惨殺代行人

@HukurouGsan_dayo

第1話 雨夜さくら

世の中には惨殺代行人と呼ばれる表向きには存在しない職業がある。都市伝説程度にしか思われていないが確かに存在している。

惨殺代行人は特別な仕事であり、就職する条件は「人間を辞める事」。ただそれだけである。


朝日が登り、古い屋敷の一室に一筋の光が差し込む。光は棺桶を照らし、鈍い音を立てながら棺桶が開いた。

「ふわぁ、吸血鬼だけど早起きする私って偉ーい」

そう言いながら眠そうにしている銀髪の長い髪が特徴的な女性が棺桶から起き上がった。

彼女は洗面台へと向かって紫色の鋭い目で鏡を呆然と見ながらギザギザの歯を磨きを始めた。

彼女の名前は「雨夜さくら」。惨殺代行人にして吸血鬼である。彼女はいつも通りに黒スーツ姿に着替え、お気に入りのブーツを履いた。

紫色の日傘をさして扉を開け、門のポストへと向かう。ポストを開けると一通の紙切れが入っていた。

彼女はそれに目を通す。

“ざんさつだいこうにんさんへ

 ぼくの、ちちを

 ころしてください”

「子供っぽい字だなぁ。しかも私のとこに手紙が届くって事は相当の殺意ですわねぇ...よし!早速依頼主の元へ向かおうとしますかぁ!」

彼女がそう言って右腕の指を鳴らす。すると彼女の身体はみるみる影になって消えた。


その頃、古いアパートの一室である父親が自分の子供を殴っていた。何度も何度も。白髪の少年は殴られ続け、歯が抜けて身体中にはアザができていた。

ボロボロになって痩せこけ、朦朧とした意識の中で少年の左目が熱くなった。

「あああああああああ」

少年は叫んだ。父親のタバコの火で左目を焼かれ、大量の涙を流した。父親は

「あの、ゴミ女...こんなゴミを残していきやがって...まぁストレス発散には丁度いいけどなー」

父親は更に追い討ちをかけようとした。少年は死を実感した。その時少年の目に異様な光景が映った。父親の後ろに銀髪の女性が立っていた。

「ゴミはあんただろ」

その言葉と共に彼女は左手の拳を固めて父親を殴り飛ばした。身体がめり込んで父親は気絶した。

彼女はふと倒れている少年に慌てて駆け寄った。

「あわわわ、大変!なんて酷い事を...」

少年の命は今にも消えかけていた。彼女は唾を飲んで一言

「ごめん」

そう言って少年の首へと噛みついた。流れ出る血。だが彼女が血を飲んでいると少年の身体はみるみるアザが消え、顔色も良くなっていた。


少年が目を覚ますと知らない部屋にいた。温かいベットに薄暗い部屋。そして黒いカーテン。

少年が状況を飲み込めずにいると扉がゆっくりと開いた。咄嗟に少年は怯える様に布団の中へと隠れた。

「怖がらないで!ごめんね、あの時は助ける為にはこうするしか....」

恐る恐る少年が布団から出てくる。そこには先程父親を殴り飛ばした銀髪の女性が立っていた。

「初めまして、この手紙くれたのは君だよね?私は雨夜さくら。吸血鬼だけど、君を襲ったりしないから安心しなさい!」

さくらは軽く自己紹介をして、口に生えた牙を見せた。少年は

「あの、ここは何処ですか?」

そう質問するとさくらが

「私の家!ところで、少年!君は実は命の危機で助けるには...えっと...その....」

彼女が戸惑いながら、1度頷くと土下座した。そして頭が壊れてしまう様な勢いで頭を下げた。床にぶつかって鈍い音が少年に聞こえた。

「ごめんなさい!君を吸血鬼にして助けました!依頼主の君を吸血鬼にしてしまってごめん!」

少年は戸惑った。自分に頭を下げた人間を初めて見たから。全然顔を上げてくれないので少年は

「あの..いえ..その全然...むしろ助けてくれてありがとう」

さくらが顔を上げる。でこから大量の血が流れ出ていた。彼女が少し拭き取ると傷口は完全に治っていた。彼女は

「いやいや、あと1つ確認しておきたいけど、私達「惨殺代行人」には強い気持ちを文章にして送らないとポストに来ないから....この紙切れでも私のポストにあったって事は、あの父親は私が処分しちゃっていいのよね?」

少年は少し戸惑ったが静かにこくりと頷いた。

彼女は了承してまた扉から部屋から出ようとした。そして振り返って

「君はこの部屋にいるんだ。いいね?」

鋭い目つきで強く少年に言った。少年は静かにうなづいた。彼女は笑顔で部屋を後にした。


薄暗い地下の部屋に彼女は入った。血生臭い匂いと、異質な雰囲気。中央には口枷をはめられた男性が騒いでいた。彼女は拘束されている男の口枷を強引に外した。男は

「お前!なんだこれは!こんな事していいと思ってんのか?」

彼女は無言で男の溝に打撃を与えた。男が吐き散らかす。彼女の服に吐瀉物がかかると、彼女は嫌な顔をして男の髪を掴んで睨みつけた。

「あぁ“していいと思ってる”わよ。私は惨殺代行人だもの」

少し彼女は離れて手に持ったリモコンのスイッチを押す。すると男の拘束が解かれた。彼女は不気味な笑みを浮かべて

「でも、あなたは運がいいわ。私に勝ったらここを出て行っていいわ」

そして彼女は男に向けて中指を立てる。

「カモ〜ン♪」

男を煽り、怒りで真っ赤になった顔で男が殴りかかって来た。

「嘗めてんじゃね....」

男が気づいた時には首に彼女の貫手が刺さっていた。吹き飛ばされ、首を押さえて男が悶える。

彼女は不気味な笑顔を浮かべたまま腹を蹴り、転がして馬乗りになった。男は涙を流しながら吐血をし、顔がグシャグシャになっていた。彼女は馬乗りの状態で男の両腕を掴み力を徐々に込める。

「やめろぉ...やめてくれぇ!」

男は情けなく泣きじゃくりながら彼女に懇願した。だが彼女は

「やだ☆」

そのまま両腕をへし折った。男の絶叫が部屋に響く。両腕は使い物にならないくらいに変形し、骨が飛び出していた。男は満身創痍な状態になっていた。馬乗りから彼女は体を起こして、男の腹の溝を踏みつける。男は吐き出して泡を吹いた。

「改めまして、私は惨殺代行人ですの。私以外もいますわよ〜。炎で炙ったり、ひたすら刺したり...

私は「圧倒的な力による絶望」をテーマに惨殺しているのですわぁ」

彼女が仕事内容について説明しているが男はひぃひぃ泣きじゃくったまま。

さくらは無言でポケットからタバコを取り出す。

口に咥えてタバコを上下に動かしながら

「火をつけろ、クソ男」

男は怯えながら

「無理...です..だって腕が..」

彼女は不機嫌そうな顔でポケットを漁ってライターを取り出す。そしてタバコに火をつけた。煙を男の顔に向かって吐き

「気の利かないやつだな、あれ?灰皿どこだっけぇ?」

キョロキョロと顔を動かして倒れている男を見つけて不気味に笑う。

「あ!なんだ!ここにあるじゃん!2つも!」

彼女はタバコの火を男の左目に押し当てた。男の叫び声が部屋に響き渡る。彼女は高笑いしながら

「キャキャキャキャ!痛いですわよね!熱いですわよね!苦しいですわよね!これをお前は、自分の子供にしてんだよ!恥を知れ!下等生物がっ!」

タバコの火が消え、捨てると男の首を掴んで持ち上げた。

「もう...許し...て...」

その言葉を聞いた瞬間、彼女の中で何かが切れた。右腕を大きく振りかぶり男の顔面を粉砕した。中の骨や肉の破片が飛び散る。

彼女は脳の一部の肉を拾って

「あーあ。ついキレちゃった....もうちょっと痛ぶらないといけなかったのに...私の馬鹿!」

手に持った脳の肉に噛み付いて食い始めた。

「やっぱり罪人の脳はゴミみたいな味がするけど結構イケるわね」

そう言いながら部屋を後にしようと振り返った時に手から肉を落とした。


扉の前には恐怖に怯えた顔を浮かべた少年が立っていた。彼女は焦った。そして震えながら

「いつから...見ていたの...?」

少年は

「お父さんの腕を折った所から....」

彼は続けて

「その、お姉さんのお手伝いがしたくて....寝てばっかじゃ悪いと思って...ごっ..ごめんなさい!殴らないで!何でもする!何でもします!」

少年は怯えながら両手で顔を覆った。さくらは静かに近づき、少年の頭に手を置いた。

「大丈夫、怒ったりしない。怖い所見せてごめんね。でも、これが私の仕事なの。絶対に逃れることのできない仕事なのよ...」

さくらは撫でた後に少年にハグをした。少年は血生臭い彼女だったが確かに“人間”の温もりを感じた。

少年は静かに

「おっ、お姉さん...僕....お姉さんの仕事...手伝いたい...僕もお姉さんと同じ体なら、お姉さんが僕を助けてくれたから...僕がお姉さんを守りたい...!」

辿々しく言ったが、彼女は少し離れて真剣な目で彼に言った。

「私達の仕事は君が書いた通り「惨殺代行人」。人間じゃ手に負えない屑を「惨殺」して後悔の中で殺して差し上げるのよ...さぁ本当に覚悟があるなら...私の手を取りなさい」

彼女はそっと少年に手を差し伸べた。少年は迷わずに手を取った。そして彼女の目を見つめて

「僕は...僕みたいな人達を助けたい...お姉さんがそうしてくれた様に...」

その言葉を聞いてさくらは優しく頷いた。

「そういえば名前聞いてなかったわね。改めて私は雨夜さくら。君は?」

少年は堪える。

「僕はハルト..上は分かんないけど...」

彼女はニコリと笑って返した。

「よろしくね、ハルト君」

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