たないおとなしい子。という印象だった彼は、丸1年不動産業の営業を経験した為か、話し上手な明るい青年になっていた。


「なんか変わったね、垢抜あかぬけた感じがするよ」


 と私が言うと、彼は照れくさそうに笑った。


 彼は中学校を卒業すると同時に、親の転勤で遠くの高校へ行ったので、最後に会ってから7年が経過していた。そして彼は私を見ながら、


「みんなも変わってるんだろうな。中学校を卒業してから、一度も会ってないもんな」と、目を細めた。


「まあね。高校生になって学校が離れたら、もう会うこともないよな。連絡先が分からない奴も結構いるし」


「そんなもんじゃない? 1番仲がいい友達って、大学に行き出してから仲良くなった奴だよ」


「あぁ、分かる分かる。環境が変わると、仲良い人間も変わるんだよな」


 本当に偶然だったので驚いて、その分話も弾んだ。


 そして、知人なら敷金礼金を少し安くしてくれるのでは。

 と、私は期待した。


 最初はとにかく、会社に近くて安い部屋、という条件で探してもらった。

 しかし、紹介されたのはとても古い物件ばかりで、写真を見ただけで、なんとなく、嫌な予感がした。

 

 私の悪い予感はよく当たる———。

 物件に関しては、今までの経験もある。



 初めて一人暮らしをしたのは、築30年程の木造アパートだった。

 

 とても古いアパートが何棟も並んだ場所だったが、古くて家賃が安いアパートは、もちろんそれまでに、住人が何度も入れ替わった場所になる。


 その分だけ、色んなものが溜まっている事が多い———。


 私が住んでいたのは2階の部屋だった。

 下の部屋はいつもカーテンが閉まっていて、住人の姿を見たことはなかったが、部屋前を通ると必ずと言っていい程、痛いくらいの視線を感じた。


 閉まっているカーテンの奥から、誰かがこちらを見ているのだ。


 そして、寝ている時には何度も金縛りになった。


 もしかしたら自分が気付いていないだけで、部屋の中には視えないものがいるのかも知れない———。そんな風に思っていたら、実は下の部屋で亡くなった人がいたらしい。


 その影響で、金縛りになっていたようだ。


 下の部屋で誰かが亡くなっている、なんて告知義務はないので仕方ないが、自分の部屋に何もいなくても、影響を受ける場合があるという事を知った。


 色々あって、下の部屋はずっと、開かずの間になっているらしい。



 別の築25年の、鉄筋コンクリートのマンションに住んでいた時は、周りはとても古い家ばかりで、廃墟も多い場所だった。


 古い街に不釣り合いな14階建てのマンションに、何か妙な違和感を感じた気がしたが、3階の割には安かったので結局そこに住むことにした。

 すると、私が感じた違和感の正体はすぐに判明する。


 夜中に私がエレベーターから降りようとすると、そこには———、


  黒っぽい服を着た女性が立っている。


 もちろん、生きている人ではない。


 その女性は誰かを待っているのか、いつもはうつむいて立っているだけなのに、エレベーターの扉が開くと、すっと顔を上げる。


 初めて出会した時は、思わず声を上げそうになったので、その後は階段を使うようにした。別に何かされる訳ではないが、暗い廊下に俯いた女性が立っていると、それだけでもう怖い。


 そして夜になると、廊下からは足音が聞こえてくる。


 その音はスリッパをいて、重い足を引きずりながら歩く音に似ていた。


 少し長めの、ザ—… ザ—… という音が響き渡る。


 しかし、廊下をのぞいても誰もいない。

 ただ不気味な音だけが、明け方までずっと聞こえるのだ。


 夜中には何度か、叫び声のような声も聞こえてきたことがある。


 ———やっぱりこのマンションには、何かある。


 そう思っていたら、近くに高い建物がないので、このマンションから飛び降りる人が後を絶たない、という話を聞いた。


 異変を感じていたのは私だけではなかったようで、両隣の部屋の住人たちは、半年もしない内に引っ越して行った———。


 やはり、相場よりも安いということは、それなりの理由があるのだろう。



 そういった問題のある場所も、知人なら教えてくれるだろうと思い、『比較的新しい物件で、安い所を探して欲しい』とお願いした。


 自分でも、ちょっと面倒臭い客だな、とは思う。



 しばらく待っていると、同級生は5件ほど物件情報を持ってきてくれた。

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