31~40
檻の中、空の青
蝶を捕まえた。手の中で羽ばたくそれに、何とも言えない幸福感を得る。「手を広げなさい」母が後ろからそっと言う。嫌だ、放したくない。蝶の羽ばたきが弱くなる。「外に出してあげなくちゃ」母の影が私に重なる。手を開けば蝶は弱々しく空へと帰る。「いい子ね」私は結局、いい子の檻から出られない。
暗い炎
「いつだ?」薄暗い路地で彼は聞く。「まだよ」答えると彼が舌打ちする。「待てない、今すぐ殺すべきだ」「だめよ。それに目的は殺すことではない。生きるか死ぬかは向こうが選ぶこと」そう、私のうけた屈辱を億倍にして、相手が殺してくれと懇願するのが望み。しかし。「私も我慢できそうにないわね」
愛は藍より暗い色
藍より暗い空の上、遠く輝く一等星。僕は貴方になりたかった、彼の星になりたかった。今はもう叶わない、彼には愛する人がいる。ずっと傍にいた僕より、もっと大事な愛しい人。お星さんお星さん、遠く輝く一等星。僕は貴方になれません、僕は彼の影になる。どんなに彼が遠くても、心はずっと傍にいる。
報われない愛、愛、愛
愛してる愛してる愛してる。呟けばいつか本当になると思ってた。「愛してる」本当は大嫌いだった。でも私のことを大切にしてくれる、一番に想ってくれてる。私は大嫌いだった、なのに。「愛してる」こんな私に、こんなにも尽くしてくれる。報われない愛なんて悲しすぎる。今日も私は呟く。「愛してる」
踊る呼び声
彼女は笑う。その声はきゃらきゃらと響いて、瞳は輝いていた。「ねえ、笑いましょう。貴方も一緒に」そう言って私の手をとる。彼女の白い手は血に塗れていた。「見てみなさい、こんなに楽しいことはないわ」足元に転がるのは彼女の父親だった。だらだらと血を流し、冷えていく。「ねえ、笑いましょう」
最愛の再生
どろり、溶けたように崩れていく彼女。体の肉がぼとりと落ちて白い骨が見えていた。ぐちゃり、彼女の頭蓋骨が肉に沈む。私はその肉と骨を丁寧により分け、白い骨を床に組み立てる。彼女の隣にもう一人、女が眠っている。その女から肉を削ぎ、彼女の骨に移す。今度こそ、私を拒絶しない彼女を作りたい。
ラジオドールの日常
私はラジオドール。近隣の皆様に今日の天気、交通のお知らせ、恋占いまで幅広くお伝えし、ときには歌い、楽器を奏でることもございます。私の定位置は喫茶店に入って一番近くの席。木製の丸椅子にマスターが背もたれをつけてくださいました。私はラジオドール。皆様の笑顔のため、今日も私は歌います。
ラジオドールの悲恋
私はラジオドール。今日のお知らせを聞きに、喫茶店の近隣に住む方々がやってきます。その中に彼を見つける。ああ、なんて豊かな金の髪。晴天のようなその瞳。言葉は甘いチョコレート。その全てが私の心を揺らします。けれど私はラジオドール。せめて貴方が健やかでありますよう、今日も私は歌います。
退屈しないでティーカップ
机の上でティーカップが踊っている。「ホットミルク、そんなに美味しかった?」聞けば一層、激しく踊る。机から落ちそうなのをそっと支える。「蜂蜜いれても美味しいよ」そう言えば驚いたようにカップは跳ねる。牛乳を温め、蜂蜜をいれる。カップに注げばすぐに飲みこまれ、また楽し気に跳ねまわった。
戯れる影
夜、まばらな街灯の元で少女はボールを投げる。ぽおん。影を置き去りにし、ボールが跳ね上がる。残された影は薄くなり、ボールが落ちれば濃くはっきりとなる。転々と行くボール。それに影はついて行かなかった。自分とボールの影を置き去りに、少女は去っていく。残った影は夜明けの光に溶けていった。
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