抜けてはいけないトンネル 2

「肝試しなんて、やめた方がいいよ。大人に見つかったら面倒臭いし」


 別に優等生ぶりたかった訳ではないが、あの場所には近づきたくない。


 トンネルがある場所は、晴れている日でも、何となく暗く感じる場所だった。トンネルだけでなく、周辺の土地自体が暗いのだ。


 山の中の日陰になった場所みたいに、緑と茶色を混ぜたような色の空間が広がっているようだ。


 しかし、同級生達にはそんなことは伝わらない。彼らには何も視えないし、何も感じられないのだから。

 

「なんだよ、怖いのか?」

「大丈夫だって、心配しすぎだよ」

「お前、幽霊とか信じてるのか?」


 と、何も知らない同級生達は笑う。


 いつもなら肝試しなんて絶対に参加しないが、3対1で反対意見が通るはずもなく、結局一緒にトンネルへ行く事になった。


 同級生達は、夜遊びを楽しみにしているようだったが、私はとても嫌な予感がした。



 

 夜9時。街灯もほとんどないので辺りは真っ暗で、田舎なので車も滅多に通らない。聞こえるのは自分達の声と、虫の声くらいだ。


 トンネルの前まで来ると、中に入る前から、ロープで巻かれて引っ張られるような、嫌な感じがした。ここ数日間は雨なんて降っていないのに、雨で増水した川みたいに、泥臭い匂いもする。


 私は嫌な気配を感じていたので、トンネルに入るのを躊躇ためらったが、皆は何も感じていないようで、笑いながら懐中電灯を振り回して、楽しそうに入っていった。


 トンネルの中には薄く水が溜まっていて、懐中電灯の灯りが反射している。映り込むのが光だけならいいが、余計なものが視えたらどうしようと、気が気ではなかった。


 トンネルの中の壁は、たまに車が通ると照らし出されるが、汚れた部分が模様のようにも、顔のようにも見える。


 私は周りを見るのが怖かったので、1番後ろをうつむきながら歩いていると、同級生の1人が急に、


「わぁ!」っと、甲高い声を上げた。


 その声に驚いて全員が足を止めると、


「背中に水滴が落ちてきた。ごめん、ごめん」と言って笑った。


「お前、絶対わざとだろ」

「やると思ったよ」


 と、他の同級生達も笑い出した。


 驚いたが、何事もなければ、それが1番いい。


 私も——なんだ、そんなことか。と安心していたら、急に後ろからドライアイスのような冷気をふわりと感じた。

  

 そして冷気はどんどん強くなり、寒くて呼吸は苦しくて、段々とモスキート音のような耳鳴りも大きくなって行く。


 トンネルの中は湿っていて、水滴が落ちてくるので、ぴちゃん、ぴちゃんと音がしていた。今聞こえる音も水滴の音だと思いたかったが、何故かその音は後ろからどんどん近づいてくる。


 ——やっぱり、来るんじゃなかった……。と後悔した。


 同級生達が騒いでいるのに、その声は何かにさえぎられたかのように遠くなり、水滴が落ちる音だけが、やたらと響いて聞こえる。


 まるで頭の中で音がしているようだ。


 自分の方へ水の音が近づいてくるにつれ、それは水滴が落ちる音ではなく、誰かが水溜りをんだ音だと分かるようになった。

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