推しという偉大さ。

 私はゲームがとてつもなく下手くそだ、という話は以前にした。


 びっくりしてしまうようなゲームや、敵と戦うゲームが苦手である。苦手であるが、苦手を克服させてしまうほどの存在が現れた。



 そう。



 推しだ。



  

 あの「ウェーイ!」と背後から襲ってきた敵がいたゲームを、私はアンインストールしていなかった。とりあえず、スマホに残していたのである。


 美しい景色に音楽、キャラクターデザインが好みであったから、なんとなく手元に残しておきたかったのである。


 久しぶりにそのゲームを起動した。敵とは戦いたくないし、やることがわからないので、とりあえずガチャを引いた。


 

 そこで、推しが現れた。



 その姿を見た私の脳内は、瞬時に少女漫画モードに切り替わったのである。



 きゃっ……。

 なに、この美少年は……。

 (美青年?)

 かわいい……。

 (いや、かっこいい?)

 えっ、不遇な過去があったの……?

 (可哀想)

 だから今、がんばっているのね……。

 (しんどい。泣ける)




 好き。





 当時イベントガチャの目玉であった推しは、いわゆる、スーパーレアであり、強いキャラクターであった。ゲームが超下手くそな私ですら、敵に勝てる程、推しは馬鹿みたいに強かった。




 推しをガチャで引いてから、私は変わった。

 それは、もうピチピチに生まれ変わった。



 ──推しを強く育てる。



 ただそれだけに全力を注いだ。


 とにかく私はゲーム音痴なので、まずゲームの世界観や仕組みを頭に叩き込んだ。推しを育成するためのアイテムをゲットするために、苦手な戦闘も数々こなしていく。



 やることは非常に多かった。キャラクターのレベル上げ以外にも、武器の強化、バフのアイテム集めなどである。タスク管理が必要なほどであった。



 そこまで時間を費やしても、私のゲームセンスは上がらない。

 むしろ推しが馬鹿みたいに強いので、何とでもなってしまうのだ。



 推しが強くなればなるほど、敵も強くなる。



 だが、私は負けない。

 だんだんと愛着のわいてきた敵も「御免! 推しのために、倒れてくれ!」となぎ倒していった。

 全ては、推しのために!



 倒せないボス級の敵が現れた時も、動画配信サイトに攻略をアップしている動画を見て勉強したりした。



 そのゲームは、四人のキャラクターを交替させながら戦う。


 例えば、火の技を発動させた後に、雷の技を使えるキャラクターに交替させ、火と雷で更に敵にダメージを与える、そのようにして遊ぶゲームであった。


 技の発動までの時間や火力、キャラクターの相性など考えれば奥が深く、やりこみ甲斐のあるゲームである。



 だが、やはり私はゲームというセンスが微塵もないのだ。

 考えれば、考えるほど、わからなくなる。



 推しを早く強くしたい。けれども、ボスが倒せないし、戦い方もよくわからない。



 強敵のボスを目の前に「うぬぬ」と私は唸った。このボスを倒せば、推しを成長させるアイテムがもらえるのだ。引き下がるわけにはいかない。


 あんなに時間をかけて勉強した知識を、私はあっさり放り投げた。





 物理攻撃である。





 四人のキャラクター、それぞれの役割はどこへいったのか。ボスを目の前に、緊張と恐れと興奮で、頭に入れたはずの知識はポロポロと落ちていく。


 

 結局、推し単騎でボスを攻略してしまった。推しは馬鹿みたいに強いので(以下略)





 ついに、キャラクターレベルの上限まで育成することが出来た。私は大満足である。推しのおかげで、やってみたかったゲームを堪能することが出来た。



 推しとは、偉大である。

 

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