猫のミーちゃん その後

 ミーちゃんが亡くなった翌年の正月。


 お年玉をもらうために、叔父さんの家へ遊びに行った。

 

 叔父さんは酒を呑む度に、ミーちゃんの話をしてくる。


 彼女がいなくなってしまったのが、よほどショックだったのか、もう二度と生き物は飼わないと言っていた。


 叔父さんにとっては、ミーちゃんが子猫の時に拾ってから20年近く、毎日顔を合わせていたのだから、もう家族であったことは間違いない。


 叔父さんが悲しむのは当然のことだ。

 

 ただ、私だってミーちゃんとの思い出は大切だが、会う度に延々とミーちゃんの話を聞かされていると、段々と美談では終わらなくなってくる。


「お年玉やるから、来い」


 と言われたが、どうせまたミーちゃんの話をしたいだけだろう? と思ってしまった。


 案の定あんのじょう、家に着いてからずっとミーちゃんの話は続いた。


 そして朝っぱらから、ぐでんぐでんに酔っ払った叔父さんは、


「でもな、たまにミーちゃんがいる気がするんだよな」


 と、何度もり返した。


「どうして、そう思うの?」

 と私が訊くと、


「ミーちゃんの鳴き声がしたし、この前コタツの横で、ミーちゃんが寝てた気がするんだよ」


 と、酒をあおりながらつぶやいた。


 私と血がつながっているのだから、何かの気配を感じても不思議ではないが、初めてそんなことを言ったので驚いた。


 そして、前日から近所の人達と酒を呑んでいた叔父さんは、昼過ぎくらいにコタツに寝転がり、そのまま寝てしまった。


 ——本当に、困った叔父さんだよ。と思ったが、何だか放って置けないので、呼ばれるといつも来てしまう。


 私は、押し入れから毛布を引っ張り出してきて、叔父さんに掛けてあげようと、毛布を広げた。


 するとその時、タタッと軽くてリズミカルな音が聞こえた。


 何だろうと思い振り向くと、奥の部屋の方へ、白い動物が走って行くのが見えた。真っ白いお尻と尻尾しか見えなかったが、白い尻尾の先は薄いグレー。


 ミーちゃんと同じだった。


 もちろん叔父さんは、彼女以外に動物は飼っていない。


 ミーちゃんが居なくなってから、前にも増して酒を呑むようになった叔父さん。


 ミーちゃんも心配して、様子を見に来たのかな。と思った——。

 

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