エピソード8
前回までの話
家を建てた。井戸を掘った。むずい。以上!
家に帰ると、鼻毛マン達がせっせと働いている様子があった。運んできた石を加工部屋に運んだり、できた物を倉庫がわりの武器庫に運んで行ったりと働き者であった。
あなたはオペ子の元へ向かい、作業の様子を話した。
「井戸掘るのは結構大変だな。」
「水路も似たようなものなの。街を作るのはそういうものなの。」
「鼻毛マンをたくさんにして井戸も鼻毛マンが作れるようにできるといいな。」
「もっと複雑な人造人間を作る場合は時間も施設も必要なの。それに意志があると、不満をもつこともあるから大変なの。そんなことがあったら……。とにもかくにも働くの!」
「わかったよ。とりあえず、井戸の続きをやってくる。」
あなたが外に出て行くと、オペ子は1人の鼻毛マンを呼びつけ、普段は使わない部屋に入れた。部屋にはシュミレーションルームと書いてある。部屋には大型のモニターと真っ白な部屋床と壁だけである。部屋を起動すると部屋は外と同じような地形や見た目になる。モニターには家の建造方法や井戸の作り方もある。実際に鼻毛マンにやらせようとするが、穴は掘れるが、規則的に石を積んだり、木を組んだりすることはうまくできない。
―これが現実。人造人間がこれを理解できればすぐにできることだけど、実際は無理。見よう見真似ができるレベルの知能はない。逆にこれ以上の知能を持たせるためには、育成までに非常に時間がかかる。そんな悠長にやっている時間はない。
彼だけが頼りであった。最後の人類にして、人類を蘇らせることができる唯一の存在。私ができることは何でもやる。それが彼にとって望まなくても。
外に出ると、井戸の穴はかなり深くなっていた。鼻毛マンがかなりしっかりと掘ってくれたからである。水もしっかりと出てきているようだ。そろそろ鼻毛マンを井戸から出して井戸内の周りを崩れないように補強する作業に入る必要がある。
中に入ると穴は大きいが、やはりと言うか内壁は崩れる可能性があった。
鼻毛マンに石をつるべ落としでゆっくりと下させて、壁に積んでいく。積み方はオペ子が石の形をスキャンして、ここに置くように指示してくるので、従うだけでいいのでとても楽であった。下の方はほとんど積み終わって、水の湧く石畳のようになった。あとは穴の下部から上の所をどうするかであった。
「オペ子―。いるか?」
返事がない。いつもならすぐにつながるのだが。
「オペ子? どうした?」
やはり返事がない。ちょっと不安になる。
「オペ子! どうした!? 大丈夫か!?」
「あ、ごめんなの。遅くなったの。どうしたの?」
いつもの口調で返事が返ってきた。
「オペ子か。返事が遅いから、心配したぞ。」
「あれま、心配されちゃうってオペ子に惚れちゃったの? 困っちゃうの。」
「はいはい。オペ子、相談があるんだけど。」
「何? 式は和装か洋装かどっちがいいか? 悩んじゃうの。結婚は一生ものだからどうしようなの。」
「…………オペ子?」
「ごめんなの……それで何なの?」
「井戸の内部の補強に石積みをしたが、井戸の真ん中から上をどうしようかと思ってな。」
「石積みじゃダメなの? 」
「石積みはかなり大変だったからな。もし可能なら木を薄くした板を貼り付けるっていうのはどうだ?」
「いいと思うの。板材を加工部屋に用意しておくから、鼻毛マンに取りにこさせてなの。」
「わかった。今、戻らせる。」
それで通信は切れた。
―なんかオペ子のやつ変だったな。まだ長い付き合いではないが、何かいつもと違う。そんな気がした。
しばらくすると鼻毛マンが板に加工された板を抱えて帰ってくる。
塗料が塗られており、板の端には小さい溝ができていた。
オペ子から通信が入り、映像が映し出される。
「塗料は板が腐るの防止。この溝は映像のように組み合わせると、カチッとはまって外れなくなるの。うまく使ってね。」
「わかった。」
通信が切れた。
―素材の形を工夫するだけで外れなくなるってすごいな。 オペ子ってAIって言っていたけど、よくわからないけどAIってそんなことまで知っていてすごいな。さてと、作業をやれるところまでやるか。
鼻毛マンに板を井戸に降ろしてもらい、ちょっとずつ壁に当てはめていく。
サイズや強度はオペ子がしっかりと考えてくれたようで、綺麗に取り付けて行くことができた。
全体の半分暗い終わったところで陽が落ちたので家に帰ることにした。
家の周りにはゾンビがあまり出てこないから、安心だが世界にはたくさんいることを考えるとゾッとする。
―とにかく早く街を作って安心して過ごせるようにしないとな。
家に帰ってくると、オペ子はスリープモードと表示されていた。
よく見ると自律メンテナンスと書かれている。
意味はよくわからないが、寝ているんだろう。いつも働き詰めだから仕方がない。
鼻毛マンを部屋に入れて簡単に食事を取ると眠りについた。
皆が寝静まった深夜、オペ子の自律メンテナンスは終了と表示された。
オペ子は部屋を見ると、全員が帰ってきて眠りについていることがわかった。
外部カメラを見ると井戸が着々と完成しつつあることがわかった。
――あと14日後にゾンビたちの大規模侵攻のファーストウェーブが始まる。それまでにどこまで発展できるかが勝負である。大規模侵攻に勝てる防衛力のある町にする必要がある。 焦っても仕方がない。でもあの人にはそれを覚悟してもらわないといけない。明日、井戸ができたら話そう。
オペ子は決心すると、明日からの計画を立て始めた。
朝、目が覚めると鼻毛マンたちがせっせと働いている風景が見えた。
どうやらオペ子が何やら指示をしているようだ。
疑問に感じるが、腹の虫が先に鳴ったので、食事に向かう。
身支度まで終えると、オペ子の元へ行く。
「おはようオペ子。今日も井戸の続きからか?」
「おはようなの。そうなの、井戸はもう少しだから完成させちゃうの。その後にすることがいっぱいなの。」
「その後にすること? ていうことは鼻毛マンたちが忙しそうにしているのはそれか?」
「そうなの。井戸ができたら説明するから、それまでは井戸に専念するの。」
「わかった。じゃあ、行ってくる。」
あなたは出かける準備をすると数人の鼻毛マンを連れて外へ出掛けていった。
今日もゾンビが近くにいる気配はない。
井戸に行き、鼻毛マンにつるべ落としを引っ張ってもらいつつ、壁に板を貼る作業を続けていく。溝の入った板を貼り付けていくのは石を積むよりは簡単にできる。
昨日でペースを掴めたのが大きいだろう。
黙々とやっているうちにお昼のは壁の板貼りが終わった。
あとはつるべ落としに桶をつけて水を汲み上げてみる。多少、濁りがあるから澄んでくるまでは何度か繰り返すと澄んだ水が取れるようになってきた。これで井戸作りは完成だ。
完成したことをオペ子に伝えようと通信を送るが、なかなか出てこない。
30秒くらい経って繋がった。
「遅くなったの。準備が忙しすぎて出れなかったの。」
「あー次にやることの準備か。お疲れ様。井戸はできたぞ。」
「それは頑張ったなの。いい子いい子なの。とりあえず一旦家に帰ってくるの。話したいことがあるの。」
鼻毛マンたちに残った材料などを待たせて帰路に着いた。
家に着くと今までにはなかった道具や設備が出来上がっていた。
―このレベルの準備がすぐにできるってやばいな…。
「おかえりなの。説明が長くなるからその辺に座るの。」
椅子を持ってきて座る。
オペ子は博士のような服装になって棒を持って説明を始めた。
「まず、町の基礎ができたから次の流れを説明するの。やることは大きく分けると三つ。一つ目は町の拡張なの。町の規模を大きくして、町ができる機能を増やすことなの。町の規模を大きくするためには、町の防衛機能を高めてゾンビの襲撃を減らす必要があるの。また、町ができる機能を増やせば鼻毛マンのできることを増やしたり、人間を復活させることができるかもしれないの。二つ目は遠征なの。町を拡張をしていくと必要な資源は多くなるの。そのためにはさらに遠くまで行かないといけないの。今は町が自己防衛できないから遠征はできないの。三つ目が家探しなの。世界にはこの家と同じような家があるの。その家から資源や機械、運が良ければあなたのような生き残りを探すの。ここまではわかったの?」
「ああ、それぞれの段階をクリアしていかないと次に進めないってことだろ。」
「そうなの。ただ、それだけなら時間をかけていけばいつかはできるの。問題はゾンビの大規模侵攻にあるの。」
「大規模侵攻?」
「本来ならゾンビは意志を持たないし、近くまで行かないと襲ってこないの。でも、一部のゾンビだけは違うの。目的をもって行動しているゾンビがいるの。それらのゾンビは意志を持たないゾンビを引き連れて世界を動き回っているの。」
「やばいな。そんなゾンビがいるのか。」
「うん。そのゾンビはなぜか家に向かってくるの。まるで家の位置を正確に知っているように。家にある大規模レーダーからその一団を発見したの。その一団がなんとあと13日でここにくる計算なの。」
「13日!? もうそんなに時間がないじゃないか。」
「そうなの。それまでに最低限の町の規模と防衛力がいるの。」
「それがさっき言っていた準備というわけか。」
「そうなの。家の機能をある程度開放したの。これで今まで以上にロボアームを使って、家の建設、施設の建設、バリケードや防衛設備の建設ができるようになったの。」
「まずどうしたらいいんだ? まだイメージが湧かないけど、オペ子の言う通りに動くよ。」
まっすぐにオペ子に向き合った。オペ子は少し嬉しそうだった。
「まずは鼻毛マンを限界まで増やすの。バリケード作るためには圧倒的に木や石が足りないから、鼻毛マンにひたすら集めさせるの。次に、集めた素材で、倉庫とバリケードを作るの。そこまでやればファーストウェーブは耐え切れるはずなの。」
「わかった。設置する場所は決めたから、オペ子あとは頼めるか?」
素早くモニターで家を建てる場所、道を入力した。
「すごい…あ、いや。わかったの。残業しておくから、キビキビ働くの。」
「おう、鼻毛マンできるまでに今のメンバーでできるだけとってくる! 」
そういうと飛ぶように出掛けていった。
―驚いた…こんなすぐにここまでできるなんて。
ゾンビがたくさん来てもきっと乗り越えられる。人類の希望が復活の確信に変わった瞬間であった。
ゾンビだらけの世界で街づくり~今日から市長よろしくね~ 春宮ハルミヤ @harumiya_togu
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