フクシュー

「翼の元飼い主さんに偶然会ってしまったのね」

 雨月は翼を布団に寝かせ、その横で、弥生と白夜に今日の出来事を話した。

「奴の記憶を呼び起こすには良いのではないか」

「でも、ショック療法過ぎます」

「ふん」

「とりあえず、翼が起きてから、どうするか決めよう」

「そうだな」


 数時間後、翼が目を覚ました。

「全て思い出したよ」

「そうか」

「僕は、飼い主に、のりかに、捨てられたんだね」

「そうだ」

 白夜が次の言葉を言う間に、翼から黒いオーラが発せられる。

「自分を見失うな。どす黒い感情に支配されるな」

「お前に僕の気持ちなんか分かる訳ない! 人間に飼われたこともないくせに! 大好きな人に裏切られた経験のない白夜に分かるもんか!」

 翼は外に飛び出して行った。

「追いましょう、白夜様」

「ああ」

 翼は階段を飛び降りながら進んで行く。

「恐らく、のりかの所に向かってるんじゃないかな」

 神社を出た所で翼に追いついた。

「翼、戻っておいで」

「嫌だ! のりかの元へ行く!」

「行ってどうするというのだ? 捨てられたのに」

「白夜様、煽ってはダメです」

「僕は……、僕は、のりかにフクシューする!」

 覚えたての単語を使う翼に、白夜は更に煽るようなことを言う。

「復讐? それに何の意味があるというのだ」

「でも、でも、何かしないと、僕の気が収まらない!」

「だったら、私の元にいればいい。辛い時は話くらい聞いてやる」

「う、うわあああああああああん」

 翼が涙を流しながら、白夜の胸に飛び込んで来る。

 白夜は、それを優しく受け止める。



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