ブルベ、イエベ、春夏秋冬。
コスメ選びはとても慎重になる。
安い買い物ではないし、長く使うものだし、自分に合ったものを選びたい。
だから私はSNSや口コミを見て、色持ちや使い勝手を調べてから購入にふみ込む。
この作業は嫌いではない。コスメは見た目が可愛い。見ているだけで、心がウキウキして、新しい自分を見つける作業のようで、とても楽しいのだ。
だが、ここ数年。私は困っている。
『ブルベ』『イエベ』問題である。
ブルベとは、ブルーベースのことを指し、イエベとは、イエローベースのことである。これらは一体何者かというと、自分の生まれ持った色、つまりパーソナルカラーである。
パーソナルカラーを知ると、似合った色を見つけられファッションもコスメ選びも楽しい! 毎日ハッピー!
と少々雑に説明をしてみたが、だいたいこんな感じである。自分がブルベかイエベかわかれば、似合う色がわかるという、シンプルでスバラシイものだ。
インターネット上でいくつか質問に答えれば自動的にブルベかイエベかわかる診断サイトもある。なんと、良心的。
さっそく私も診断してみることにした。
『瞳の色は?』
なんだろう……レンガっぽい色?
あ、選択肢にない。
茶色でいいのかな……。
『黒目と白目の境は?』
ん? どういうことだろうか?
選択肢を見てみよう。
『境がやわらか』か『コントラストがくっきり』
……ってどういうこと?
やわらかってなんだろう。ぼやけてるってこと?
黒目と白目がぼやけてたらマズくないか?
……むむ、むずかしいぞ。
とりあえず、コントラストがくっきりにしよう。
今度、黒目と白目がやわらかな人を探してみよう。
次!
『地毛の色は?』
おお! これは簡単!
黒だよ、黒!
『やわらかい質感の黒』『はっきりとした黒』
……おぉん? どゆこと?
薄めた墨汁と墨汁原液って感じ?
私はそこで、半ば諦めた。これでは、正しい選択が出来ない気がしたからだ。どうしても、自分はこうでありたい、という気持ちが選択を左右してしまう。
頭を抱えながら出た結果は、イエベ春であった。
春!!!!
新しいワードの登場である。イエベ、ブルベの他に春夏秋冬に分かれるというのである。色の明るさや彩度を季節色で分類しているらしい。
おお……なんとムツカシイ……。
混乱した私は複数の友人にパーソナルカラー診断をしたか? と尋ねてみた。
半分がしたことがあると回答し、半分が「あんなのフィーリングだ」と私と同じ雑な回答が返ってきた。
だがパーソナルカラー診断をプロに行ってもらった友人は「自分の似合う色に出会えた」「思いこんでいた似合う色とパーソナルカラーが違っていて、驚いた」「コスメ選びが楽になった」と大絶賛である。
やはり、プロに見てもらった方がいいのだ。客観性が大事にちがいない。私は納得した。
ちなみに、彼女のパーソナルカラーは『ブルベ夏』であり「春寄りでもある」とのことだ。
梅雨時期ということだろうか。
もはや、何がなんだかわからない。
とりあえず『イエベ春』というワードを持って、私はアイシャドウを買いに行った。
思ったとおり、コスメ売場には『イエベ』『ブルベ』のPOPが掲示されている。
パーソナルカラー診断を信じるのじゃ。
自分自身に言い聞かせた。恐る恐る、絶対に普段なら選ばないであろう色をのせてみる。
似合う……のかもしれない!
私は嬉しくなった。パーソナルカラー診断って当たるんだ! スゴイ!
別の『イエベさんはコレ!』と掲示されているアイシャドウも試してみた。これは、ちょっとイマイチだけれど、手の甲ではなくて、まぶたにのせたら、似合う色合いかもしれない。
なんだ、パーソナルカラー診断って面白いじゃないか。そんなに慎重になる必要なんてなかった。
選択肢が広がるのなら、パーソナルカラー診断も悪くないではないか! イエベ最高!
脳内でクラッカーを鳴らした時である。
私は隣の棚で、足を止めた。
四色カラーのアイシャドウ。きらきら光る主張しすぎないラメが、女心を揺さぶった。
とても可愛い。みずみずしいフルーツを眺めているようだ。
色合いも私の好みである。
パッケージもお洒落で、持ち歩いていたら気分も上がるだろうと思った。
だが『ブルベ夏』と書かれている。
手の甲に色をのせてみた。先ほどのアイシャドウより、肌が綺麗に見えた。
あ。これにしよう。
その時、脳内でもう一人の私がささやいた。
「ブルベ夏だよ? イエベ春となんだか、正反対なような気がしない?」
「せっかく時間をかけてパーソナルカラーを調べたのに、本当にそれでいいの?」
「千円以上するよ? いいの?」
だって、可愛いんだもの。仕方がないじゃないか。
今日はブルベ夏という日にしておこう。そうしよう。
私は、私が身につけたい色を見にまとうのだ。
こうして、購入前のリサーチはあっけなくも衝動に負けてしまうのだ。
いつか自分の似合う色がわかればいいとも思う。けれど、挑戦してみたい私も確かにいるのだ。
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