災いを呼ぶ子 2

 私が成長して高校生になると、災いも力を増していった。


 焼肉屋のバイトをしていた時には、キッチンの高い所に置いてあった、30枚くらい重なった大皿が、まとめて頭の上に落ちてきたことがある。


 何かの気配に気付いてすぐに避けたが、割れた皿の破片が飛んできて、左腕の肘の辺りに刺さった。半袖だったので指4本分くらい切れてしまい、押さえた指の隙間からは、だらだらと血が流れた。


 見ていた人達から悲鳴が上がったのは、言うまでもない。


 ユニフォームは血だらけになったが、もし霊感が無くて気配に気付かなければ、そんなものでは済まなかった気がする。


 おそらく大怪我か、死んでいただろう。


 宴会用の大皿は、地震対策でゴムのマットが敷いてあった。上の方がずれて落ちたのなら分かるが、なぜ全部まとめて落ちてきたのか、理解できない状況だ。


 誰かが持ち上げてパッと手を離すか、全部まとめて横から勢いよく飛ばさなければ、そんな事にはならない。


 アルバイト先の焼肉屋は、地元で有名な心霊スポットだったが、いくら怪奇現象の多い店でも、そんな命に関わるような出来事が起こったのは初めてだった。


 血だらけの私を見て、

 次は自分の番ではないか———、とみんな怯えていた。


 他の従業員達には、私の腕に掴まっている男の子は視えないからだ。


 ただその時、従業員の中に1人だけ霊感の強い女性がいて、彼女は私なんかと違って、ちゃんと視える人だった。


 そして彼女は ぼそっと、

「また厄介なものを……」

 と一言つぶやいて、仕事に戻っていった。


 私には、霊体の顔はよく視えないが、取り憑いているのは小さな可愛らしい男の子に視える。


 他と違う事と言えば、私は人ならざるものが影として視える時、大体は周囲と同化した感じか、緑色や黒っぽく視えるが、


 彼はに視える。それくらいだ。


 しっかり視えている彼女には、どう視えているのか訊こうとしたが、しばらくの間、徹底的に避けられて、電話にも出てもらえなかった。


 『厄介』とは一体何のことなのだろう。私は、腕に掴まっている男の子を視ながら、それまでとは違う不安を覚えた。


 

 車の免許を取ってからは、事故に合う事が多くなった。


 もちろん自分が起こした事故ではない。


 ある時は直線の道路なのに、対向車が突っ込んできた。


 私はすぐに気付いてハンドルを思い切り左へ切り、避けたが、ものすごい音と衝撃があって、運転席のドアは吹き飛んで行った。

 

 ぶつかってすぐは身体の痛みは感じずに、自分にも聞こえるくらい大きな音で心臓が早鐘を打っていて、しばらくは呆然としていた。


 映画でそんなスタントを観た事はあるが、いくらお金を積まれても、もう一度やろうなんて思えない。しばらくは怖くて、車を運転する事もできなかった。


 対向車の運転手は持病は無いらしいが、突然意識を失ったらしい。


 そして他にも車はいたのに、なぜか、私だけを狙ったかのように突っ込んできたようだ。


 それは偶然にしては出来すぎていて、おかしいと感じた私は、男の子に目をやった。すると男の子は私の膝の上で、楽しそうに足をばたつかせていて、手も叩いている。


 私は呆然としながらも、その姿を視て、

 ———あぁ、またこの子がやったのか……、と項垂うなだれた。

 

 ぶつかってきた運転手は、加害者ではなく、被害者だったのかも知れない。



 そんな風に、取り憑かれると必ずと言っていいほど、死にかけるような出来事が起こる。


 いつも私を助けてくれている、強い守護霊のようなもの達が居てくれなければ、とっくに死んでいると思う。


 災いは、仏壇に参ってから1週間程で治る。


 取り憑かれている間は、毎回戦場にいる気で頑張るしかない。


 誰かに助けて欲しくても、他の人達には男の子は見えないし、たとえ視える人がいても、祓うような力を持っている人には、まだ出会ったことがないからだ。



 そして私は、災いを呼ぶ男の子について、不思議に思っている事があった。


 私は毎回酷い目に遭っているのに、家族や親戚からは、そういった話を聞いた事がない。


 皆仏壇の間に出入りするし、お参りもするのに、なぜ私だけがこんな目にあうのだろう。

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