夏
土地神
「こんにちは~」
まゆりが配達にやって来る。
「毎日暑いですね~」
「そうだね」
雨月が配達物を受け取る。
「ところで、私の配達先で雨が降らなくて困ってる村があるんですけど、白夜さん何か御祈祷とかできないですかね?」
「どこの村?」
まゆりが村の住所を雨月のスマホに共有する。
「白夜さま、行ってみる?」
「ああ」
白夜、雨月、翼がバスに乗っている。
終点の目的地まで着き、バスを降りる。
「今日はもう帰りのバスがないから村に泊まるしかないですね」
雨月が時刻表を見て言う。
「ああ」
バスは二時間に一本、夕方には終わりの田舎であった。
「ここから徒歩15分くらいだそうです」
雨月がスマホの地図アプリと格闘しながら村まで案内する。
村に着いて事情を説明すると村長の家に通される。
「わざわざ、こんな村にお越しいただき誠にありがとうございます」
「いえいえ」
「それで、雨が降らないと」
「ええ」
「どうして雨が降らないんだろう」
「この村以外には普通に雨が降るんです。ここだけ見えない壁に覆われているように雨が降らないのです」
「そうか。何か心当たりは?」
「それが全く」
「今日はもう遅い。明日、村の中を見せてもらおうか」
「はい、よろしくお願いします」
次の日。
白夜達は朝食を食べてから、すぐ作業に取りかかった。
まず村を見回る。何か変わったものはないか、村の住民にも聞く。
「白夜~、これ何だろう」
翼が見つけたのは朽ち果てた祠であった。スプレー缶で落書きまでされている。
「これか……」
白夜はしゃがんで祠を出来る限り元の状態に戻そうと試みる。
「おい、この祠について知っている者はいるか」
村長達は首を振る。
村の誰かが言った。
「確か俺のばあさんが大事に掃除してるのを見たぞ」
「その、ばあさんは?」
「もう2年前に死んじまったけど」
「……なるほど」
白夜が言うには、この祠には村の土地神が祀られていた。2年前までは、ばあさんが手入れをしていたが、ばあさんが死んでからはそれを引き継ぐ者はいなかった。それで朽ち果て、挙句の果てに近所の悪ガキに落書きまでされた、とのことだ。
「つまりは土地神を怒らせたという訳だ」
「で、どうするの、白夜」
「土地神の怒りを鎮めるしかあるまい」
白夜は御神体と思われる木片を取り出し、呪をかけて清める。
次に村の大工に新しい祠を作らせた。そして、その中に御神体を再び戻した。
「これで大丈夫なの?」
「相手は神だぞ。どうなるかは知らん」
白夜は神主装束に着替えると「地鎮祭をやるぞ」と言った。
白夜は大工に命じて簡単な祭壇を作らせ、米や酒など神への貢ぎ物を置いた。
白夜の後ろには雨月や翼の他、村人たちが祈るようにしていた。
白夜が祝詞を唱え始める。
いくらか時間が経った頃だろうか、村人の頬にぽつりと水が垂れた。
それは次第に大粒の雨になって降り注いだ。
「ありがとうございます」
「これからは祠の手入れを怠らないことだ」
「はい! 分かりました」
後日、化野邸。
「で、雨がざ~~~んって降ってきたの!」
「はあ、良かった~」
まゆりと翼が信玄餅を食いながら、縁側で話している。
「でも良かったねえ、けっこう物分かりの良い神様で」
「悪いとどうなるの?」
「場合によっては神と相対せねばならぬこともある」
「白夜と神様、どっちが強いの?」
白夜が横から信玄餅を摘みながら答える。
「そうなったら何としてでも勝つがな」
「わ~、頼もしい~」
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