21~30
飴色吐息
「もし感情に味があるなら、なんだと思う?」彼の言葉はいつも唐突だった。「ほら、喜怒哀楽から」喜びは甘いのだろう。楽しいは炭酸みたいな弾ける感じ。悲しみは檸檬のように酸いのだろう。怒りは、辛い感覚がある。なんとなく。「恋は?」恋、それはきっと、「檸檬、だと思う。」僕の愛は届かない。
心はいつも雨降り
彼女は天気を操る力を持っている。人のために畑に雨を降らせたり、子供達が遠足に行くと言えばその日は一日晴れていた。この力は彼女の心情に左右されるらしく、僕と会う日は必ず雨だった。それが僕は悲しかったのだけれど。「あら私、雨が一番好きよ。雨は虹を呼ぶもの」彼女が笑う。今日も虹が出る。
読心講座ステップ1
人の心が読めたらどんなに素晴らしいことなんだろう。そうすれば誰も傷つけることなく生きていける。そう思うたび、頭の中に声が響く。「自分のことも理解できないのに?」本当に知りたいのは他人の心なんかじゃなくって自分のことなのかもしれない。傷つけることじゃなく、傷つくのを恐れているのだ。
読心講座ステップ1725
私は全てを理解した。天も地も春から冬まで、そこに至る全ての人類の思考を。全てが私の物になっていく。だが知りたい。もっと知りたい。宇宙の果てに何が見えるのか。人の魂はどこから来るのか。知る者を探さなくては。私の心が地球を覆う。人類の英知が私に集約されていく。なんて素晴しいんだろう。
死に射貫かれる
人の死を初めて見た。長い坂の上にある学校に、足を引きずりながら通う。やっと校舎が見えた。そう思った瞬間、屋上から彼女が落ちるのを見た。長い髪を広げ、黒い制服と一体になり落ちていく。その瞬間、世界がとてもゆっくりになった。この距離から分かるはずもないのに、彼女と目があった気がした。
枯れぬ君
満開の花弁のまま、永遠に終わらない花を探していた。それさえあれば彼女との関係も永遠に続いていくと信じていた。「あなた馬鹿ね。薔薇がいつか枯れるからって、薔薇を愛さない理由にならないでしょう?」柔らかな蕾に唇を寄せ笑うその姿はすっかり年老いたのに、出会った日から変わらず美しかった。
愛は底抜け
愛情を、物でしか表現できない人だった。オパールの輝く指輪、トルコ石の髪飾り、指先を彩る鮮やかな文様。すべて彼のお金で、すべて私のために贈られたものだった。「これからも好きでいてくれる?」贈り物をするたび、彼は繰り返す。いつだって愛してる、でもどんなお返しをしても彼は信じなかった。
心から願う
お願い、幸せになって。それが彼女の最期だった。私の手を振り切って、彼女は地獄の門へと身を投げた。涙がどんどん頬を伝う。神様、彼女が何をしたというのですか。溢れる涙は止まらない。神様、なぜ彼女は地獄へと向かうのですか。彼女が闇に包まれる。神様、私は彼女なしに幸せになれません。神様。
ない物ねだりで嫌い嫌い
道を行く人々。カフェの女性。電話で話す男性。みんなどこか帰る場所があって、そこに待つ人がいるのだろうか。噴水が日の光をあびて煌めく。私はなにをしているんだろう。学校にも行かず、制服を家に置き去りにし、図書館の窓から外を見る。私にはない世界。それに妬ましさを感じる自分が嫌いだった。
撥ねる石、届かぬ声
「なんでそんなに上手なの?」薄く丸い石が水の上をはねて対岸に届く。「練習したから」「私も練習したのよ、本も読んだわ」「何回投げた」「10回。一つはねただけ」「なんでできるまで練習しない」「10回もやれば分かるもの」「そう思ってるうちなら一生無理だな」カツン。また石が対岸に届いた。
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