10話

「夕貴隠れろ」

「え、どうし――」


 なにか変なことをするわけじゃないがこうする必要があった、というか、いつまでも自由に尾行なんかさせるかよって意地になっている自分がいる。

 そんなことをするのは柚か遊歩かというところ、でも、そうされていい気分になる人間はいないだろう。

 それぐらいのことをしなければ俺にはなにもできないと思われているのも癪だ、なんでもかんでも相手にやらせるってことはないぞ。

 この前自分からやっておきながら違和感を抱いていてもだ。


「い、いきなりなによ」

「しー、あともう少しだけ我慢をしてくれ」

「こ、こんなことをしても意味はないわよ」

「ある、本当にあと少しだけでいいからさ」


 って、あの二人じゃない知らない人間が一瞬俺らのいる空き教室を覗いてから違う方向へ歩いて行ったぞ……。

 女子だったが夕貴に興味を抱いていた人間なのだろうか? まあ、同性に興味を持つ人間がいてもいまとなってはおかしくないか。


「ありがとう、付き合ってくれて嬉しかったぜ」

「あなたのファンなの?」

「いや違う、知らない人間だ」


 それなりに机や椅子なんかがあっても細かく覗き込んでしまえば丸見えだから適当にしてくれて助かった。


「って、これは」

「え? きゃ!?」


 ここに用がなくてもでかい足音が聞こえてくればどうしたって気になるもの、立ち上がってから俯いていた夕貴を引っ張る。


「ここにはいないか、あの二人はどこに行ったんだろう」

「お昼休みだからね、敢えて外に出ている可能性もあるかもしれない」

「柚隊長移動しましょう」

「そうね、そうしましょう」


 あいつら分かっていてやっていやがる、俺が引っ張ったもんだから気づいていないふりをしてどこかに行こうとしているわけか。

 とりあえず夕貴に謝罪を……の前に驚いて固まった、漫画やアニメみたいに慌てた際に胸に触れてしまったとかじゃないのに顔を真っ赤に染めていたからだ。


「悪かった、だが変なところには触っていないぞ?」

「きゅ、窮屈だったから苦しかっただけよ」


 確かに机の下のスペースって余裕ないからな、二人で隠れれば尚更だった。


「そうか、ならいい――」

「って、よくないわよ!」

「いて!? 後頭部がぁっ」

「あっ、ごめんなさい!」


 まあでもこれは俺が悪いか、何回も言うが変なこともしていないのに慌てた俺が変だ。

 一人の場合ならこれでもいいものの、巻き込んでしまうのは違う。


「あれ、おい、なんで抱き着いたままなんだ?」

「……たまにはいいじゃない、ここなら誰もいないでしょう?」

「いやぁ、でもなぁ、ああして二人がいるわけだし……」


 頭を打って幻覚を……ではなく実際は離れずに隠れていただけだ、俺が分かっているように向こうも分かっていたというだけの話だった。


「はあ~結局吉原先輩が頑張っているだけか」

「はあ~諒平君なんていつもこうだよ」

「な? いるだろ?」

「きゃあああ!?」

「「「うわっ」」」


 結局、夕貴が走り去るということでこの件は終わった。

 反省した感じのない二人には頭に軽く攻撃を仕掛けておいたのだった。

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