小学校の七不思議Ⅱ 後編

 いつだったか、そのよどみの中を見つめていたら、引っ張られるように川に落ちそうになったことがあった。


 一緒にいた友達が、驚いて引っ張ってくれたから落ちずに済んだが、1人だったら、もしかすると、そのまま引き込まれていたかも知れない。自分では気付いていなかったが、私は川の中を随分と長い時間見ていたらしい。


 何となく、その澱みが関係している気がした。


 そして土地が悪いのか、プールの中だけではなく更衣室にも、いつも女の人がいた。


 びしょ濡れの女の人は、肩くらいの長さの黒髪で、うつむいている。特に何かしてくるわけではないが、いつも更衣室の隅に立っているのだ。


 その俯いた女の人を視ていると、何となく、目の前の川で亡くなった人のように思えた。


 更衣室で着替えていた時に一度だけ、橋の上に立って川を見下ろした風景が、脳裏に浮かんだことがあるからだ。別に悲しい出来事があったわけでもないのに、なぜか涙が止まらなかった。


 その時浮かんだ風景は、私が実際に見た風景ではない。おそらくそれは俯いている彼女の記憶で、何度も近くに寄ったので、少し繋がってしまったのだと思う。


 いくら女の人が、ただ立っているだけといっても、1人で着替えるのは嫌だったので、必ず誰かを誘って更衣室へ行くようにしていた。


 学校の校舎の中は、外から来たものがたくさんうろついている。という印象だった。もちろん定着しているものもいたが、急にいなくなることもあった。そういったものは、あまり学校にこだわりはないのだろう。


 しかし、プールの中や更衣室にいるものは、その場所に執着しているような感じがした。


 次の夏になっても、また同じように、そこにいるのだ。



 そして、七不思議にはなかったが、私は体育館の左側の物置へいくのが嫌だった。

 

 そこには、いつもがいた。


 霧みたいに薄くてよく視えなかったが、若い男性だと思う。


 昼間に物置へ行くと、大体部屋の上の辺りから覗いてきて、夕方になると、ステージの方に出てきていた。たまに、私以外にも視えてしまう子がいて、その度に幽霊だと大騒ぎになる。


 私は厄介なことには巻き込まれたくないので、誰かが幽霊が出たと騒ぎ出すとその場を離れていたが、薄くしか視えない男性も同じように、また倉庫へ引き返して行く。


 ——騒がれるのが嫌なら、最初から出てこなければいいのに。


 と毎回思っていた。


 そして迷惑なことに、そいつはいつもボールを1つだけ、カゴの外に出したままにする。


 先生は、物置に何かいるなんて知らないので、


「誰が片付けずに帰ったんだ!」


 と怒るが、私がちゃんと片付けられているのを確認して、最後に体育館を出た時も、次の日にはボールが1つ転がっているのだ。


 自分達ではないのに……。と思いながら、本当のことは言えないので、仕方なく怒られた。




 ある日、夜中に歩いて体育館の前を通ると、バスケをしているような、ボールをつく音がした。しかし、体育館の中は真っ暗で、人間の目ではバスケが出来る状態ではない。


 後で先輩に聞いた話では、この夜中に体育館に出る幽霊は、地元で有名な怪談話だったらしい。そういった部類の話は作り話が多いが、たまに本当の話もあるということを知った。




 私はずっと、小学校には『真夜中の体育館に出る幽霊』や、『裏山の幽霊』という実際に存在する有名な話があるのに、なぜ七不思議しか無いのだろう? と思っていた。調べてみると、日本人は7という数字に信仰心があると書いてあり、そのため七不思議になっているらしい。ということだった。


 それを見て、実際に存在しているものが外されて、ただ話題性のあるものだけが、七不思議として語り継がれるなんて、おかしな話だなと思った。


 ただ、もし正しいものだけ集めて、


1:トイレに立っている俯いた男性

2:たまに何かが立ち寄って鳴らすピアノ

3:乱暴な霊が映る大鏡

4:プールで足を引っ張る手と更衣室の女

5:霊道になっている階段

6:真夜中の体育館に出る幽霊

7:裏山の幽霊


 という七不思議だったら、リアルすぎて、不思議ではなくただの怪談話になるな。とも思った。不気味なので、おそらく誰も語り継がないだろう。


 七不思議は信憑性のない、お伽話のようなもの、くらいがちょうどいい。


 そして、全国の七不思議を集めて、同じようなものを外していくと、80種類くらいあるらしい。

 

 私の小学校では、正しい七不思議は1つだけだったが、他の学校にも正しい七不思議はあるのだろうか。


 


 

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