第3話 漫画喫茶(ホラー) 前編
私がアルバイトをする先は、何故か
どちらかといえば、そういった場所は避けたいのに、アルバイトをし始めると、決まって不可解な現象が起こりだす。そして、先輩達と打ち解けてくると、実は心霊的な現象が起きると告白される。という流れだ。
漫画喫茶でアルバイトをした時、研修を受けている頃は特に何も感じなかったが、本格的に働き始めた頃、何となく思った。
——客は少ないのに、なんか騒がしいな。
大きな道路沿いに店があって交通量も多かったので、その所為か。と思い、その時はたいして気にしなかった。
しかし、少しずつ奇妙な体験は増えて行く。
漫画喫茶では、客がいなくなったら個室へ掃除をしに行くのだが、ドアを開けると、今誰かが立ち上がったかのように、椅子が動いている。
しかし、部屋の中にも廊下にも、誰もいない。
トイレ掃除をしていたら、コンコンとノック音がする。
誰か使いたい人が来たのかと、個室から出て周りを見るが、誰もいない。
誰も通っていない場所の本が、勝手に落ちる。そして、それだけならまだいいが、見ている前でページがめくられる。
店の中で風は吹いていないので、明らかにおかしい。
階段を登っていると足音がして、後ろから誰かが来たのでお客さんかな? と思い避けたが、振り返ると誰もいない。
そして、足音だけが通り過ぎていく。
誰もいないのに、自動ドアが勝手に開く。
最初は虫かなと思ったが、探しても虫はいないし、点検に来てもらっても異常はないらしい。
しょっちゅう子供が走り回る足音が聞こえるが、見当たらないし、子供は来店していない。
それでも、たまに幼い子供の楽しそうな笑い声も聞こえてくる。
空室になっている部屋のパソコンが、なぜか勝手に起動する。
マウスを大きく動かさないと、起動しないはずだった。
客に、話し声がうるさい。と言われたが、その客以外誰もいない。
この時は私も、そうなんですよね。と思ったが、言うと面倒臭いことになりそうだったので、何も言わなかった。
そのような不思議な現象が、出勤する度に毎回起こった。
平日は、放課後の17時から18時くらいにシフトに入るようにしていたが、土日の休みには朝9時から働くことも多かった。
朝からシフトが入っている時は、空室の部屋に掃除機をかける作業から始まる。10時を過ぎた辺りから客が増え始めるので、それまでに終わらせておかなければならない。
その日は日曜日で、朝9時頃は大人の男性客が3人だけしかいなかった。
掃除機をかけながら空室の部屋を回っていると、通路に漫画が1冊落ちているのに気が付いた。普通なら、お客さんが落としたのかと思うはずだが、私は、また勝手に落ちたのか。と思いながら本棚へ戻す。
お客さんが1人もいない時も、何故か漫画はよく落ちていたからだ。
そして、近くの個室のドアを開けた瞬間——ピンクのワンピースを着た女の子が目に入った。
ピンク色の芝桜のような、はっきりとしたピンク色のワンピースで、髪の毛は2つに結んである。
身長からすると、6.7歳くらいだろうか。まだ漢字は読めそうに見えないが、女の子は立ったまま机に肘をついて、少年漫画をペラペラとめくっている。
ここは空室のはずなので、私は、女の子が勝手に入って遊んでいるのだと思った。そこで、
「ごめんね、掃除機をかけたいんだ」
と声をかけると、女の子がこちらへ走ってきて、ぶつかった。
——あっ!
と思ったが何故か、ぶつかった感触はない。
漫画喫茶の個室の入り口は狭く、人が立って掃除機なんか持っている状態では、いくら小さな子供とはいえ、横をすり抜けるなんて出来ないはずだ。
それに、女の子は確実に私の真正面を目掛けて走ってきた。その状況で、ぶつからないはずがない。
もちろん周りを見まわしてみたが、女の子の姿を見つけることは、出来なかった。
何だか狐につままれた気分で、しばらくの間立ち尽くしていたが、こういった事は初めてではなかったので、私は作業に戻った。
そして掃除機をかけながら、ふと気がついた。
——あぁ、そうか。顔が分からなかった。
私は幼い頃からたまに、亡くなっている人が視える事があったが、普段から視える訳ではない。視えてしまった事が何度かあるだけだ。
そして、人間かそうでないかは顔を見ると分かる。
私は、亡くなっている人の場合は、顔が分からないのだ。
服装や雰囲気もはっきりと分かるのに、顔は白っぽく発光しているような感じで、目や鼻などのパーツは分からなかった。
そしてもう1つの特徴は、1週間前に会った友人がどんな服を着ていたか、と聞かれても思い出せないが、不思議なものを見た時は、たとえ一瞬だったとしても、はっきりと覚えていた。
何年経っても、まるで写真でも撮ったかのように、その時の映像が鮮明に脳裏によみがえる。
不思議なものが視える時は、脳のいつもと違う場所を使っているのかな。と、何となく感じたことがある。
ピンクのワンピースを着た女の子を視たのは、あの1度きりだったが、その後は子供が走り回る音がする度に、あぁ、あの子か。と思うようになった。
女の子は別に嫌な感じはしなかったので、本当にただ遊んでいるだけなのだと思う。
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