第7話 小学校の七不思議Ⅱ(ホラー)前編

 どこの学校にもある七不思議。


 私が通っていた小学校の七不思議では、6番目は『プールで足を引っ張る手』だった。


 七不思議は、どこの学校も似たような話になっていて、実際には何も起こらない場合がほとんどだと思う。中には本気で信じてしまっている人もいるが、何の根拠もない、都市伝説のようなものだ。


 しかし、私の小学校の『プールで足を引っ張る手』は、本当の話だった。


 私は、自分が通っていた小学校のことしか分からないが、生徒の半分は泳げない子たちだった。ただ、それは個人の問題だけではなかったと思う。


 私は人ならざるものが、いつも視えるわけではないが、なぜかプールの中の手はよく視えた。


 日によるが、下から伸びている手は、大体1本や2本ではなく、その手が他の生徒の足や胴体を下へ引っ張るのを、何度も視たことがある。


 他の生徒たちにはプールの中の手は視えないので、みんな楽しそうに遊んでいたが、私は潜るたびに、


 ——地獄絵図って、こういう時に使うんだろうな……。


 と思っていた。


 地獄の様子を描いたという、昔の絵をテレビで見たことがあるが、それとそっくりだ。




 夏休みのプール教室。


 泳げない子は毎日通って練習をしていて、私は泳げたが、家にいるのが嫌で参加していた。


 なぜ、見えない手が引っ張るようなプールに行くんだ、と思う人もいるかも知れないが、視えていれば、ただ避ければいいだけの話だ。


 そのプール教室では、よく事件が起こった——。


 女の子が、


「誰かがふざけて足を引っ張った!」


 と怒るが、近くには誰もいない。


 偶然潜っていたから視えたのだが、女の子の足を引っ張ったのは、生徒ではなく、プールの底から長く伸びた手だった。女の子の身長の倍はある長い手だ。




 別の日には、男の子が沈んで溺れそうになった。


 その時は手ではなく、白い花柄の服を着た女の人が、背中にしがみついているのが視えた。


 たまに手ではなく、人の形をしたものもいたが、どちらにしろ、水中に引きずり込みたいのは同じようだった。




 プールの中で立とうとして、足が滑って危うく溺れそうになった男の子もいた。


 ただ、その子は滑ったわけではなく、足首と膝を別の方向へ引っ張られていたので、うまく立てなかった。私が彼の手を引っ張ってプールから出すと、その子の足には、赤く引っ掻いたような跡があって、ゾッとした。


 プールの中には、ずっと手があるわけではないが、悪さをして消えては、また現れる。


 あまりにも酷い日は、気持ち悪いのでプールには入らずに見学していた。


 私は霊能者ではないので、はっきりとした原因は分からないが、何となく、小学校の目の前を流れる川が原因のような気がする——。


 とても大きな川で、大雨が降ると増水して、周辺は通行止めになった。何度も川が氾濫しないように工事はされていたが、あまり意味はなく、大雨が降る度に、道路と同じ高さに家がある人は、みんな避難しなければいけなかった。


 昔、家が何軒も流されて、亡くなった人もいたらしい。


 川は普段も流れが早いので、泳いでいて、流されて亡くなった人もいる。


 そして小学校のプールの、右斜め前辺りには、川がよどむ場所があった。そこは大人でも立てないくらい深くなっていて、水が渦をまいて溜まっている。


 ただ、私にとっては水だけでなく、嫌なものが溜まる場所だった。


 嫌な感じがするだけでなく、実際に、渦の中に男性が漂っているのが視えたことがある。顔が分からなかったので、生きている人間ではない。


 形は人間だが、陸で視るものより、手足の先がひらひらしているように視えた。それに、偶然視えたのが男性だっただけで、おそらく他にもいたと思う。


 暗く深い穴の中に、何かがたくさんいる気配を感じる。

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