二人のカタチ
深雪 了
二人のカタチ
小さな町の小さな家に、双子の兄妹が住んでいた。兄の
幼い頃に親を亡くした二人は、互いに支え合って生きてきた。
十歳そこそこの子供だけの生活は当然のように貧しかったが、二人には自分の片割れがいるだけで十分だった。
助け合いながら平凡な日常を生きていく。それが二人の幸せだった。
しかし幸福は永く続かない。
近隣で起こっていた争いの波紋がこの町にも広がるようになった。
戦火が町を呑みこんで、瓦礫や倒壊した建物が目立つようになった。
昼間、銃声が聞こえれば二人は家の中で手を取り合って必死に心を鎮めた。
夜、爆弾が降って来ればシェルターで互いに身を寄せた。他の避難者が恐れおののく中、二人はただ静かに寄り添っていた。
戦争が一向に止む気配を見せないある日、空は食糧の配給を受ける為に家から歩いて二十分程の配給場所へと向かっていた。
蒼は数日前に流れ弾で両脚を負傷し、出歩けなくなっていた。
二人分の食事を受け取り家に帰ろうとした時、すぐ近くで轟音がした。
音のした方を振り返ると、一つの建物から爆炎が上がっていた。また悪夢のような爆撃が始まったのだ。
空は衝撃で横転し、持っていた食糧を地面に落とした。その少年の体に爆風で飛んできた石つぶてや爆発物の破片が突き刺さった。
少年の顔は腫れ、体のいたる場所から血が流れていた。
それでも少年は必死の形相で立ち上がる。
蒼は。蒼は無事なのだろうか。
彼女は一人で避難することが出来ない。自分が避難所へ連れて行かなくては。
血が流れて痛む足を引き摺り、空は家を目指した。頭の中にあるのはただ妹の安否だった。
ようやく家に辿り着いて戸を開けると、今にも泣き出しそうな顔の蒼が居た。彼女もまた動けない体で、兄の生死を心配していた。
「お兄・・・!」
全身を負傷した兄を見た蒼は地面に座った状態で、両手を床に付きながら移動し空に近付いた。ひとまず妹の安全を確認した空はがくりと蒼の腕の中に倒れ込んだ。
「お兄・・・、ひどい傷・・・!手当をしないと・・・!」
「・・・いい、いい、から・・・シェルターに行かないと・・・」
そう言って身体を起こそうとする空を蒼は止めた。
「お兄の傷の手当が先だよ・・・!このままじゃ・・・!」
蒼が涙ぐみながら言ったが、空は首を振った。
「俺はもう・・・駄目だと思う・・・だからせめて、蒼を連れて行かないと・・・」
妹は兄の言葉をすぐに受け入れられずにいたが、彼がもう長くないことは見た目にも明らかだった。蒼はまばたきを一度して、息を吸った。
「・・・・・・じゃあ、ここにいよう」
「・・・・・・え?」
妹の言葉の意味が分からなくて、兄は顔を向けた。
「お兄がいないんじゃ、私はもう生きていけない。だからお兄と一緒に暮らしてきたこの家で、最後までお兄と二人でいる」
「蒼・・・・・・」
蒼には生きてほしかったが、家族のいない、そして足の不自由な子供が生きていくのは難しかった。やむなく蒼の覚悟を受け入れるしかなかった。そして最後の瞬間を最愛の妹と一緒に迎えることができるのは、何よりの喜びでもあったのだ。
二人はそのまま寄り添う。蒼は空を包むように支え、空いた片方の手を空が両手で握りしめる。
外では轟音が響いていたが、兄妹の間にはそんなものは聞こえていないかのように穏やかな時間が流れていた。
妹の腕の中で、兄は幸福そうな顔をしている。その兄を見つめる妹も同じだった。いつの日かの幸せを、二人はまた手にしたのだった。
そして幾つもの爆撃が落ちる中、そのうちの一つが二人の家に、落ちた。
二人のカタチ 深雪 了 @ryo_naoi
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