追憶   ~平安編~

 男が横になって惰眠を貪っていた。

「晴明、おい、晴明(はるあきら)」

 呼びかけた男と「晴明」と呼ばれた男は全く同じ姿をしていた。

「起きろ、晴明」

 男は溜め息を吐いて、額に札を付ける。すると、男の姿がみるみる変わっていく。黄金色の長髪、頭には狐の耳が生えていた。

「おい「起きておるよ」

「今月で何度目だ」

「さあ、五度目か?」

「いや、六度目だ」

「しっかり数えておるのだな、白夜よ」

「面倒事を私に押し付けおって……」

「良いだろう、今ではお前の方が都のことについて詳しい。で、今日は何だった?」

「物忌み日の占いだ」

「ふうん」

「それと、近日中に百鬼夜行が起こる。今夜から見回りに出るぞ」

「分かった」


 数日後、丑三つ時。

 牛車が動いている。その中には愛人の元へ通う中納言が乗っている。

 その牛車の行き先には妖怪の行列が見える。

「ひえっ」

 牛車の運転手が悲鳴を上げる。

「人だ、人の声だ」

 妖怪の一部が牛車の方へ流れる。

 運転手が逃げ出す。中の人間も怪しく思って、御簾を上げると妖怪が見えた。

「ひっ」

 中納言は逃げようとしたが、怖さで足がすくんで動けない。

 中納言に妖怪の手が伸びる。


「祓いたまえ、急々如律令」


 呪符が妖怪の頭に貼られ、そこから妖怪の身体が裂けていく。

「ぎゃああああ」

「全く、百鬼夜行が起こると言っておるのに、出歩くとは」

「話なんて聞いていなかったのだろうさ、女のケツばかり追いかけていて」

「ひいいいい」

 中納言は裂けた妖怪や白夜の黄金に輝く髪を見て悲鳴を上げた。

「おい、助けてやったのだぞ」

「気にするな、白夜。……貴様も、今日は家に帰れ。あちらの方角からなら百鬼夜行とも、かち合わないだろう」

「わ、分かりました」

 中納言達が帰った後、晴明と白夜は百鬼夜行を遠目で見ながら、阿呆な貴族が出くわさないように見回った。


「毎度のことながら疲れるな」

「さあ白夜、もう百鬼夜行は去ったのだから、今日は俺の家で無礼講と行こうではないか」

「飲むのか」

「飲むぞ」

 白夜は「はあ」と大きな溜め息を吐いた。



 これは追憶。

 後に最強の陰陽師と言う化け狐の物語。



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