猫のミーちゃん 後編
私が高校3年生の頃、ふと考えたことがある。
我が家の愛犬は、私が幼い頃に家族となり、もうとっくに死んでしまっていた。
ミーちゃんが小さい頃の記憶はないが、ミーちゃんは一体何歳なのだろう?
気になったので、叔父さんに
「お前とミーちゃん、どっちが先だったかなぁ?」
と
——猫って長生きなんだな。と思った。
少し肌寒くなり、長袖のパーカーを
私は寝転がってテレビを見ながら、スマホをいじっていた。
すると、急に視線を感じてふと横を向くと、すぐそばの窓越しにミーちゃんがこちらを見ていて、目が合った。それまで何の気配もしていなかったので、思わず顔にスマホを落としたくらい、私はビックリした。
「何してるの? どうしたの」
話し掛けてもミーちゃんは身動きひとつせずに、じっと私の顔を見ている。
こんなに近くにいても、どうせ触ろうとすると逃げてしまうので、私はそのまま、ミーちゃんのそばでゴロゴロと寝そべっていた。触らせてくれなくても、私に会いに来てくれたのは嬉しい。
そして、気付いたらいつの間にか、ミーちゃんはいなくなっていた。
翌日の夕方も、私が同じ場所でくつろいでいると、またミーちゃんはやってきた。
いつもなら叔父さんの家の近くにいるのに、続けて来るのは珍しいなと思ったが、猫だってたまには違う場所へ冒険しに行きたいよな。と思い、その時はたいして気にはしなかった。
前日と同じように、彼女はじっと私を観察して、帰っていった。
それから数日経った、夕方のことだ——。
叔父さんが疲れ果てた顔で、我が家を訪ねてきた。
「ミーちゃん見なかったか」
いつも夜になると、ご飯を食べに帰って来ていたミーちゃんが、2.3日帰ってこないらしい。
「ミーちゃんなら、つい最近2日連続で、きてたよ」
私が言うと、叔父さんは話を最後まで聞かずに、すぐに外へ探しに行ったので、私も今まで彼女を見掛けた場所を中心に探した。
我が家の車の上と、陽の当たる岩の上、それからブロック塀の上。
しかし、彼女を見つけることは出来なかった。
「またミーちゃんがこっちに来たら、すぐに教えてくれ」
そう言って叔父さんは帰って行った。
真っ暗な中、帰っていく叔父さんの背中を見ていると、何だか無性に胸がざわついた。
翌日の夕方、叔父さんが茶色い段ボールを持って現れた。
聞かなくても分かったが、ミーちゃんだった——。
仕事から帰った叔父さんが、いつもと違う匂いに気付いて屋根裏を
「何であんな所で1匹だけで……」
叔父さんはそう言って涙を流していたが、猫という生き物は、死に際を人間には見せないらしい。
たとえそれが、長年可愛がってくれた、優しい飼い主だったとしても。
猫はミーちゃんに限らず、病気や怪我、老衰などで弱ったりすると、誰にも見つからない場所を探すらしい。野生だった頃の本能だ、と本に書いてあった。
ミーちゃんの体を見る限り怪我はしていなかったし、高齢だったので多分老衰だろう。顔はただ眠っているかのように、穏やかだった。
たまにしか訪れない我が家まで、2日連続で来てくれたミーちゃん。
十数年見守ってきた人間の子供に、別れの挨拶に来てくれたのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます