災いを呼ぶ子 3

  そこで、仲が良い親戚の叔父さんに、

「仏壇に参って、何か悪い事が起きた事ある?」と訊いた。


 すると叔父さんは、

「仏壇に参ったら良いことがあるものだろ、何言ってんだ」

 と呆れた顔をして私を見る。


 どうやら叔父さんは何ともないみたいだ。


 納得できない私は、従兄弟にも訊いてみたが、

「はぁ? 無いよ」

 と同じように怪訝けげんな顔をされた。


 やはり、仏壇にお参りをする度に取り憑かれるのは、自分だけのようだ。


 人ならざるもの達は、ただそこにいるだけなら特に害はない。


 ただ、こちらが姿を視ようと集中したり、興味を持って話しかけようとすると、こちらを向く事がある。それが取り憑かれるきっかけだ。


 しかし災いを招く男の子は、私が仏壇にお参りをすると、取り憑いてくる。

 条件が少し特殊なので、正体が気になった。


 自分に視えているのが本当の姿かどうかは分からないが、可愛らしい見た目に反して、力がとても強い。


 

 しかも、死にかねないような災いばかり起こす。

 悪霊というよりは、死神と言った方がしっくり来る。



 また別の話になるが、我が家には家を呪っているご先祖様がいて、最初はその人のせいかな、と思っていた。


 ただ、その人は女性なので、男の子自体は別の存在だ。


 他にいると考えると、ご先祖様の被害に遭ったらしき子供が2人いたことは知っている。


 私は祖母と母のことしか知らないが、祖母には本当はもう1人子供がいて、男の子だったらしい。


 その子はまた原因不明だが、1歳の時に体が弱って死んでしまったらしく、今生きているのは3人姉妹だけだ。


 母も、私と妹の他にもう1人子供がいたが、その子は生まれてくることはなかった。まだ性別が分からない頃に死んでしまったが、その子はなんとなく、男の子のような気がする。


 幼い頃は、私には水子が1体憑いていた。

 夢の中でよくその子と遊んでいたが、自分より小さな男の子だったからだ。


 仏壇の間にいる男の子は5歳くらいなので、関係ないかもしれないが。


 災いを呼ぶ男の子は、なぜ我が家の仏壇の間にいるのだろう。


 私は取り憑かれる度に死にそうになるが、男の子からは悪意は感じられなかった。


 普通は悪意を持ったものが近くにいれば、細い針で全身覆われたように、痛くてビリビリした感じがするし、体調が悪くなって、耳鳴りもする。


 しかし、男の子に取り憑かれていても、特に何も感じなかった。


 取り憑くときも楽しそうに、ピョンっと飛んでくるのだ。




 そして、もう1つ気になっている事がある。


 仏壇の間の壁には、とても古い、小さな鏡が掛けてある。


 若い女性が使っていそうな丸い鏡は、手のひら程の大きさで、可愛らしい赤い紐飾りがついている。それは質素な仏壇の間の雰囲気には、似つかわしくないものだ。


 鏡の表面は少し凸凹していて、のぞいても顔はハッキリとは映らない。


 おそらく、現代の技術で作られたものではないと思う。


 もっと昔のものだ。


 母が小学生くらいの頃までは、我が家には本物の刀があったらしいので、もしかすると江戸時代のものかも知れない。


 そして幼い頃は、その鏡の中でチラチラと何かが動くのが視えていた。


 夜に電気はついていないのに、突然光った事もある。


 気にはなったが、高い位置に鏡が掛けてあったので、幼い私では覗くことができなかった。



 ———また鏡が気になったのは、小学校の5.6年生くらいの頃だ。

 

 家で法事があり、その最中に鏡の中で何かが動いたので、気になった。


 ちょうどその頃は背が伸びて、鏡は自分の顔の高さにある。


 近付いていくと、花がたくさん咲いた庭と、赤い橋が架かった池の風景が視えた気がした。


 ———あれは、なんだろう……?


 私が鏡を覗き込むと、それはすうっと、消えてしまった。


 それから何度か鏡を覗いたが、庭が視えたのは、あの一度きりだ。


 そんな不思議な鏡なので、もしかしたら鏡の中にいた何かが出てきたのでは。と思った。


 男の子が災いを呼ぶ力は異常で、他にそんなに力が強いものには出会したことがない。普通ではないので、鏡の中にいた大昔の何かが出てきたと考えても、何の不思議もない気がする。

 

 しかし、彼の正体が何にしろ、とりあえず取り憑かれると、命にかかわるような災いが降りかかるのは変わらない。


 自分の身を守るためには、近付かないようにするのが1番だ。


 それに、私の家にいるのは、災いを呼ぶ男の子だけではない。



 今は何かと理由をつけて実家を避けているが、次にまた訪れなければいけなくなった時、あの家がどんな状況になっているのかと考えると、恐ろしくて仕方がない。


 憂鬱というよりは、恐怖といった方が正しいのかも知れない———。

 

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