41~50
テーマ「静かな夜だった」
夏を閉じる雪
静かな夜だった。息が白く凍っていく。空は星が瞬いて、ずいぶん田舎に来たものだと呟く。「それでも星は見えづらい方ですよ。ほら、電灯も明るいですし」隣の女が喧しい。女の吐く息は冷たいのか、それとも霊は息をしないのか。夏服の女は笑っている。死体を探してほしいなんて依頼、断ればよかった。
暗い夜道の甘い罠
冷たい風が吹く。街灯が照らす円の中を通り過ぎる。私の足音以外なにもない、静かな夜だった。また冷たい風が私に向かう。襟から入り込む冷気に舌を打つ。こんな寒い中、わざわざ首元を晒して誘っているのに、奴は一向に現れない。吸血鬼、人間の血を吸う怪物。私に牙を立てた時、それが貴様の最期だ。
溶かされて、愛
甘く、甘く溶かされていく。舌の上のチョコレートのように。コーヒーに落とされた角砂糖のように。彼女の肌に触れれば伝わる体温が私を溶かす。彼女の静かな呼吸が響く、静かな夜だった。彼女の体温だけが私の拠り所となる。彼女が目を覚ます。「あ、貴方、だれ?」その視線は困惑と嫌悪に満ちていた。
君を待つ、君が来る
放課後、埃臭い空き教室で机の下に入る。しばらくすると教室の戸が開き、彼が来る。「君はここが好きだね。何かあればすぐここに来る」それきり何も言わず、彼は手を差し伸べる。彼がいると私の心は温まり、霧が晴れていく。彼の手をとり立ち上がる。日は沈み星が光りだす。彼と二人、静かな夜だった。
.
夜を行く群れ
「公衆電話」「はい」「あったろ」「最近見ませんね」「どこに行ったか気にならないか」そう言って彼は窓に目をやる。「昔、眠れなくって外を見てたんだ。静かな夜だったよ。すると来たんだ、公衆電話が。大通りのあっちから、列をなして」彼は窓から目を離さない。「あいつら、どこ行ったんだろうな」
赤いナイフと君の声
彼女の持つナイフが。「あ、貴方が」白熱灯の明かりに照らされ、赤く濡れた刃が輝く。「貴方が全部悪いんだから」血の流れる感触が妙に温かく、そして冷たい。「貴方が私を見ないから!」彼女の悲鳴が部屋に響く。窓の外で雪が降るのが見えた。彼女の声が遠のく。もう何も聞こえない、静かな夜だった。
殺意の目撃者
「静かな夜だったぜ、あんときはよ」煙草の煙とともに、制服を着たまま息子は話しだす。「夏ってよ、虫がうるせえじゃん。冬はなんにも聞こえなくってよ、その分よく覚えてるぜ」溜まった灰を弾き、灰皿で火を消し潰す。「ガキの頃、おふくろの首絞めて殺してたのあんただろ」その目は鈍く光っていた。
そして日は昇る
静かな夜だったわ。ううん、もう夜明けだったかしら。夜、家を抜け出し彼と公園で話す。そんなたいした話はしないわ、ただ私が彼の顔を見たいだけ。「僕と話して楽しいかい」「ええ、楽しいわ」「そうかい」彼は目深に帽子を下げる。そのとき彼の耳がとっても赤いが見えて、私はますます楽しくなった。
許しはしないわ、悪い人
許してあげない。「本当に?」ええ本当よ、許してあげない。「悲しいな」そんな顔して、許してあげない。「静かな夜だったね、覚えてる?」聞こえないわ、許してあげない。「温めた牛乳、二人で飲んで」覚えてないわ、許してあげない。「僕ら、幸せだったのに」そんなの貴方だけ、私は貴方を許さない。
夜を交えて熱視線
「貴方、綺麗ね」寮に帰ろうと思っていた時、軽く響く声の主と目が合った。学園一と囁かれる美貌が私を見ている。「貴方、夜が近づくとますます綺麗になるわ」彼女の白い手が私の手と重なる。「ねえ、私の部屋に来てよ。夜の貴方を見たいわ」静かな夜だったはずなのに、私の心臓ばかりがうるさかった。
※覚書
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます